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第7話
「ごめん……輝基……」
帰宅すると、世界一かわいい妹を抱いて項垂れている産みの父親、黒岩が居た。普段は一人暮らしで大学の病院に勤めているのだが、黒岩の産後暫くは実家に戻る事にしていた。
「まったく、過干渉な親を持つと苦労しますね。」
「過干渉……だったよね……やっぱり……」
改めてショックを受けている。行動する前に考えて欲しいものであるが、暁姉弟も加担している以上、黒岩にどうこう出来るとも思えない。
「控えおろう、この紋所が目に入らぬか!」
輝基はモバイル端末の連絡先を見せる。黒岩は目を細めて見ている。
「あ! ああ!! それは! もしや! 小川くんの連絡先では!!」
「ご満足いただけた?」
「うっ……二人の事だからさ! 父さんは何も!!」
と、言いつつも、黒岩はとても嬉しそうだ。
「その後わかったことも色々聴いたよ」
「聴かせて」
ふと、親から医者の顔になる。
「ふーん、擬似的に恋人みたいになっちゃうんだ」
「まあ、そういう言い方も出来るよね。で、俺はふと頭を過ぎったよ、その場で言わなかったけどさ……」
「あぁ……うん……性行為とか項噛したら……」
「割りと深刻な事になりそうじゃない?」
黒岩はううむと考える
「小川くんの予想では、αを失ったΩ側の番に関わる薬だった可能性があるって言ってたわけだからさ……暫く番やαのフェロモンに触れていないΩに投与して、別のαと性行為したら……どうなるんだろ……」
「番の変更……? 待って、基本的な事だけど、塗り替えるなんて事出来ないよね……?」
「未解明だから、もしかしたらこれで可能になるかも……」
「あ、あとはほら、βをΩ的な番にするとかも……α同士はまあ、元々無くもないわけだし……無くもないって事は出来るのかな……」
「いやーーどうなんだろう、まだ番って未解明だからな……でも、そうだとしたらかなり……」
「小川くんと暁先生、消されないかな……?」
「どうなんだろうね……」
青褪める親子。
「と、とりあえず、無事に家に帰れたかお伺いの連絡をしてくるよ……」
「そうだね……食べてきたかもしれないけど、ご飯も一応あるからね」
「ありがとう」
輝基は自室に引き上げて、部屋着に着替えながら通話をかける。
『はい』
「東雲です。無事に家に帰れた?」
『はい、わざわざありがとございます。ちょっとだけふわふわしただけなので』
「良かった。早速だけど、来週の末、食事に行かない?」
『うっ……やっぱり、無理ですごめん……なさい……』
「どうしたの?」
『なんでも……』
「まさか、ヒートが来ちゃった?」
『すみ……ません……切ります……』
「ちょっと待って! そのまま、そのまま繋いでて」
『どして……』
「目の前に居ないから、怖くないでしょ?」
『でも、話しただけで、抑制剤も飲んでて、注射もしてて、こんな、で、気持ち、悪いから……』
「そんな事はないよ、かわいいし嬉しいと思う、今すぐに行きたい位なんだよ、本当は」
『ひっあぁ……』
「俺は今、小川くんのフェロモンに当てられてない、でも、今凄く愛おしいと思っている、触れていなくても愛おしい、他の奴に取られたくない」
『名前、小川は嫌です……小川って呼ばないで……』
「わかった、達彦」
『あぁ、あ、会いたい……』
「怖がらせてしまうと思うよ……」
『でも……』
電話の奥で達彦が泣いている。
『でも、側にいてくれるなら、輝基さんが良い……』
「わかった、すぐに行くから、怖くなったら扉締めててくれたら帰るから」
『ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……』
輝基は従来品で安全性の高い、効き目の方は程々の抑制剤を打ち込んで、どうなるかわからないので追加用を持って部屋を出た。
「また出掛けるの……?」
「大学の方で急患! 帰れるかわからん、連絡も出来んからよろしく」
「わかった、いってらっしゃーい」
きちんと嘘をついておく。親に気になってる子のヒートの相手をしに行きますとは言いづらい。以前薬を届けた達彦の家は、車で10分もかからない程度の場所だ。来客用の駐車場に留めて、インターホンを鳴らすと、無言のままエントランスの扉が開く。エレベーターに飛び込んで、最上階にある部屋のインターホンを押すと、すぐに扉があいて、達彦が飛び付いてきた。
「ごめんなさい……」
「大丈夫……」
「ごめんなさい」
「辛かったね……もう大丈夫……頼ってくれて嬉しいよ」
達彦の身体を支えて、中に入って施錠した。途端にグワッと部屋に充満した達彦のフェロモンが鼻腔を突いてホルモンとして神経を駆け巡るのがわかる。少しばかり久しぶりの感覚に、堪らず達彦の頭を捕まえて唇を重ねる。
それだけで、達彦はヒクヒクと喉が痙攣する。輝基の生殖期が臨戦態勢をとった。
「避妊薬は飲んでる?」
達彦は首を縦にふる。ここのところの騒ぎで、きちんと飲んでいたのだろう。一応緊急避妊薬は持参してきたが、不要だった。輝基が知るのは最低限の問診票で確認する話でしかないが、達彦は最低でも5年以上は性行為をしていなかったはずだ。内診でも一番小さい器具を使った位だ。絶対入らねえな……と、予想される。
「達彦、もっとキスする?」
達彦は顔を背けながら輝基の服を引き寄せようとする。ちぐはぐである。なんてかわいい生き物だろうと、達彦の顔を優しく向けさせて、二度目のキスをして、ゆっくりと、唇を舌でなぞり、息を止めたままの達彦の唇が開くのをのんびりと待った。開いた隙に深く咥え込んでしまう。舌を差し入れて、達彦の味を存分に楽しむ。掴まれた服が捩じ切られそうだ。
達彦の服の下に手を差し入れて、地肌に触れる。
「んっんーんんーー」
達彦は快楽に抗う様に唸っている。そのまま服を捲って脱がせてしまう。下は下着しか履いていなかった事に気が付く。既に達彦はパンツ一枚だ。
少しでも離れたらすぐに縋りついてくる。理性と本能がバラバラの動きをしている。
達彦の肌は、荒れた手で触るのが申し訳無い位、しっとりとしている、首筋に触れたくなるが、カラーがあるので直接はさわれない。深く首筋で息を吸うと、一層強く神経が痺れる。
「ひゃっっ」
頭がおかしくなる前に、ベッドに運んでしまおうと、達彦を持ち上げる。そうしなければ、硬い床に押し倒してしまう。
「ベッドはどこ……」
「……奥に、布団なんだけど……」
かなりいい部屋の洋室だ。広いリビングの大きな窓の前に、万年床であろう布団が落ちていて、その近くに本や紙やパソコンが散乱し、その前にまた巨大なホワイトボードがある。なんだか、現実味の無さが達彦らしいと思ってしまう。一人暮らしであろう事はわかる。
布団にそっと達彦を下ろし、窓の外の明かりに照らされた達彦を眺める。
綺麗だった。
「あ……あの……無理しなくても……帰っても大丈夫……」
「え? ごめんごめん、見惚れてただけだから……」
かぁっと達彦が余計に赤くなり、慌て始めた。輝基の視線から逃れようとするが、輝基は両手を抑えて達彦を止めた。
「俺、今かなり大変な事になってるよ?」
輝基の視線を追って、達彦もそちらの方を見ると、布が張り詰めていた。
「あっ……」
「急に入れたりしないから安心して」
目が泳いでしまった。しかし、そうこうしている内にどんどん達彦のフェロモンは濃くなっていく。辛そうだが、輝基もかなり危ない。ポケットから抑制剤をだす。
「あ……待って……」
震える手を伸ばして達彦を静止して、その抑制剤を見る。
「……何本目ですか……」
「2本目だから大丈夫だよ。」
「それ2本しか使えないってなってるけど……3本は安全に使えるから……」
「あ、そうなの……知らなかった」
「そこに、あるから……」
枕元に使用済みが3本と、未使用が数本転がっていた。医者は診察と診断が仕事だ、薬は製薬会社の指示に従うのみで、そんなに詳しくは無い。
「達彦は、3本使ってこの状態なのか……」
「い……いつもは4本位使っちゃう……それがぎりぎり……」
抑制剤無しのヒートが恐ろしい程に、なかなか強烈だ。
達彦がシャツを脱ぐと、そのシャツを無意識なのか、引き寄せて口元に抱えて深呼吸をしている。抑制剤を打って、そして自分のシャツに嫉妬した。シャツを取り上げてみる。
「こっち……」
「うぁ……」
硬直してしまった。丁寧に身体を撫でて、胸の突起に口付けて、吸った。
「ふうっ……ん……」
胸に気を取られているうちに、下着に手をかけてそっと脱がしてしまう。びしょびしょになったそこを、手で撫でる。
「や、あっ、それ……されたら……あっあっっ」
Ωの男性にも、ペニスがある。精子を作る機能は殆ど無いが、精漿は作られるし、触れば絶頂感と共に射精もする。βの男性で例えると非閉塞性無精子症の様な状態だ。αには滅多に見られないと言われている。
ゆっくりと上下に動かせば、既に張り詰めていたものはあっさりと爆ぜてしまう。
「くぅっ……」
力を込めて、その快楽に耐えている。
直腸のから枝分かれする生殖期からでている分泌液も、しっかりと溢れる程出ている。脚を立てさせて、後尾を撫でる。口が開きっぱなしで、荒く息をしている。
「入れるよ」
「うっ、はあっい……」
つぷりと、指を入れていく。Ωの男性はヒートが来ると、腸と生殖期の入口を切り替える弁が動く。内診が殊更にΩ男性から嫌われる理由は、普段閉じているその弁を器具で押し広げねばならないからだ。予想していたが、達彦の生殖期の入口は狭い。しかも、挿入した刺激で、ぎゅっと縮こまり、たった指一本が締め付けられていた。
「うぅ……うぅ……」
本人の声もいっぱいいっぱいである。それが、面白くて、少し笑ってしまう。
「舌見せて」
ちらりと出てきた、濃いピンク色の舌に吸い付いた。舌を絡ませ、擦り合わせると、達彦の身体はビクリビクリと動く。その動きで、自然と内臓も擦れる。
唇の隙間から、声が漏れる。少し馴染んだ指をゆっくりと動かした。達彦の腕が、輝基の首に回されて、しがみつく様な形になる。
「うぅっ……」
二本に増やしてみる。
「痛い? 辛かったら抜くよ?」
達彦は首を横に振るが。どう考えても辛そうなので、暫くは動かさずに入れたままだ。
「唇、辞めないで……」
「キス好きなの?」
「好き……」
「いっぱいしよう……」
ああ、かわいい……深い口付けをしながら、片手では前をしごき、挿入している指を付きあげる様に微かに動かす。Ω男性は前立腺と、生殖期の性感帯の両方が刺激されるはずだ。
「あっいっいっ」
「いっていいからね……」
「はぁっあっうっっ」
一層深く痙攣すると、グッと指が引き込まれる。まるでαの精液を吸いだそうという様な動きだ。
「もっとっもっと欲しいもっとっっ」
「うん、わかってるよ。まだ入らないからね、もう少し頑張ってね」
唇を重ねると、理性を失った達彦は輝基の頭を抱え込み、自ら舌を差し出してくる。それを押し返して口内を弄ると、今度は脚を輝基に絡ませて腰を動かしてくる。グジュグジュと卑猥な音が鳴る。あまりにも刺激的な光景だった。
「増やすよ……」
耐え難い興奮に、指を増やして抗う。今すぐにでも入れたい。入れたい。慌てて3本目の抑制剤に手を伸ばして、口で袋を破って自らの腹に突き刺す。輝基も、息が上がっていた。
何度か輝基の指に自らを擦り付けて絶頂した後に、朦朧とした顔で輝基を解放して、押し倒して来た。力は入っていないが、輝基の股間に顔を寄せて、夢中でズボンを脱がそうとしてくる。取り出して見ると、怒張した輝基のペニスの先を小さな口で咥えてしまった。収まり切らないそれを、舐め回している。もう、無理だ、さっさと一回出してしまおうと思った。
「飲む?」
達彦は頷いて、限界まで頬張った。輝基ははみ出している膨れた根本を自ら揺さぶり、精を吐き出した。
抑制剤の影響で全開ではないが、αの精液は多い。溢れるた精液が達彦の口からダラダラ溢れているが、何度も嚥下している。少しだけ冷静になれたが、まだ相当元気だ。
「入れたい?」
こくりと頷いた達彦は、再び仰向けに寝転がると、膝を開き、自ら入口を広げた。
輝基はおおい被さり、自身を当てて腰を進める。
「深呼吸してっ……」
かなり、相当、キツイ。
「はああ、はあっはぁっ……」
開けっ放しの口は、輝基の精液で粘着いている。亀頭を飲み込むと、急激にズルリと中程まで引き込まれた。
「はあぁっ……」
本当に達彦は抑制剤が効いているのか、心配になるが、今更止められないし、達彦に4本目を打たせるわけにはいかない。ぎりぎりの理性をかき集める。
「痛くない?」
返事の代わりに、全身で抱き着いて、更に深く飲み込もうとする。じわじわと、達彦に侵食されていく。今押し込んだら怪我をさせる。深呼吸を繰り返して、冷や汗を垂らしながら耐えた。達彦の呼吸に合わせて、ゆっくりと、ゆっくりと進める。前立腺の更に奥を目指す。
「もっと……」
掠れた達彦の声に、輝基の頭の中で何かがブチリと切れた。ぐいっと根本まで押し込むと、ぎちぎちに締め付けてくる肉壁を擦り、蠢く内臓を突き刺す。何度も何度も抉る。
「ひぃああああっああああああっ」
達彦の絶叫も聴かず、輝基は己の欲望を押し込んで、達彦の腕を引っ張りながら、歯を食いしばり、仰け反る達彦の腹の中のに、精を注ぎ込んだ。
達彦も中から外からどちらの物かわからない体液が溢れ出していた。
二人で荒い息をして、まだ外せない結合部をそのままに、見つめ合って、どちらからともなく唇を重ねる。
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