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第32話 海斗

海斗の発案から始まったデリカテッセンの展開は、会社の事業拡大の一環として、営業第二部の全員で総力を挙げて取り組んでいる。 都内の数店舗でスタートした企画だが、他店舗からの依頼が相次ぎ、今ではほぼ全店舗で新しいデリを展開していた。 売り上げは想像をはるかに超え、右肩上がりが止まらない勢いである。 上手くいった要因は、業務提携をした下野の会社の活躍が、大きかった。 和食、フレンチ、イタリアンなど、惣菜のバリエーションが豊富であり、今までのデリとは違った新しい惣菜に、多くの人が興味を示していた。 また、パックに色々な種類の惣菜を詰め放題ができる!を、売りとしていたので、ランチには弁当のようになると消費者からは好評である。 春がリーダーとして所属しているマーケティング部と、商品について何度も打ち合わせを重ねている。 今日は下野も交えての打ち合わせだった。 「営業部からの報告もあるように、デリの展開は非常に好調です。次は、弊社オリジナル商品であるドレッシングを使ったサラダやマリネなどの展開をお願いしたい。売れ筋のオリーブオイルなど、うちの商品を使った惣菜の展開を希望します」 マーケティング部の春から、今後の商品展開に対する依頼が入った。 「わかりました。すぐに準備しましょう。 デリの惣菜に、御社のオリジナル商品を使っていると全面に出せば、そちらの売り上げにも繋がりますからね。調理に使うのは、オリジナル商品でも、販売強化したい商品でも構いません。いずれも使用して調理するように伝えます。うちの料理人たちも、新しい取り組みだと言って、非常に楽しんでくれてますよ。実際、レストラン経営の方にも影響が出てきているようで、売り上げが、ぐんと伸びたと言ってました。これは、やはりメディアへの戦略が大きかったですよね」 下野が言うメディアへの戦略とは、先週から海斗が全て引き受けているものだ。テレビ、新聞、インターネットなど複数のメディアを使って、新しいデリの展開の宣伝をしていた。 「そうですね。やはりプロモーションを行うと反響は大きいですからね。今では逆に取材したいって連絡が相次いでいて、こちらからというより、先方からの連絡の方が多くなっています。それだけ世間から注目されていると感じます。なっ、海斗。海斗が頑張って出てくれてるんだもんな」 と、営業第二部の部長から話を振られ、打ち合わせの空気が一気に緩んだ。 「今がチャンスなんで、出来る限りの媒体に出させてもらってます。デリカテッセンの事業が上手くいけば、他の商品購入にも繋がりますし、会社全体の売り上げも底上げになると思っています。だから、まぁ…インタビューとかやりますよ。下野さんも俺と一緒にインタビュー受けたりしてるんですけど、知ってます?下野さんめっちゃインタビュー慣れしてるんですよ。俺なんて緊張しっぱなしなのに、下野さんはジョークを言ったりして、場を和ませてるんです」 最近は下野と一緒のインタビューが多かった。その内容を海斗が説明し始める。 元々同じ会社で働いていた下野は、この打ち合わせに参加しているメンバー全員と面識はあり、それぞれと仲良くしていた。 なので、ビジネストークも肝心なところだけで、それ以外は、社内の打ち合わせのように進んでいく。 「へぇ!さすが、デリカテッセンの王は違うね。まぁ、そっか下野はその辺上手そうだもんな。昔も場を和ませて契約に繋げるのとかあったよなぁ…モテるってこんな奴なんだろうなって思ってたよ、俺。そうだな、昔からモテてたしなぁ…今もモテそうだもんな…羨ましいよなぁ」 部長の独り言のような言葉から「へぇ〜」とか「だよなぁ」とか、皆口々に感心したり、下野との昔を思い出したりしている。 「いやいや、俺も緊張しますよ?インタビューなんで。それにモテるっていったら海斗がモテてます。インタビュー側のお姉ちゃんたちから声をかけられてるもんな。なっ、海斗」 下野が自分の話題から、海斗の話題に上書きをしてきた。ニヤニヤと笑ってる下野の顔が意地悪だ。 「あれは違いますよ、モテてるとかじゃないです。俺は揶揄われてるだけなんですよ。それを言ったら、下野さんの方が声かけられて、色々渡されてるの知ってるんだからね、俺は」 おおーっとみんなの声が上がる。「やはりこの男健在だ」と部長が呟いていた。 下野と一緒にインタビューを受けていると「次の約束をしたい」とかなんとか、下野が言い寄られているのを何度か目にしたことがあった。いつもやんわりと断っているが、モテるなぁと海斗は思って見ていた。 「もういいですか!これ以上仕事の話がなければ、今日の打ち合わせは終了です」 春が怒り口調で、世間話を終了させた。仕事の話からかなり脱線してしまった。春が怒るのも当然である。 すいません…と、海斗が小声で言い仕切り直した。 「レストランの味をデリカテッセンに展開したこの企画は、モンジュフーズマーケットのデリという独自の位置付けとなったと思っています。更には、健康視点から開発が進んでいる自社オリジナル商品にも絡むことができているので、大きく売り上げに繋がるでしょう。再来週には、経営企画部を交えて、中間報告があります。それまでに、今できることやっておきましょう」 海斗が最後に話を締めて、打ち合わせは終了となった。

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