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第18話
「愛してるよ……」
部屋に入るなり、達彦は輝基に抱き竦められる。発情期でも何でも無い時にΩを抱く人間は信用出来ると、達彦は何処かの恋愛指南コラムで読んだ。
心ではΩもαを選んでいる、なのに身体では相手を選べないのがΩだ。
「ヒートが無いのは楽ですけど……番になりたいとは思うものなんですね……」
輝基の胸に顔を寄せてつぶやく。
「元気になったらなれるさ」
「そうですね……」
輝基は、もう薄っすらとしてしまった噛み跡を撫でる。番が成立するともっと腫れて跡が残る。
「輝基さん、僕がヒートを起こした健診の日に、待ち合いに居たΩの方が、まだ番ではないけど新婚なんだと仰ってたんです」
「ちょっと、ちょっと待って」
「あ、違うんです、無理強いとかしませんよ。ただ、その時は全然憧れ無かったんですけど、こう、ここ最近結婚を意識させられる事が多くて……」
「違う違う、ちょっと待って」
輝基は、達彦を話して、パタパタと別の部屋に行ってしまう。取り残された達彦は、口走ってしまってから、普通の人はもっと深刻に話すことだったのだろうかと、心配になった。そもそも、輝基の個人宅にも初めて来たのである。
「達彦、こっち来て」
声のする方に向かえば、急に視界が開けて高層マンションらしいガラス張りの部屋からは、眼下に夜景がのぞめる。そして近くの大きな遊園地から花火が上がっている。
「わぁ……派手ですね……綺麗……」
「毎日見てると飽きるんだけどね。こういう時に丁度よく上がってくれるのは有り難いかもね」
手を取られて、向き合う。
「結婚しよう」
差し出されたのは、簡素なリングに四角い硬度10の炭素だと思われる物がピッタリと嵌った指輪だ。花火の光を受け取って色とりどりに眩しい程輝いている。
「ダイヤモンド……?」
「そうですよ」
「婚約指輪……?」
「そのつもりですよ」
達彦の脳が興奮で急回転し始めた。
「あの、凄く嬉しいです。でも、僕は今身体の様子がオカシイし、ちゃんと番になれるかも、ちゃんと子供を作れるかもわからなくて、だけど、番にならなくても輝基さんと恋人で居たいくて、ヒートじゃなくても抱き合えるのが嬉しいってお伝えしたかったのに、切り出し方を間違えてしまって……」
「うん、だから、結婚しよ」
「先日、女子学生が読んでいたα女性向けの恋愛コラムを見せて頂いて、ヒートじゃなくても愛し合えるのが理想のαΩカップルという説を目にして、たとえマーキングであっても我々はその様な関係性であるからして、もしやとても良い関係なのではないかと……」
「うん……結婚しようね……」
「僕は生まれ育ちも一般的じゃなくて、常識も曖昧で、かなり厄介事を招く質の様ですし、でも、輝基さんは立派なαとΩの血を引くαにも関わらず、とても平和で普通なご家庭で……僕は家族が何たるかもまだ良くわかって無くて、あ、でも父二人が僕を大切に思ってくれてた事を知って、凄く嬉しいんですけどね……」
「落ち着いて! 結婚しようね!!」
「はい!! 結婚したいです!!!」
輝基は腹が痛くなる程笑いながら、達彦に指輪を嵌めた。
「凄い……ピッタリ……」
「寝てる間に測らせていただきました」
「いつの間に……」
「αはさ、気に入ったΩを手放すのが困難なんだ。嫉妬するし、独占したくなる。傷付けても闘ってでも手に入れたいものだし、条件反射みたいに守ってしまう」
「Ωだって離れたら気が触れてしまう」
「拒絶されていたら、閉じ込めていたかもしれないよ……受け取ってくれてありがとう」
「ありがとうございます。輝基さんに出会えて良かった……」
ゆっくりと風呂上りのバスローブを剥がされて、昂った証が恥ずかしくなる。
「やっぱり改めて見るとΩにしては大きいよね」
ピンと指で弾かれて、背筋がぶるりと震える。
「辞めてください……恥ずかしから……身長もΩ男性の平均より少し大きいんですよね……」
「セクシーで最高だよ」
輝基は手で極部を撫でてから、にやりとしながら咥えてしまう。
「うぅ……それ居た堪れない……」
「気持ち良くない?」
「良いです……良いから余計に……あっあう……」
「さっき出してるからね、まだ我慢出来るよね」
喋るのと喋るのの合間にグチュグチュと音を立てながらしごかれて、吸われると、腰が揺れて輝基の口を犯している様になってしまう。そして離される事を繰り返し、少しずつ少しずつ、快楽が蓄積される。
「無理、無理無理、離してはなして!! いっ……」
「うん、離してあげるよ」
「あっウソ……ウソウソ……辞めないで……」
ぷるぷると揺れる男性器は、切なく腫れて、滴を零す。
「まだいっちゃだめ。久しぶりにゆっくり出来てるんだから……」
海外で事件に巻き込まれ、仕事が溜まっていたのは輝基も同じ事である。
「輝基さんはヒートじゃない時は、意地悪でしつこくてやらしい……」
「Ωフェロモンが薄い今のうちに堪能しないと……ヒートも好きだけど、何やってるのかわからなくなるからね」
後ろの蕾を指で押し広げながら、その指に纏わり付く柔らかくて熱い肉癖を堪能する。
「ここ、俺のしか知らないんだよね……」
「うぅっ……そうですよ……」
「嬉しいなぁ……」
口をつけて、舌で舐め回す。
「ひゃうぅ!!! 医療従事者!!! Ω男性の生殖器官は排泄器官とくっついてます!!! 舐めちゃダメって!!! 習わなかったんですか!!!!」
「習ったよ。Ωの膣分泌液とαの体液はβよりも殺菌作用が強くて感染症を防げるって事も。αの精液はΩの分泌液を通過する位の耐性があるってことも。それに万が一菌やウィルスに当たってもお薬くれる人居るし」
「ひゃああ……!! んっうぅう……」
ぴちゃぴちゃとわざとの様に音をたてながら、敏感な場所を舐め回し、指は蠢き続ける、性器は積極的に自浄と保護の為にぬるぬるとした分泌液を溢れ出させる。どんどん摩擦が無くなり、指と舌だけではもの足りなさを感じてもどかしくなった。
「もう入れようかな……」
非常に硬く、血管の浮き出た性器を、達彦に見せる様に頭同士を擦り合わせる。ゴリゴリと音でも鳴りそうな気がしてくる。
「うう……αおっきい……」
「何度も見てるでしょ?」
「うん。それ好き……です……」
輝基は、容赦もなく、達彦の中に性器を突き刺す。
「あぁっ……」
その衝撃に、ポタポタと雫が垂れるが、歯を食い縛り、上擦った息をしながら耐えている。
「はは……いかなかった……偉いね……」
頬に口付ける。
「口がいい……」
「医療従事者なんでしょ? この口、達彦のやらしい所舐めたよ?」
「凄いいじわる……お腹壊したら処方箋書いてもらうからいいんです……」
「オーラルセックスでお腹壊してたら、病院は大繁盛だね」
グチュリと、舌同士を絡める。薄いなりに、口内や生殖器官からはΩの香りがする。甘ったるい、麝香だ。達彦の香りは甘いながらに高貴な樹脂香の様な、静謐な香りがする。Ωが集う教会の様な、背徳的な香りだ。これが強くなるヒートは、麻薬の様にぼんやりとさせられる。総てどうでも良くなってしまう。
ゆっくりと、抜き差しすれば、排泄器官と生殖器官を分ける襞が、輝基の物にゴリゴリと擦れる。それなりに硬く出来ているのだが、ヒートの時は勝手に柔らかくなる。
Ωにとって、ヒート以外での性行為は余程気を使わなければ苦痛にしかならない。手っ取り早い排泄器官の方を使う事が殆どの様だが、眼下に組み敷かれているΩは、快楽に酔って自ら腰をヌルヌルと動かしている。本人は蛋白だと思い込んでいるが、輝基からするとかなりの好き者の様に思うのだ。
尻を鷲掴みにして、良い所を執拗に擦る。
引き攣れた声が、部屋中に響く。
「ま、またいきそう、いきそういく……」
「うん……俺もいく……」
達彦の骨盤の底がギュウギュウに引き絞られ、吸い尽くさんとしてくる。マックスとは言えないにしろ、なかなかの量の精液が注がれる。
達彦のお腹は痙攣していき続けているが、男性型の器官はそそり立ったまま、ベタベタとした先走りだけがお腹に垂れている。輝基は入口を排泄器官の方に変えて、再び押し込む。
「あぁ……まだダメ……まだ……まだ気持ちいいから……そっちまだ……」
「今がいい」
「しんじゃ、しんじゃう、から!!」
グシュグシュと、どちらのものとつかない液体が白く泡をたてる。
達彦の亀頭を手で包み込んで、腰を打ち付けると、すぐに達彦の顔まで精液が飛び散ってしまう。
赤い顔を白濁塗れにして、目は潤み、口から荒い息と喘ぎ声を洩らす自分だけの男に、輝基は神々しさを感じてしまう。
もっと受入れて欲しいと、お互いに腰をふり続け、達彦の物からドブリドブリと溢れ、先程同様に達彦の中を支配せんと輝基の体液は注がれる。
「あぅ……ふぅっ……」
終わっても暫く、達彦はびくりびくりと痙攣と弛緩を繰り返し、その度に甘い声を漏らした。
輝基の物が柔らかくなるまで繋がり続けて、二人は明け方ちかくなってやっと離れた。
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