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第5話

隣に引っ越してきた男の名は岩間(いわま)。 職業は知りたくないし、年齢その他も興味は無い。極力関わらないでおこうとしているのに、貧乏学生を哀れんでか、岩間は食べ物を持って来るようになった。 最初は断っていたが、貧乏学生にうな重や寿司は魅力的で断れなくなった俺はポケットに折りたたみナイフを忍ばせ、岩間の部屋に上がるようになった。 少しでも変なマネをすれば刺す。 そんな覚悟を持っていたが、何回食事をしようが、岩間が俺に触れる事はなかった。 すっかり餌付けされた俺は不定期に訪れる岩間の誘いを心待ちにするようになっていた。 正直、食事の内容よりも誰かと一緒に食べられる事が嬉しかった。 今晩は誘いがあるのかとバイト勤務中からそわそわし、隣の部屋に灯りが点っている事を期待しながら帰路に着くのが楽しみだった。 灯りが点っていない日は十時まで待つのが習慣になっていた俺は勉強しながら待った。 十一時頃ドアがノックされ開ければ、岩間が立っていた。 手に持つ寿司折を受け取ろうとした次の瞬間、岩間が圧し掛かり何事かと一瞬焦るが、鼻を突くアルコール臭にただの酔っ払いだと分かり、力の抜けた重い身体を室内に入れるが、体勢を崩し下敷き状態となってしまった。 岩間を退かそうとするが、頭を抱え込まれ。 「タロウ、よしよし」 誰と間違えているのか分からないが撫でられた。 巨体を退かそうと藻掻くが、岩間の手があまりにも優しくて、温かくて藻掻くのを止めた。 「良い子だな」 何度も撫でられ頬ずりされ……。 次第に涙が溢れた。

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