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第3話

幸いにして頭と要領の良い俺は中高と頑張った結果、奨学金を受け、大学へ進める事となった。 優等生な俺を信用し、施設長が身元引受人となってくれたお陰で十八歳となった俺は数少ない荷物と共に古びたアパートへと引っ越せた。 これまでと全く違う生活。大学とバイト先と家を往復するだけの毎日。 時間が早足で過ぎ去る日々が落ちついてきた頃、親父の事を思い出した。 親恋しいなどの感情は無く、まだ生きているのか。生きているならどんな惨めな生活をしているのかを知りたかったのだ。 施設の書類に書かれた住所を施設長から聞きだし、それを手掛かりに捜索するとあっけないほど簡単に現住所は割れた。 日雇いで稼いだ金を酒とギャンブルにつぎ込み、廃人のように生きている親父をせせら笑ってやるつもりで手に入れた住所へと向かうが、そこには俺の期待を裏切る姿があった。 マンション前の公園で五歳前後の少女と遊ぶ男。そんな二人を優しく見守る女。 俺と言う存在を忘れ新しい家族を手に入れたのだと冷めた気持ちで見ていると、男は俺に気付き慌てて少女を抱き寄せた。危険な者から護るように。 酷く滑稽だった。 どうせ金が無くなればその娘も金に換えるくせにと、笑いが込み上げ、顔が引き攣った。 人は三度死ぬと言う。 一度目は死を聞かされた時。二度目は遺体を見た時。そして三度目は死を受け入れた時。 親父は俺を売った時に一度死に。たった今、再び俺の中で死んだ。 不意に涙が零れた。 寂しい訳でも悲しい訳でもなく、ただただ腹立たしかった。 簡単に俺という存在を殺した親父の薄情さが。 悔し涙を流しながら思った。 親父の三度目の死は、俺があいつを忘れた時になるんだろう――と。

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