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第27話 海斗

早朝にチェックアウトして、ホテルのロビーで春と落ち合いそのまま空港に行く。今日は関西での仕事はなく、このまま会社に戻るだけだ。 早朝だが関西空港は多くの人で混雑していた。プライベートで旅行に行くのだろうかそんな人たちや、海斗たちと同じようなサラリーマンの姿なども多く目立つ。今日は金曜日だから、特に空港には色んな人たちが飛行機に搭乗していると感じる。 自動チェックインを済ませて、搭乗ゲート近くのシートに春と一緒に座っていた。 搭乗口と書かれたプレートの先は、全面ガラス張りの窓になっており、外の景色が見えるようになっている。 空港だから当たり前だけど、外の景色はあらゆる飛行機が待機しているなと、考えていた。 次々とその待機中の飛行機に人を乗せて、飛び立って行く飛行機を、海斗はボケっと眺めながら、自分たちが搭乗する機体のアナウンスを待っていた。 「昨日、あれからお腹が空いたからラーメン屋を探して外に出たんだよ」 「えっ!マジで!春さんすげぇ…あれだけ食べてまだお腹いっぱいじゃなかったんですか…蓉さんと同じですよ」 隣に座る春も、いつもの厳しい顔ではなく、何となくボケっとしている。たった一日だが、やはり出張は疲れる。春もそうだろうなと感じる。 春の視線も目の前の待機している飛行機を眺めていた。そんな春から、春らしくないゆるい話をふられた。 「うん。蓉もよく食べるよな。俺はあそこまで食べないけど、ちょっと似てるところはあるのかも。で、だな、ラーメン屋を探してたんだよ。東京だと、飲んだ後はラーメンだろ?だから、関西でもラーメン屋あるかなって…そしたら、うどん屋があって、ほろ酔いの人とかが吸い込まれるように入って行くから、俺も続いて入ってみた」 「ああ…、関西のうどんって出汁?って言いますよね。俺、うどん食べたかったな。多分、蓉さんも好きそうなんですよね。関西のうどんお土産に買おうかな…」 海斗は搭乗ゲート近くのショップを目で探し始めた。関西名物を土産品とし置いてあるはずだ。蓉に買って帰ろうかなと思い立つ。 「すごく美味しかった。かすうどんってやつ食べたけど、美味かったよ。蓉と一緒に住んでるんだろ?買っていけよ。蓉だと二杯は食べれると思う。俺も買って帰ろうかな。だけどなぁ…土産だとちょっと違うのかな。お店の味と違うだろうし、俺は上手く作れる自信がないからなぁ…」 相変わらず春は外の景色を眺めながら呟いている。春はひとり暮らしなのだろうか、あまり自炊はしないような発言をしている。 「お土産でも美味しいうどんありますよ。ご紹介しましょうか」 不意に隣から声がかかったので、春と二人で驚いて振り向くと、昨日契約を結んだ会社の人がニコニコと笑顔で座っていた。名刺交換もしたので、確か…原田(はらだ)、原田という部長だと海斗は思い出した。 「原田さん!おお、偶然ですね。おはようございます。あれ?原田さん、東京に行くんですか?」 搭乗ゲートの行き先は東京と書いてある。海斗たちと同じ飛行機に乗るのだろうかと思い、海斗は原田に尋ねた。 「今日は休みを取りました。私は単身でこっちに来ているんです。自宅は東京なので今日はこれから帰るんですよ」 これに乗って、と原田が指差しているのは海斗たちと同じフライトだった。 原田はニコニコとしていて話しやすさを感じる。昨日の打ち合わせでは、そこまでではなかったはず。今日はプライベートだからなのだろうか。 「昨日は鮮やかでしたね。ぐうの音も出ないっていうところでしょうか。用意周到だし、私たちは一気にあなたのファンになってしまい、最後は釘付けでしたよ」 急に原田から仕事の話をされた。昨日の打ち合わせのことだ。海斗は少々強引だったかもしれないが、原田の感じを見ると、そう悪くもなかったのかもしれない。 「ありがとうございます。ご期待に添えるようにと準備させていただきました。これ以降にもご提案出来るように進めさせていただきます」 相手のビジネストークに合わせて、こちらもビジネストークに切り替える。 「以前はお兄様?でしたっけ…うちの担当をしていただいていたのは。私もお会いしたことがあります。私の部下がお兄様がいると安泰ですねとか、何とか言ってたけど…」 ああ、またこの話か…と海斗は内心うんざりしているが顔には出さず、ニコニコとしながら頷いて話を聞く。こんなことはもう何度もあり、ポーカーフェイスなんてお手のものだ。心の中なんて、いくらでも隠して会話をすることは出来る。上辺の会話の方がスラスラと言える自信はある。 「だけど、私はあなたがいるからこれからも御社と契約していこうと昨日思いました。本当は、どんな人が次の担当者なんだろうと、お手並み拝見だなと思ってたんですけど…いや、あっぱれでした。野村さん、野村海斗さん、あなたと知り合えて、うちの会社の担当になってくれて光栄です。ありがとうございます」 初めて名前を呼ばれた気がした。 御曹司でもなく、後継者の弟でもなく、兄の名前でもなく、一個人として、原田が話をしてくれた気がして海斗は驚き、ポーカーフェイスが崩れてしまった。 「海斗っ!ほら、お土産は?」 返事をせずポケッと、原田を見つめてしまった海斗に春が小さく声をかけてくれた。 「ああ、お土産見に行きましょう。美味しいうどんを野村さんに紹介しますよ」 「ありがとうございます。是非、お願いします」 原田と搭乗ゲート近くのショップに行く。「この冷凍のうどんが美味しいですよ」と教えてくれたので、二つ購入した。 うどんを買い終わると、搭乗のアナウンスが始まっていた。 「原田さん、教えてくれてありがとうございます。今夜、このうどんを早速作ってみようかな…仕事の方は、改めてご連絡いたします。今日はプライベートのところ、ありがとうございました」 「では、また。野村さん、また関西に来る時はご連絡ください。その時は、うどんの美味しいお店をご案内しますので」 飛行機に搭乗し、東京まで帰る。 東京まで帰れば蓉にも会える。 ポーカーフェイスが崩れるのも、くすぐったいが案外悪くないと海斗は思っていた。

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