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第14話

 部屋をノックされて、公彦が入ってきた。 「どうするのか決まったかい?」 「4にします」 「そうか、ではアンを呼びに行こう」 「その前に質問があります!」 「なんだい?」  達彦は解熱剤が切れ始めるのを感じながらも、公彦を呼び止めた。 「僕を産んだのは、暁先生ですか?」  達彦の真剣な顔に、公彦はしっかりと答えた。 「そうだよ」  達彦は拳を握りしめて破顔した。 「当たった! 当たりましたよ輝基さん! 流石ですね! 良かった。嬉しいです暁先生で、すっきりしました」  輝基は達彦のこの調子に慣れてきたので、そうだねと同意して終わった。しかし公彦は狼狽えた。報告される内容だけでは知れない事だ。 「君は……何とも思わないのか……親の勝手でずっと一人にされた事に……何も与えてあげられなかったのに……」  達彦は首を傾げる。 「頂いていましたよ? お金とか充分に、他にも……」  そして達彦はつらつらと上げ連ねた。  αとの交流会も不参加で許された事。初等部から年に一度は必ず暁が訪れ、こっそりお菓子をくれた。普通ならΩの学校からは出られないのに一般の大学に進学出来た事。その後の住む部屋も用意されていた。進学して以降、教授としては逸脱しているほど、暁は達彦を気にかけ、助けていた。 「僕は結構、というよりかなり世間知らずでボケっとしていましたけど、流石に進学に保護者や保証人が必要な事くらい知っています。学校の階段から落ちたときに気がつきましたけど、緊急連絡先が暁先生になっていたし。小川は不思議な事をするなあと思っていたけど、望みが叶うならそれでいいかって、余計な事をして台無しにしたくなかった」    公彦は努めて冷静さを引き戻す。 「君は巽をとても慕っているんだね」 「はい、とても」 「君達の予想の通り、私達が留学している時に、アンの薬で巽がΩとして妊娠したのが、君だよ」 「素朴な疑問ですけが……得体の知れない乳児をどうやって帰国させたのですか……医療従事者の端くれとして非常に気になると言いますか……」 「戻ってから産んだんだよ」 「β男性が子供をですか……」 「東雲病院で……」 「うちですか!? ってことは……」 「東雲院長だけは、総て知っているよ。総ての処置を引き受けてくれた。アンが書いた処置の指示書を持って行ったんだ」 「暁先生が持っていたデータチップはそれか。欠けていたのは出産の部分かな。僕がエヴァ4で卒倒したときにも大学病院ではなく東雲病院なのも変だなと思っていました」 「そこまで色々不審に思っていて、何故誰にも相談しなかったんだい……?」 「不思議な妖精がいる様な気がしていたんですよ。僕の行く先を良いようにしてくれる。何となく運がいいなとか。そういうのって口に出したら無くなってしまいそうに思って。そうそう、3年と一ヶ月前にお財布拾ってくれたのは妖精さんですか?」 「流石に、違うかな……いや、拾っている可能性はゼロではないか……ちょっとわからないな、報告は受けてないと思うんだ……確認してみよう……」 「お礼を言いたいと思いまして。あのお財布は、暁先生から入学祝いとして頂いたので大切なんです。外に出たら使うからと。僕その時に初めてお財布を持ったんです」 「そうか……」 「最初は買い物も出来なかったので、暁先生に教えて頂きました」 「あの学校に居たら無理もないな……悪い事をしたな……」 「安全を考えたらあそこ以上は無いでしょう」  達彦は少し興奮していた。初めて父親と話すのだ。話したい事が溢れてきた。 「そういえば、先程助けてくれたお姉さん、僕会っていますよね?」 「ああ……」  ちらりと公彦は輝基を見た。達彦は気にもとめずに話し続ける。 「でしたら、花音さんで間違い無いですね。初めてヒートが来たときに相手をしてくれましたね。本当は何もしたくないと言ったら、何もしないでいてくれた。辛くない様に、軽いマーキングだけ、口から」  輝基は天を仰ぎ見た。初めてだったのか……と。 「そんなに詳細に話さなくて大丈夫だよ……あの学校はヒートが来ると保護者に連絡が来るんだ。決まった相手が居る場合のトラブルを防ぐ為に。私は彼女に適切に対処をと頼んだんだ。乱暴な輩では困るから……」 「とっても優しかったので、感謝しています。それでね……僕は……Ωのお医者さんに……黒岩先生に……あこがれ……て…………」  まだ、話したい事が沢山あったが、達彦の熱は上がってきた。ふわふわとした顔になっていく。 「アンを呼ぼう……」 「後でもっと……話してくださいね……」 「勿論だ……沢山、沢山、聴かせて欲しい」 「良かった……父さん……」  公彦は、心底嬉しそうな、そして切ない顔をした。この子を自分のすぐそばで守れていたらと思うと、悔しくて堪らなかった。    駆けつけたアンに、輝基は選択を伝えた。アンは了解して達彦を別の部屋に運ばせた。この建物の地下室に案内された。窓のない部屋は清潔で、大きめの空調が音をたてている。医療用のベッドが2台と、旧時代的なベルト付きの開脚台がある。  達彦を普通のベッドに寝かせる。 「暴れてしまうかもしれないから、最初だけあの開脚台を使ってベルトで固定して。しんどいと思うけど我慢して欲しい。それから、舌を噛むことがあるから、マウスピースも使ってくれ。潤滑剤も一応置いておく」  アンは淡々と説明していく。 「今から、二人にエヴァ3を投与して、性行為をしてもらうよ。3は4から抑制効果が無い物で、受容体を殊更に活性化させる。イメージとしては隙間を作る。フェロモン注入を繰り返していれば次第に身体に巣食うαが負けてくる。少しでもΩのフェロモンを感じたら、あとは好きにしてくれて良い」 「わかった」 「最初は物凄く嫌がると思う、だけど、輝基には興奮剤も投与するから、相手が嫌がって精神的に辛くても、陰茎は使える。それは薬のせいであって、人格の問題じゃない事を忘れないで欲しい。マトモな感性の人間には酷だろうがこればかりは医療行為として、耐えてくれ」 「わかった……」 「ベッドも使っていい、というか何でも使っていいし、何時間かかるかわならないから、飲食物も多めに置いてあるし、シャワーはそこ。それから、避妊薬はつかうからね。妊娠や出産は凄く危険なので、身体が落ち着いてから二人で決めて欲しい」 「わかった」  総てに承諾すると、アンは二人に薬を注射した。 「薬が効くまで少し眠ったほうがいいよ。じゃあ、アン達は上に居るね。何かあったらそこにインターフォンがあるから」  そして、アンは出ていった。    既に朦朧としていた達彦は、アンの話の最中には寝ていた様に思う。ずっと休んで居なかった事を思い出し、輝基はもう一つのベッドを達彦の眠るベッドにくっつけて、横になった。    輝基は、近くの押し殺した喘ぎ声に目を覚ました。達彦は自らの中を指で弄り、陰茎も掴んでいる。 「起きたんだね……」  その扇情的な姿をしていても、Ωのフェロモンは感じられない。マジマジと眺める事が出来る。確かに薬は効いてきたようで、薄っすらと輝基自身も熱を帯びる。 「気持ちいいの……?」 「んん……足りない……」 「あっちのベッドに行こうか」  達彦を抱き上げると、震えてしまった。恐怖と困惑の震えだ。まだ暴れる事も無く、大人しくベッドに固定される。マウスピースも少し抵抗したが、咥えてくれた。ピンと立ち上がった陰茎は、個人差の範囲でΩにしてはしっかりしている様な気がする。今まで気に留めていなかったが、これがα要素の強い男性Ωの特徴なのかと納得する。    輝基はまず、立ち上がった陰茎に触れた。簡単に蜜を零すそれを、咥える。 「んん!! んんん!!!」  抗議するように、達彦が声をあげる、ベルトもギシギシと音をたてている。しかし吸付けば、あっさりと口に達彦の味が満ちた。輝基のものも反応した。  潤滑剤を手にして、先程まで自身で掻き回していた所を触ると、肛門は緩んでいるのに、輝基を拒むように生殖器の入口は固く緊張している。これが番の居るΩを別のαが犯すという事だ。慣れた物だと思いながら、潤滑剤を足して押し入った。 「んん……んん……」  その声は、輝基にはヤダ、ヤダと拒む様に聴こえる。それは、想像以上にキツイものがあり、達彦の顔はとても見れなかった。きっと泣いているだろう。そう思うとすぐにでも辞めたくなってしまう。別のαの番でも構わないから、苦しめたくない気持ちが湧く。  それでも輝基は生殖器の入口をゆっくりと、いつもの様に解していく。達彦自身が選んだ事を、尊重する為だ。 「んっんっんっ」  湧き上がってしまうお互いの悲しい感情と裏腹に、達彦は指の動きに合わせて、艶めかしい声が漏れる。  その声があればと、輝基は執拗に達彦の好きな場所を撫でた。  ピクリピクリと、痙攣する中で、快楽が伝わってくる。  充分に解れたそこに、輝基は自身を押し込む。その時に見てしまった達彦の顔は、涙に濡れて、絶望的な虚ろな目をしていた。身を引きそうになるが、それでも効果絶大な興奮剤の影響で、何とか思いとどまる。 「辛いよな……ごめんね……大好きだよ……」  その言葉に、達彦はより一層泣けてしまった、嗚咽を漏らしながら、輝基を受け入れた。    なるべく早く精を注ぎこもうと、輝基は普段よりも自分本意な動きを繰り返した。吐き出しても抜かずに、そのまま再び動く事を繰り返し、チリチリとした快楽に吐き気がしてくる。  達彦もぐったりとしてきて、そこでやっと拘束を解き、決して抱き返して来ない達彦を抱えてベッドに移動した。一度抜いた達彦から、白濁液がボタボタと垂れる。マウスピースを抜き取る。  輝基は達彦の頬にキスをして、再び動き始める。 「ああっああっううやっあっ」  快楽と抵抗が混じり合う。   「はぁ……はぁ……はぁっ……んん……」  達彦の喘ぎ声は息も絶え絶えの様子になって掠れている。輝基はミネラルウォーターを含み達彦の口に流し込む。 「あっ、もっと、もっとちょうだい……」  水を飲ませる内に、唇が近付き、達彦は舌を伸ばして輝基の唇に触れた。ゾワッと輝基の腹が痺れた。  夢中で唇を押し付けて、達彦の口内を舐める。  達彦も、その舌に自らの舌を絡ませた。  随分久しぶりの気がしたそれを、貪りあった。 「あっ輝基さんの匂い……いい匂い……」  輝基は泣きそうになりながら、腰を揺らした。    二人で荒い息をしながら、輝基は達彦にのしかかる様にベッドに倒れる。 「俺の匂いわかるの……?」 「少し……」  輝基は、達彦の首筋に顔を寄せて、吸い込むと、ほのかで、甘い様な香りがする。舐めたりしながら、自分に向けられる達彦のフェロモンを堪能した。 「ちょっと……休憩……しんど……」  繋がったまま、達彦を腕に抱いて、目を閉じる。 「うん……」  達彦も、輝基の胸元の匂いから離れまいとしっかり密着した。   「んっ……?」  輝基が強制的な快感に目を開けると、自らの上に乗っかって腰を揺らす達彦がいた。 「ちょっ……クッ……」  辿々しいが、視覚的に危険なものがある。輝基の腹の上に手をついて、上下している。 「ずっと輝基さんが、動いてたから……」  ふわふわと、Ωらしい香りが漂ってくる、まだ薄いが、それでも輝基を喜ばせた。 「達彦、キスして……」  久しぶりに会った恋人に甘える様な気分だ。たった半日やそこら、本能的拒絶感を向けられただけで、こんなに辛いものだとは思わなかった。  達彦は、自らのしかかっている割には、戸惑った様に照れながら、輝基の唇に触れた。初心な姿と情欲的な姿が混在しているのが、達彦の魅力だと、輝基は深く納得する。 「達彦にいかされたいな」  ニンマリと笑って告げる。 「むっ無理だよ……そこまでは……」 「手伝ってあげるから、ね?」 「はぅっああっダメそこ!!」  輝基は達彦の陰茎をしごく。上下に揺らすと、もどかしげに腰が揺れ、中もきゅうきゅうと締め付ける。 「気持ちいいよ……」 「んっんっんっほんとに……?」 「うん……」  強く前を擦ると、達彦は仰け反って、自分の気持ちいい所に輝基の亀頭を擦り付ける、グリグリと尖端を押し潰される。 「我慢できないな……」 「あっちょっとあああ!!!」  輝基は達彦の腰を捕まえて、自らの腰を突き上げて、吐精した。    細切れに眠ったり、少し休憩したり、そして抱き合ったりを繰り返した。  窓のない部屋では時間がわからないが、かなりの時間が経ったのではないかと思う。達彦のフェロモンが急激に増加し、輝基も薬の影響では無い興奮に飲まれていく、最早我慢も手加減もいらないと感じて、理性を手放す。    達彦をうつ伏せに組敷いて、押さえつけながら、俺の物だと示す様に、何度も鳴かせる。  達彦の嬌声を聴くほどに、輝基の幸福感が増していく。頭の中をどくどくと血が巡り、熱く膨れ上がっていく様な感覚、目の前が赤く点滅を繰り返す。まだ足りないという、強欲に支配されて、項に齧りついた。  噛みながら、絶対に離さないと、心が叫んでいた。  ふぅふぅと興奮の息を吐きながら、いつ絶頂を迎えたのかすらわからないで、ただ自分の陰茎から精液がどくどくと流れ出ているのを感じる。  口の中には愛おしい達彦の血の味がする。血の味に興奮している自分を初めて見た。αの醜い本能が、目を血走らせて達彦を縛りつけようとしている。輝基は全身の細胞という細胞すべてが歓喜していた。    精液が収まってくると、頭の血も波の様に視界は蒼然としてくる。ゆっくりと口を離す。達彦は既にうつらうつらしている。輝基は何も考えられず、二人はそのままピッタリとくっついたまま眠った。  

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