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第41話 海斗

歯止めがきかず、ムキになってしまったキッカケは、蓉の自宅待機の話だった。 さっき陸翔に蒸し返されてイラっとし、らしくない態度を取ってしまった。 蓉が巻き込まれた社内のつまんない話は、 理不尽にも蓉を自宅待機へと追いやった結果となった。 会社が正しい判断をしなかったために、その後も不幸は連鎖していると思われる。 海斗が気がつかなかっただけで、蓉と同じような処置をされた人は、過去にもいたのだろうか。 父の顔色を気にしてばかりの人がたくさんいるとも感じ、父の機嫌イコール陸翔の機嫌となり、陸翔の顔色を気にする人が増えてきている。今では海斗にも擦り寄ってくる人もいる。 それを淡々とここにいる二人に伝えた。家族でもあり、同じ会社に所属している二人にだ。 会社は事業を拡大し好調である。とはいえ別の意味で、危機的状況となっているんじゃないかと。 海斗の口から出た言葉は止まらなかった。 「だからさ…自分のやってきたことを棚に上げたり、その場しのぎで取り繕うのは、恥ずかしい行為だって言ってんだよ。そろそろ自分の行動に責任を取れるようにしなよ。陸翔の顔色や、後ろにいる父さんの顔色を気にする人たちがいるんだから…その人たちが、変に気を回しちゃうんだよ。陸翔を庇おうとして。配慮っていう便利な言葉を使ったりするんだよ」 「そんなの…別に、俺が頼んだわけじゃないし…俺だってわかんねぇよ。蓉が自宅待機した時だって、よくわかんなかったし。どうしたらよかったのかって…」 陸翔が頼んでいるわけではないのは、もちろんわかっている。勝手に気を回してしまう人たちがいるんだろう。陸翔と父が不快な気持ちにならないようにと。 蓉の時も、下野の時も同じような理由だ。 誰かが気を回して、人事部に相談して揉めた相手を異動させている。物理的に離すことで、浅はかにも問題解決できたとでも思っているのだろう。 正しいことを発言した者が、頑張ってきた仕事を取り上げられ、何故苦しまなければならないのだろうか。海斗はそう考えてきた。 「いや、陸翔…疑問に思えよ。頑張って仕事をしてきた人が、突然そのポジションを外された気持ちってわかる?それを社内の他の人たちはみんな見てる。だから不安な声が上がってる。陸翔は自分でやってきたことわかってんの?問題の種を撒いてるんだよ」 こんな話、今まで陸翔にしたことがなかった。そう思いながら海斗は陸翔に伝える。 「じゃあ、どうしたらいいんだよ。俺は何をすればいいんだ?お前のお荷物にならなければいいのか?」 「だから、自分に責任を持って、もっと考えろって!陸翔のやってることも、言ってるこもどれもこれも中途半端だ。陸翔は、これからの人たちのこと考えたことない?周りの人たちのこと。俺は、あるよ。最近は特に考えてる」 陸翔は途中声を荒げていたが、淡々と喋る海斗をジッと見ている。 ここ最近はずっとこのことで、モヤモヤとしていた。 本当は、自分自身にイライラとしているんだと海斗は感じている。 「海斗…社員を不安な気持ちにさせてしまったのは俺の問題だ。気がつくのが遅く、今の状況を作ったのはよくない。すまなかった。これから回復させていくつもりだ。やり直しに遅いということはないと思っている。だけど海斗、教えてくれ。どんなふうに考えているんだ?会社の、これからの人たちのことを考えてるんだろ?」 静かな声で父が間に入り、海斗は問われた。ずっと黙って聞いていた父が口を開き、海斗に質問を投げかけた。 「俺は…」覚悟を決めている。 「俺は、会社の中に健全な道を作りたい。大切な人たちを守ることを…考えていきたいと思ってる」 「具体的には?それはどういう意味なんだ?海斗の言葉で聞かせてくれ」 被せるように父が海斗に問いかけてくる。鋭い目で見つめられていた。 「具体的には...俺が会社の中心になりたいと考えている。陸翔じゃなくて…俺が。会社の事業に責任を持ち、社員の生活と雇用を守りたいと思っている。それが健全な道の近道で、最善の道になると思うから」 父の目を見つめ逸らさずに伝えた。俺を後継者にして欲しいという意思表示だ。陸翔ではなく、自分をと。 蓉と共に生きていくこと。蓉と自分の生活を守ることは、そこに行きつく。 「会社経営の責任を持つ者ということだな?俺の後を継ぎ、社長という位置に立ちたいというお前の意思、その理解でいいか?」 すかさず父が少し焦り、言葉を被せてくる。こんな姿はあまり目にしたことがない。 「そうです、俺の意思です。俺は後継者になりたい。会社を継ぎ、経営していきたいと思ってる」 蓉にはこの海斗の気持ちがわかっているようだ。下野には覚悟を決めろとずっと言われていた。海斗は初めて自分の気持ちを父と兄に伝えることが出来た。 「やっぱり…そうか」 陸翔がソファに背をつけ、頭の後ろで手を組みながら呟いている。 「よかった…お前、覚悟を決めるの遅いんだよ。俺に遠慮してんだかなんだか知らないけどさ。もっと早く言えよ。お前がやるって言うのを…やりたいっていうのを、父さんも俺も待ってたんだぞ」 陸翔が急に笑顔になり、今度は前のめりになり海斗に向き合って話始めていた。 「…えっ?」 「海斗が自分で決めてくれたのは嬉しい。今日、はっきりとそれが聞けてよかった」 父も海斗に向き直り、笑顔で伝える。

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