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第6話

意識を取り戻した岩間は腕の中の俺を見るなり平謝りした。聞けば実家で飼っていた犬の夢を見ていたとか。 犬でもあんなに優しく撫でて貰えるのかと自分の存在の瑣末さに陰鬱とした気持ちになり、俺は俯いた。 そんな珍事の後も岩間の態度は何も変わらなかった。変わったのは俺。 もう一度頭を撫でて欲しくて訴えるように見てしまう。 どうしたら撫でて貰えるか、そればかりを考えて……。考えて……。 気付けば木枯らしの舞う季節となっていた。 撫でられたいと言う欲求を募らせながら岩間を盗み見る日々。 一言、言葉にするだけかもしれないが、ただの隣人でしかない十九の男が口にしていい言葉ではないと吞み込み、溜息だけを零した。 十二月となり街のあちらこちらで電飾などの飾り付けがされ始め、回りの人間達が浮き足始めていたが俺には関係ない事だった。 何日だろうと岩間とご飯が食べられたらそれでいい。 ただ、仕事が忙しいのか殆ど顔を合わせていない。 今度は何時一緒に食べられるのか、それだけが心配だった。

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