6 / 7
第6話
「すごい……伊佐名って、一人暮らしなんだな」
すっかり二人ともずぶ濡れになったからと、結局傘は差さずに走って家まで辿り着いた。玄関に入って、直ぐに鍵をかける。
「別に凄くはない。叔父さん達に家賃とか諸々出して貰ってるし、食事や掃除も面倒見て貰っている。凄いとしたら、俺じゃなくて叔父さんと叔母さんだ……なに笑ってる」
「ううん。真面目で謙虚だなと思って」
「見た目だけなら、お前の方が真面目そうだけどな」
雨でしっとりと額に張り付いてしまっている、龍巳の長い前髪を撫でつけるように後ろへと流して、頬に張り付いている髪も、耳へとかけてやる。擽ったそうに竦んだ肩に、心が落ち着かなくなった。指先ですりすりと耳を撫でてみれば、抵抗なのか、甘えなのか、頭を傾けて俺の手に頬を寄せる。
――このまま抱いてしまいたい。
そんなことを思ったのは、生まれて初めてだった。今まで何度か誘われるまま、無関心に女を抱いたことはあったが、そのどれとも比べ物にならない劣情と、興奮。……けれど、このまま身体を冷やすのは良くないという、冷静なスポーツマンの自分もいた。
「風呂を沸かして、タオルを取ってくる。お前は、ここで服だけ脱いでくれ。今のまま中に入ると床が濡れるから」
「分かった」
自分のワイシャツのボタンを手早く外しながら、龍巳の様子を盗み見る。雨に濡れたシャツが張り付いて脱ぎにくいのか、不器用にもたもたとボタンを外すのに苦戦しているようだ。
「……俺が外してやろうか」
「だ、大丈夫……」
「そうか」
残念なような、良かったような……。自分から言い出しておいて何だが、了承されていれば、そのまま後先考えず玄関先で襲っていそうだったので、断ってくれて良かったのかもしれない。水泳のことよりも、自分の身体のことよりも、優先して夢中になってしまいそうな存在……。未知のこいつがおそろしいのに、何故だか目が離せなくて困る。
「……ワイシャツの下、今度から何か着ろよ」
「え? なんで?」
「……なんでもだ」
ピタリと肌に張り付くワイシャツは、下の肌色を透けさせて細い身体のラインを拾い、冷えのせいか布地を押し上げる胸の突起の形まで露わにしていた。雑念を払うように自分のワイシャツを脱ぎ捨て、黒いアンダーもそのまま脱ぐ。ベルトに手をかけたところで、ヒタリと冷たい指先が俺の腹に触れた。
「……これ」
「ああ、悪い。見ていて気持ちが良いものじゃないだろう」
「……そんなことない」
すりっと、肌の凹凸を確かめるように、優しく緩やかに撫でられる。端から端まで約五センチ。そこを何度も指が往復した。
「そんなことないよ」
そう言って、泣きそうな顔をする。なんでお前がそんな顔をするんだ。
尚も傷痕に触れる龍巳の手を自分の手で包んで、その指先にキスをする。
「お前の身体が冷える。……ちょっと待っていろ」
張り付くスラックスと靴下を脱いでから、ワイシャツと一緒にまとめて掴み、家の中へとあがる。衣類を洗濯機に突っ込んで、風呂のお湯張りスイッチを押した。バスタオルを持って龍巳の元へと戻れば、ワイシャツのボタンはまだ半分くらいまでしか外せていない。仕方がないので、龍巳の身体を服ごとバスタオルで覆って、俵のように肩へと担ぐ。
「うわっ!?」
「このまま風呂場まで運ぶ」
「はあ!?」
「あまり暴れると落ちるぞ」
「……」
見当たる布がそこしかなかったのだろう。下着のウエストゴム部分をぎゅっと掴んでくる龍巳。……うっかり勃ってしまいそうだ。それをなんとか堪えて、龍巳を担いだまま風呂場へと向かう。風呂場の扉を足で蹴り開けて、中の床へと龍巳を下ろした。風呂に溜まっていくお湯の温度のおかげか、中は僅かに温かい。
「伊佐名……」
戸惑っている龍巳をバスタオルの拘束から解放して、中途半端になっているボタンを外していった。
「自分で出来るってば」
「もうあまり待てない」
「なに、言って……」
「早くお前の全部に触りたい。お前に全部、聞いて欲しい」
「……わ、わかった」
大人しくされるがままの龍巳は、所在無さげに手をゆらゆらさせてから、スラックスの脇の縫い目の辺りを掴んで、緊張したように目をぎゅっと瞑る。その様子が可愛くて、むくむくと加虐心が刺激された。同時に、そんな自分に驚く。そういえば、すっかり忘れていたが、昔は結構悪戯好きでよく親に叱られていた気がする。
ボタンを一つ外す度に、龍巳の顔に赤みが増す。目尻に皺が寄るほど強く瞑られた目。スラックスを握る手が白くて少し震えていた。俺はついに堪えられなくなって、ボタンを外しながら龍巳の唇に自分の唇を重ねる。
「ん……」
唇から漏れた小さな吐息すら興奮材料で、俺は性急に唇を合わせながら、ワイシャツを押し上げていた胸の突起を親指で押しつぶした。
「あッ、や、……ぅ、んン」
びくりと身体を震わせて、囁きのような喘ぎ声を漏らす龍巳。スラックスを掴んでいた筈の手が、俺の身体を緩く押し返すように胸へと添えられた。だから、そういうのが良くないんだ。そんなの抵抗じゃなくて、煽りでしかない。
開いた口に舌をねじ込むと、それだけで龍巳の口内はいっぱいになってしまう。舌を探すと奥で縮こまっていた。もしかすると、龍巳は慣れていないのかもしれない。何処か安心している自分がいて、それでも脳裏に過ったのは、龍巳の傍でよく見かける男の姿だった。
上顎を舌で撫でながら、指ではより硬く芯をもち始めた胸の飾りを指で摘まむ。カリカリと先端を引っ搔くと、ビクビクと跳ねる身体は力が抜けてきたようだったので、龍巳の足の間に自分の足を差し込んで、身体を支えた。太腿にあたる硬い物。どうやら龍巳も興奮してくれているようだ。
「ふ、ぁ…んぅ……ァ」
歯列を舌でなぞって、龍巳の舌が蕩けてくる頃には、ねだるように首に腕が回されていた。ようやく出てきた舌をじゅっと吸い上げて、引っぱり出す。また引っ込む前に、舌と舌を擦り合わせて、絡めとって、これは気持ちいことで、こわくないんだと覚えさせた。
ワイシャツのボタンを全て外し終えて、キスに夢中になっている間に脱がせにかかる。どうしてもその脱ぐ過程が見たくなって顔を離そうとしたが、ぐっと首の後ろに力がかかって諦めた。龍巳の方から舌を出されてしまえば、俺はそれに抗えない。龍巳がキスの気持ち良さを覚えたことによる、思わぬ弊害だった。
脱がせたワイシャツを床に落として、すっかり熟れた乳首を直接指で刺激してみる。手も触れていないはずの俺の股間は、目の前の痴態とキスだけですっかり勃ち上がり、龍巳のスラックス越しのソコへと圧をかけてしまう。
「あ、っ……」
龍巳の口に混ざり合った唾液を送り込みながら、左手で乳首をぐりぐりと押し込んで、こっそり右手で龍巳のベルトへと手をかけた。片手のもどかしさが更に興奮を煽り、手伝おうと下りてきたらしい龍巳の片手は俺の手を擽るばかり。そんな龍巳の手を俺の股間へと誘導したら、下着越しに俺のモノの形を確かめるようになぞった。
「んッ……ぁ、? お、きい……」
「下着をズラして、外に出してくれないか」
「ん……」
たどたどしく下着のウエストゴムに手がかけられて、ゆっくりと下ろされていくと、すっかり勃ち上がったソコは、下りきる前に下着からぶるりと飛び出した。
「あ、っ……すごい」
勢いに驚き引っ込んでしまった手。再び恐る恐る近づいてきて、直接、下から上へスルリと撫で上げられた。単純なソレはピクリと更に上を向く。大量に出ていた先走りが、龍巳の手を汚した。
俺もようやく龍巳のベルトを外してスラックスの前を寛げて、膨らんでいる下着の形を堪能する。
「んっ…! や、ッあ…っ」
ふにふにと揉み込んでから、雨のせいか先走りのせいか、ぐちゃぐちゃに濡れている下着越しに抜くように刺激すると、どんどん硬度を増して、更に立ち上がっていく。他人に性器を触られるのが初めてなのか、過ぎた快楽に閉じられなくなったらしい口からは、飲み込めなくなった唾液が漏れていく。それを舌で舐めとって再び口づければ、小さな喘ぎ声が口の中に反響して、脳まで響いた。
「……かわいいな」
すっかり勃起した龍巳の性器は、苦しそうに下着を押し上げている。
「ッやだ、もっ、ぅ……出したい…」
「いいぞ」
「やだぁ、っ、…ぁ! いっしょ、…がいい」
快楽に蕩けた瞳をうるうると潤ませて、そんなお願いをしてきた。龍巳の性器を弄っていた手に、俺の先走りで手をべとべとにした龍巳の手が触れる。
「……お前、こういうの初めてなんだよな?」
すっかり翻弄されている自分に、『コイツ、まさか初心そうに見えて散々男を転がしてきた手練れなのでは……?』という疑問が生まれてしまう。
龍巳は俺の「初めてか」という問いにコクコクと二回頷いたかと思うと、恥ずかしそうに俺の首に縋り付き、吐息混じりに耳元で「全部、伊佐名がはじめて」なんて囁くから。
「……っ!」
「っあ、なに、ッ!?」
龍巳の下着をずらして性器を露出させると、自分の腰を強く押し付けて近づき、お互いの股間を擦り合わせた。
「お望み通り、一緒に……な」
「や、ッンん…、っあ!」
二人の股間を一緒くたに抜きあげる。俺もモノよりも短い龍巳の股間のカリ首が、俺の裏筋のカリの窪みに嵌って気持ち良い。ついそこで力が入ってしまうと、龍巳もカリで刺激が強くなって気持ちいいのが、喘ぎ声が大きくなった。クチクチと控え目だった水音は、今ではグッチュグッチュと激しい音を立てている。案の定恥ずかしがった龍巳がイヤイヤと首を振った。その音を誤魔化すように口を塞いで、キスの音が響くようにと耳を弄りながら塞ぐ。
「んぅ…っあ、ッや……ぁ、!」
股間を抜いている俺の手に添えられていた龍巳の手の熱が消えたかと思えば、自分で乳首を触り始めた。
「……えろ」
「ッあ!? ちが、っ」
違うと言いながらも手は止められないようで、とろんとした顔で涎を垂らしながら、コリコリと乳首を弄り続けている。
「っ」
龍巳の舌を強く吸い上げながら、二人の股間の先端を強く刺激して、ほぼ同時に射精した。肩で息をしながら、脱力して崩れ落ちそうになった龍巳の身体を抱きしめる。そのままずるずると二人で床に座り込むと、俺は龍巳の足からスラックスと下着を抜き取った。
「あ、待って……じゅんび、しないと」
「準備……?」
俺はただ、龍巳がこのまま風呂に入れるように脱がせただけなのだが……。
「男同士はココ、使うから……」
そう言って龍巳は、M字に開いている足の間から手を入れて、尻の窄まりの辺りを精液で汚れた指でなぞった。
◇
――男同士 セックス やり方【検索】
「……尻にちんこを入れてピストン運動……前立腺……?」
「なにしてんの……」
「ああ、龍巳」
「『ああ、龍巳』じゃなくて!」
持っていたスマホが、ベッドへと乗り上げてきた龍巳によって取り上げられる。
「伊佐名はデリカシーがないんだってば、もう!」
怒っているようだったが、正直俺はそれどころではなかった。四つん這いのような姿勢をしている龍巳の胸元は、俺のTシャツが大きいせいもあってユルユルだ。先程さんざん弄って赤く腫れ上がっている乳首が丸見えだった。これは今日気付いたことなのだが、平らで白く綺麗な肌に、ぽちりと目立つ赤い突起物があると、本能的にどうしようもなく弄りたくなるらしい。
「すまん……」
「だから、分かってないのに謝るな!」
「それより、下は?」
「え? ……あ、えっと、大きくてずり落ちてきちゃうから穿けなかった」
「そうか……」
だから、そんな美味そうな恰好をしているのか。短パンどころか下着まで穿いてこないなんて……。そういえば、龍巳はどうして準備のやり方を知っているのだろうか。
「本当に、誰ともしたことないのか」
龍巳の両脇に手を差し込み、猫を持ち上げるのと同じ要領で持ち上げて、そのまま自分の足の上に座らせた。
「え? う、うん」
「なぜ準備の仕方を知っていた。調べたら、結構面倒そうだった」
「それは……言ったでしょ、結構早くに男が好きだって自覚したって。だから、自分で、その……」
「なんだ、お前も調べたんだな」
「まあ……」
戯れのようにキスを落とすと、龍巳は「伊佐名がしたかった話は……?」と聞いてくる。確かに大切な話だが、だからこそ今は出来そうにない。こんなにも美味しそうに下準備された御馳走を目の前に、集中できるわけが無いからだ。
「後でゆっくり、な」
「ん、ぅ」
すっかり慣れた様子で首にまわされた腕。Tシャツの裾から手を差し入れて、手に馴染んだ突起を摘まみ上げる。
「あッ、や…っ」
もぞもぞともどかしそうに動いて擦りつけられた下半身。先程一度射精したはずのそこは再び硬度を取り戻し、オーバーサイズのTシャツを下から押し上げ、ポチリと小さな染みまで作っている。何も身に着けていない無防備な肌に手を這わせた。小さく丸い尻の形を確かめるようになぞって、軽く揉んでみる。すべすべと心地よい肌触りで、新しいセラピーになりそうだ。不意に親指が尻の窄まりを掠めると、びくりと背を震わせてしならせた。しっとりとしているそこを、中指で突くと、くぷりと指先が沈んで、ぬっとりした粘液が指に付着する。
「……ふ、ぁッ」
なるほど……。先程、龍巳に風呂を貸すとき、ローションがあったら欲しいと言われたのはこういうことか。女と違って濡れないから、自分で中にローションを仕込んだらしい。
「見たかったな。準備するところ」
「変態……」
震える身体でそんなことを言われても、全くこわくない。寧ろ、興奮を助長する。
そのままつぷつぷと窪みに指を入れたり戻したりを繰り返して感触を楽しんでいると、龍巳に鼻を軽く噛まれた。
「もう解したから、早く挿れて」
そう言われて、とりあえず中指のそのまま中に沈めてみる。ぬぷぷと徐々に沈んでいくが、根元までは入りきらない。へたり込んできた龍巳の顔が俺の肩口に埋まり、いやいやと甘えるように緩く首が振られる。
「本当に解したのか? 指でも奥まで入りきらないが」
「んぁッ! ふ、あぅ……っ、い、伊佐名のゆび、ながい」
「あぁ、確かに手がデカイとはよく言われるが……。指でこれだったら、ちんこなんて余計に根元まで入らないだろ」
くにくにと指を曲げたり伸ばしたりして馴染ませていると、おもしろいくらいに目の前の身体が跳ねてとろとろになっていく。龍巳の口から垂れた唾液が俺のTシャツの肩口を濡らしていく。
「ッあ! あっ、や、ッア」
指一本が根元まで入るようになったので、中でぐるりと回してみる。
「あっ! ああ、あッ…」
龍巳の股間には一切触れていないのに、完全に勃ち上がって、もう腹にべったり付きそうだ。
「本当に、後ろだけで気持ち良くなれるんだな……」
「んっ、ンん…ッ!」
指を二本に増やして、また中にぬぷぬぷと埋め込んでいく。太さは問題ないらしい。多少のキツさはあるが、問題なく飲み込んでいく。第二関節まで入った辺りで、また奥を開拓していくように指を曲げると、ポッコリとしたものがあったので、それを指で撫でてみた。
「ッああ! やっ、イくっ、ぅッ!!」
ひと際大きく身体が震えて、急にビュクビュクと射精してしまった龍巳。驚いて、顔を覗き込むと、ぜえぜえと真っ赤な顔で荒く息をしながら涙を零していた。
「龍巳、ここ、気持ち良いのか?」
さきほどの場所をもう一度撫でると、大きくのけ反った。
「…!? ッや、やだッ、だめ! いまイッてる、ッ! あぅ、イッてるからぁっ!」
そう言いながら、二度目の射精。先程よりも勢いはなく色も薄くなっているが、独特の青臭い香りがむわりと広がる。とぷとぷと精液を吐き出すと、俺の胸に凭れかかってきた。
「おねが、もう、挿れて……っ!」
「だめだ。まだ狭い。このまま俺のを挿れたら割けそうだ……」
「いいからっ、割けてもいいからぁ……!」
ボロボロと涙を流す龍巳に罪悪感は湧くが、やはり身体は大切にしたい。涙を溢れさせる目尻や目頭に唇を寄せて、涙を吸いとっていく。
「そうだな……」
悩んでいるフリをしながら、二本の指を更に奥へと進めていく。突き当りをノックするようにトントンと叩くと、龍巳の身体が悶えた。ぴゅるっと小さく飛沫が飛んで、射精といえないほど勢いのない精液が吐き出される。指を三本に増やそうかと引き抜く動きすら気持ち良いらしく、俺の指が出ていくのを阻もうと、触れている肉壁がきゅうきゅうと指をしめ付けてきた。
三本の指を束ねて挿れようとすると、やはり二本の時より明らかにきつい。少し挿れて戻して、少し挿れて戻して……。馴染んできたら、少し大きめに動かしてみる。二本よりも空気が入るのだろうか、じゅっぽじゅっぽと厭らしい音が響いた。先程乱れていた膨らみを三本の指の腹で撫でると、龍巳は反射のように吐精する。
「ッあああ、あ…っ!」
「初めよりだいぶ解れてきたな。そろそろ挿れられそうだ」
射精してぎゅうううっと指を締め付けた後かなり緩んだので、その隙に三本の指を根元までしっかりと馴染ませた。行き止まりを確かめるように指を曲げて奥の壁を擦ると、もはや色も粘度もなくなったものが、龍巳の股間から勢いもなくとろとろと流れてくる。
「……大丈夫なのか、これ」
「だいじょぶじゃ、ない……! おかしくなったら、せきにんとれ……」
「分かった」
「んああッ!」
奥をトントン突いてから指を曲げて、でっぱりを引っ掛けながら指を引き抜いた。龍巳の身体は一際大きくビクビクと震えたのに、性器からは何も出て来ない。
「もう、全部出し尽くしたのかもな」
「ふ、ぁ……! やッ、うう……、ッ!」
どこを見ているのか、ゼエゼエと荒く息をしながら答えにならない言葉を返してくる龍巳を前に、挿入もまだなのにすっかり興奮しきっている自分に気が付いた。こんなに丁寧に前戯をしたことも、性行為に感情が高ぶったのも、全てが初めてだ。
バックの姿勢が楽らしいと聞いて、四つん這いにさせて腰だけ高く上げて貰った。
「挿れるぞ……」
すっかり勃ち上がっている自分の股間を一応数回擦って完全に勃起させ、ゴムを被せる。
既にさんざん弄ったせいで、龍巳の穴のふちは赤くふっくらと充血していた。そこに股間の裏筋を擦りつけていると、「そんなおおきいの、はいらないっ……」なんて、龍巳が泣きごとを言う。
「どうした? さっきは『割けてもいいからもう挿れて』なんて言ってたくせに」
「だって、おれ、指しか挿れたことない……やっぱりこわいっ」
「大丈夫だ。さっき沢山解しただろう」
「でも……」
不安がる龍巳の身体の向きを変えて、仰向けにする。唇を合わせると、首に腕が回って、夢中になって舌を突き出してきた。すっかりキスが好きになったらしい。
「ん、んっ、ぅ」
くちゅ、ぴちゃっと音をさせながら、控えめな喘ぎ声が漏れてくる。尻を弄っていておざなりになっていた乳首も、やはり触ると反応が良い。キスをしながら片手で胸の突起を弄って、もはや機能しなくなっているへろへろの股間と、その下の睾丸を揉んでやる。
「あ、ぅんッ、…ッあ」
緊張が解れてきたところで、龍巳の足を掴んで持ち上げる。身体をくの字に曲げさせるような体勢にすると、ぷっくりと腫れた肛門が、挿入を待ち望むようにくぱくぱと動いていた。
先端を擦りつけただけで、雄を飲み込もうと蠢いている。自分の腹に付くほど上を向いている股間を片手で押さえながら、穴にむかって少し力を込めると、充分に解したそこは、ずぷぷと難なく飲み込んでいった。
「…あ、んあぁっ、あ、ぅ!」
「……っ」
締め付けが凄い。既に射精しそうだったが、ぐっと腹に力を込めて堪えた。
「力、抜けるか?」
「っあ、あ、むりぃッ…!」
「分かった」
龍巳の股間を手で擦り上げる。一際強くなった締め付けに、息を詰めた。しまった、ここじゃなかったか。ふにゃふにゃの股間から残滓のようなものが、トプッと少量出てきた。諦めずにそのまま上下に竿を擦ると、出そうで出ないのがもどかしいのか、肉壁が奥へと招き入れるように緩んで蠢き始める。
「やッ、あ、っあ…! イく、…ッもぅ、イくっ」
「っまだ、待ってくれ」
龍巳の股間は射精しそうにないが、念のために根元をきゅっと握る。腰を奥へと進めていくと、一番太いカリの部分をゆっくりのみこんでいく。赤らんだフチが限界まで伸びて、どうにか切れずに済んだらしい。褒めるようにそのフチを指でなぞれば、痙攣のようにヒクヒクと動く。
「あ、ッあ、や、ァぅ……!」
苦しそうに呼吸をしている龍巳に覆いかぶさって唇を合わせる。
「一番太い部分が入ったぞ、っ……もう大丈夫だ」
自分だっていっぱいいっぱいな癖に、余裕ぶりたくて格好つけてしまう。本当は、早く動きたい。こいつの細い腰を掴んで、めちゃくちゃに揺さぶって中を掻き回してしまいたいのに。
「ほんと……?」
「ああ」
汗の滲む額に口付ける。軽いリップ音を鳴らしながら二、三回と場所を変えて。
「いさな、きもち、いい……?」
自分が大変な時にまで相手の心配をする龍巳。折角我慢しているのに、どこまでも俺の理性を試すように心をかき乱してくる。
「っあ、なんで、おっきく……」
「ちゃんと気持ちいいよ」
「よかった、ぁ」
龍巳の首筋に顔を埋めて、汗ばんだ皮膚に舌を這わせて吸いながら時折歯を立て、どんどんと自身を奥へと埋め込んでいく。
「ふ、ぁッ…! ああっ、ア…っ!」
カリが龍巳の弱点のでっぱりを掠めると、龍巳は身体をしならせ喉を晒してのけ反った。
「あっ、あっ、ああア、……ッ!」
「龍巳はココ、好きだよな」
「んンッ、や……っあ、んッ、…や、ぁっ!」
わざと腰を前後させて、そこを擦って突き上げる。心配になるほどビクビクと身体を震わせて、繰り返しギュウギュウと中を締めてきた。どうやら、射精せずに中だけでイッているらしい。
「すごいな、お前……」
「っちが、あッ…! い、いつもはこんなじゃ…ないっ、あ、ッふあ、ア……っ!」
額にかかっている長い前髪を後ろに撫でつけてやると、中がきゅんと締まる。
「なんだ、これが好きなのか」
「ちがうっ…」
「ナカで分かるぞ」
「ばか、ぁ」
もう一度同じ動作を繰り返して、その額に口付けてやると、また中が動く。
「……なんでそんな可愛いんだ」
「んぇっ!?」
我慢……していた方だろう、これでも。
「お前、奥も好きだもんな?」
「い、やっぁ…ッ! まって、まってぇッ……っあ、ンん!」
ずぶずぶと腰を押し進めて、根元までずっぽりハメ込んだ。俺の下生えが龍巳の皮膚に触れる。
「っあ、あ、ぅ…ン」
「一番奥まで入ったぞ」
「んん、ぅ…ぁ!」
「奥、沢山突いてやろうな」
「ッあ、だめっ…! だめ、っあ、や…ンっ!」
長めのストローク。指でよくやったように、奥をトントンと叩いてから、ズルズルと腰を引く。龍巳の好きな所をわざと引っ掛けてから、抜けるギリギリまで引き抜いて、今度は勢いよく中を突く。皮膚と皮膚がぶつかって、パンッと乾いた音が鳴った。
「ッあん!」
自分の声に驚いたのだろう。龍巳は目を見開いて、両手で自分の口を押さえた。
「や、ァ……! ふぁ、ッ、ん、ぅ……」
ぱちゅ、ぱちゅ、と腰を打ち付ける度に、手の隙間からくぐもった声が漏れる。もっと声を聞かせて欲しいのに。口を押さえる龍巳の手の甲にキスをすると、すっかりキスの虜になった龍巳は自ら手をどかして俺の背中に回した。
「かわいすぎるな、お前は……」
「んっ、…ん、ぅ! ッして、くち、……っ!」
舌を差し込んで、口の中を掻き回す。腰を打ち付けるスピードも上がって、龍巳の熱くてとろとろでグチャグチャな中に股間が溶かされそうになる。熱く絡みついてくる。ズンズンと中を突いて、奥を叩く度に、内壁がきゅんきゅんと締め付けを強くして、精液を搾り取ろうと蠢いた。振動に合わせてぷるぷると頼りなく揺れる、吐精を忘れた龍巳の性器。薄くなる酸素。熱をもった身体。チカチカと点滅を始めた視界と、眩暈のような感覚。目の前に見えた赤い突起を、何も考えずに摘まんで、散々痕をつけた首筋に歯を立てた。その瞬間――
それは、大きな落雷だった。
「あッ、!? や、イく、ッあ、? ―ッ!? もれ、ぅ…――――ッ!!」
「っ!」
プシャッと何か液体が噴き上がって一際強く中が締まる。ギュウウッと根元から締め上げるような刺激に、俺は奥を突きあげながらドプドプと大量の精子をゴムの中へと吐き出した。
肩で息をしながら、龍巳が泣きそうに瞳を潤ませる。
「おれ、もらしちゃった……?」
「いや……尿の匂いはしないが……潮吹きってやつか?」
「しお……? 本当に? ねえ、電気は……」
そう言われて電気をつけようとしたが、つかなかった。
「……停電してる?」
「あ……そういえば俺、風呂入ってねえ」
「……」
「……」
ザアザアと激しく降りしきる雨。窓から外を見てみれば、ここら辺一帯はみな停電のようで真っ暗だった。
「伊佐名……」
「どうした」
抱き着いて来た龍巳の体温が心地いい。
「伊佐名の話、聞かせてよ」
「……あとでな」
唇を合わせれば、あっさりと折れてキスに夢中になる。俺だって話したい。けれど、あまりにも美味そうなこいつだって悪いはずだ。
「……すまない、ちょっと玄関の鍵だけ確認してきてもいいか」
ぎゅっと泣きそうに顔を歪めた龍巳に頭を抱きかかえられる。俺よりも小さな龍巳は背伸びをして、俺は屈んで高さを合わせた。
「大丈夫。かけてたよ、鍵」
「そうか」
「うん」
きっと、これからいつだって話せる。
五十二ヘルツの鯨は
心に影を落とす雨音も、雷鳴も、お前の体温に照らされて、お前と彩る思い出に塗り替えられていく。
ともだちにシェアしよう!