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第4話 彼氏はできたが

 しかもモヤの中の俺は『やめろばか』などと言いつつも、猫のように腰をしならせ恍惚の表情だ。しかも、脚の間には勃ち上がったペニスまでしっかりと見えている。  ……俺の実物よりもなんだかひとまわり小さいような気がするが、そこはまぁ一旦置いておこう。 『ぁ、あ、っ……ぁん』 『千夏くん、ココ舐められるの好きなんだ。腰、いやらしく揺れてるよ?』 『ん、んっ……そんなわけ……ないっ!』 『そっか。千夏くんは、やっぱりこっちのほうがいいんだね』 『ち、ちがう……っ』  ピカピカのシンクで手際よく桃の皮を剥いている諒太郎の頭上では、尻を舐められていた俺がふたたび挿入されそうになっている。  よろよろと這って逃げようとする俺の腰を引き寄せ、諒太郎は片手でジーパンのチャックを下ろす。するとそこから、高校一年生のものとは思えないほどに雄々しい、血管バキバキの極太なアレが姿を現し……。 「りょ、諒太郎は夏休み部活あんの!!??」  目の前で繰り広げられる自らの痴態に耐えきれなくなった俺は、裏返った声で無理矢理にエロくなさそうな話題を諒太郎に振った。  すると、ふっとあのモヤが消える。諒太郎はごく自然な調子で俺を見て微笑み、「うん、あるよ」と頷いた。  ——お、おお……部活の話題なら、さすがに変な妄想はしないか……。 「そ、そっか〜〜暑いのに大変だな!!」 「まぁ、慣れてるから。来年は大会に出れるように頑張りたいし」 「そっか、しっかり続けててえらいなぁ」 「普通だよ」  さらっとそう言ってのけるものの、諒太郎の高校の空手部は強豪で、このあたりでは特に有名だ。  ぱっと見たところは、中学時代とさほど体格は変わらないように見えるけれど、日々強豪校の練習に耐えているのだから、筋肉質な細マッチョボディへと成長しているのかもしれない。  ——俺より背、高いしなぁ。さっき妄想でチラ見えしたみたいに、ちんこもでっかくなってんのかな……。  ふとそんなことを考えかけて、俺はぶんぶんと頭を振った。  天使のように可愛らしい諒太郎が、あんな使い込まれたふうの巨大なナニを持っているわけがない。……とはいえ、ああして妄想に出てくるということは、諒太郎はそういうブツに憧れているのだろうか?  ——いやいやいや、何考えてんだ俺。やばいな……俺もスケベな妄想が止まんなくなってきた。  スケベ妄想をやめようやめようと考えれば考えるほど、止まらなくなってしまう。ピンクのモヤの中に見えたAVさながらのエロ妄想動画を否応なしに思い出してしまい、顔は熱いし股間もどうにもならなくなってきた。  ——落ち着け俺……ふー、ふー……。 「千夏くん……さっきから様子がおかしいけど、熱でもあるの?」 「うわっ……!?」  コトン、と桃の乗ったガラス皿が置かれると同時にひょいと顔を覗き込まれた。あまりに距離が近いのでびっくりしてしまった俺は、赤ら顔もそのままにカチンコチンに固まってしまう。    浅く座ったソファから転げ落ちそうになるのをなんとか耐えて、俺はあわあわしながら諒太郎を見上げた。 「あ……あの、ええと……」 「……千夏くん?」 「い、いや!! なんでもない! いただきます!!」  ぐいと諒太郎を押しのけて、俺は細いフォークで桃を突き刺し、ぱくぱくと頬張った。  冷たくて甘くてみずみずしい桃の香りが口の中いっぱいに広がれば、爛れた妄想で火照った身体も少しだけ爽やかになるような気がした。  ……だが、勢いよく頬張ったのがよくなかった。  フォークに刺さりきっていなかった桃がツルンと俺の股ぐらに落下してしまったのだ。 「あっ」 「何してんだよ、落ちたよ」 「いや、待っ……!」  隣に座っていた諒太郎の手がスッと伸び、ひそかに勃起している俺のペニスの上に落ちた桃を摘み上げようとした。  が、その手がぴたりと止まる。……やばい、ハーフパンツの布地が盛り上がってしまっていることに、気づかれてしまったか……!?  俺はばっと膝を抱えて自ら桃を摘み上げ、ぱくんと勢いよく口に運んだ。だが、諒太郎は伸ばした手を固めたまま、ちらりと俺の顔に目線を向けて……。  ぼん! と諒太郎の頭上に燃え上がるピンクのモヤの中、ソファの上で大きく脚を開かされた俺がじゅぽじゅぽとフェラをされ、腰をよじらせて喘ぎまくっている映像が見えたのは言うまでもない。  だけど、その行為こそ、俺が今諒太郎とやりたいこと。言葉を失い、ハートだらけの桃色吐息を漏らしている自分の姿に嫉妬してしまうくらい、俺は諒太郎とそういうことがしたくてたまらなくなってしまって……。  俺は膝を抱えて小さくなったまま、ぽつりと諒太郎にこう告げた。 「……好きだ」 「……え? ……えっ!?」 「ずっと好きだった、諒太郎のこと」 「え……えええ!? きゅ、急に何言ってんの? ほんとに!?」  よほど驚いたのか、諒太郎がのけぞって目を丸くしている。  俺は抱えた膝に顔を埋めるようにして深く頷いた。 「……うん、ほんと」 「えっ……でも、千夏くん、バレー部の人とかと……その、付き合ってたりとかしないの?」 「え? バレー部?」 「だ、だって……夏祭りの日、ひと気のない茂みで、その……なにかしてたんじゃないの?」 「……はぁ?」  ——まさか諒太郎のやつ、俺がバレー部仲間のあいつらと3Pしてたって本気で思ってたのか……!?  祭りの日に初めて見たピンク色のモヤのあれを思い出しつつ、俺はブンブンと頭を振った。 「そんなわけないだろ!! あれは熱中症みたいな感じで!! 体調悪くなった俺を支えてくれてただけだっつーの!!」 「え……? で、でも続きがどうとか……」 「ゲームの途中で祭りに出ただけだよ!! その続きをやるかやらねーかって話だよ!」 「そ、そうなんだ……」  なんだか焦ったくなってきた俺は、目線を泳がせている諒太郎にぐいと迫った。  びくっと肩を揺らす諒太郎の顔をじっと覗き込むと、白い頬がかぁ……と赤くなる。その反応はあまりにもピュアで、可愛くて、俺の顔には自然と笑みが浮かんだ。 「……諒太郎は俺のこときらい? 気持ち悪い?」 「気持ち悪くなんかない! ……ぼ、僕も……ずっと千夏くんに憧れてたし」 「憧れだけ?」 「ち、違う……」  だよな、知ってる。と思いつつも、俺はほっと安堵していた。  意を決したようにこちらを向いた諒太郎の瞳は、しっとりと潤んできらめいている。その瞳の熱さに、確かな手応えを感じたからだ。 「僕も千夏くんが好き。付き合いたいとか……そういう意味の、好きだよ」 「……へ、へへっ、そっか……」  そうして言葉にしてもらえるともっと安堵して、俺は長いため息を吐いて脱力した。  ……ということは、このあと俺は、諒太郎とイチャラブセックスになだれこむという流れに違いない。  まだなんの準備もできていないから、いきなり挿入というわけにはいかないだろうけど、初めてのキスをしたり、お互い抜きあいっこをしたり、兜合わせをしたり……キスやエッチなことのひとつやふたつくらい、この流れていたしてしまっても問題ないのでは……!? 「りょ、諒太郎、俺っ……」  ぎゅ、と諒太郎の手を握り、上目遣いでじっと見つめる。  急に迫られて戸惑っているような、怯んでいるような表情だが、期待の色に染まった黒い瞳はキラキラと輝いていて、とても綺麗だった。  このまま顔を接近させれば、あの柔らかそうな唇にキスすることができる。  妄想の中ではずいぶんSっ気がありそうな諒太郎だ。どんなキスをしてくれるんだろう。はじめはやっぱりがっついてくるのかな……なんてことを想像してドキドキしながら目を閉じる。  ……だが、いつまで経っても唇に何かが触れることはない。  焦れったくなって目を開けると、顔を真っ赤に染め上げた諒太郎が、鼻血を垂らしていた。 「ちょ、おまっ……どうしたんだよ! ティッシュティッシュ!」 「あ、ご、ごめん……。告白されただけでも脳みそ爆発しそうなくらい嬉しかったのに、こんなことになるなんて、おもわなくて……」 「あ、あ……そっか、ごめんな」  ティッシュで鼻を押さえてやりながら諒太郎の頭上を見るも……パニクっているせいか、今はなんの映像も見えない。  妄想ではしっかりやることやりまくっているくせに、リアルだと見た目通りのウブなのか……と、俺はなるほどと思った。 「それに僕ら、まだ高校生だし、キスとか……その、まだ早いんじゃないかなって……」 「え……そ、そうか?」 「付き合うからには、僕は千夏くんのことを大事にしたい」 「りょ、諒太郎……」  ティッシュを鼻に詰めているものの、キリッと凛々しい瞳でまっすぐそんなことを言われてしまったら、ときめかないわけがない。ドッックンドッックンと暴れ回る胸をぎゅうっと押さえながら、俺はこくりと頷いた。 「……わかった。俺もそういうの全然経験ないし、ゆっくりふたりでやっていこ」 「え? そうなの? 彼女とか、いたことないの?」 「いないよ。女友達はいるけど、モテたことないんだよなぁ」 「ええ? 千夏くん、こんなにかっこいいのに?」 「……お、おま、真顔でそんなこと言うなって……」  くもりなきまなこで真正面から嬉しいことを言われてしまい、うっかり俺まで鼻血を垂らしそうになってしまった。 「……でも、よかった。千夏くんが誰にも取られてなくて」 「う、うん……へへ」 「じゃあ……その。不束者ですが、これからどうぞよろしくお願いします」 「あ、はい。こちらこそ」  ぺこりと律儀に頭を下げる諒太郎に合わせて、慌てて俺もソファの上で土下座をする。  同時に顔が上がり、俺たちは同時ににこっと笑顔になった。  ——……ああ、なんて幸せ。スケベなんて当分なくても全然いい。だって俺には、こんなに可愛い恋人ができたんだから……! 『ぁ、はぁん、っ……やめ、やめろよぉ……! イってる、イってるからぁ……ぁ、あんっ!』 『やめろなんて思ってないくせに。こんなに僕のコレを締めつけて、食いついて離れないのは千夏くんだろ?』 『ん、んん〜〜〜……とまんない、イくのとまんないよぉ……! ぁん♡ ああん♡』 『また奥で出すからね。しっかり受け止めるんだよ……!』 『ら、らめぇ……っ! かってに、ンん、たっぷりだしやがってぇ……んっ、んんっ♡』  ポワン、とシャボン玉のように浮かび上がったピンクのモヤの中では、しこたまらぶえっちが繰り広げられているようだが……。  リアルで俺が抱いてもらえるのは、いったいいつになるのだろうか。  おしまい♡

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