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第7話

7.甘えるくせに さんざんまた千早にやられて、意識を失ったのだか疲労で自然と眠りに落ちたのか、目覚めるとすうすうと寝息がかかる距離で千早も眠っていた。 時計を見ると9時を回っており、空腹を感じて、夕食も食べていなかったのを数生は思い出した。 ベッドに起き上がって音量をオフにしていたスマホを見ると母親からの着信の通知が何度か残っている。【ちょっとあんた、いくら千早くんちに泊まるって言っても〈おめでとう〉のひとことくらい親にも言わせなさいよ!】と怒りのメッセージが最後に入っていて、さすがに悪かったな、と思う。 土下座したキャラクターのスタンプを付けて【ごめん、疲れて寝てた】と返しておいた。学校をサボってよからぬことに耽って疲れ果てたわけで、完全に親不孝をしているようで良心は少々痛んだが、家族ぐるみの付き合いの千早との仲を母親が疑うことはまず無いだろう。 もう一度、千早の隣に横たわると長い睫毛が暖房のそよそよした風に揺れるのが見えた。 千早の寝顔なんて今まで何億回も見てきた気がするのに、その日ばかりはやたらと愛おしく感じてしまって、柔らかい髪の毛をそっと撫でる。 何度もそうしていると、千早の目がスローモーションのようにゆっくりと開かれた。色素の薄い瞳が数生をぼんやりと見つめる。 「数兄…?」 「あ、起きた。もう9時過ぎてるぞ、千早」 「ん、そう…」 目を擦って寝ぼけた顔で言うと、数生の首元に頭を寄せてきた。鎖骨のあたりに乾いていて柔らかな唇が当たるのを感じ、数生はギュッとその頭を抱きしめた。 「数兄、あったかい」 「うん…」 ふわふわした髪の毛の中に顔を入れて、頭に口付ける。 「俺、ほんとに数兄とずっと一緒にいたい。…ねえ、大学も、同じとこ行ってもいい?」 「お前、大学まで俺に付いてくるのか?」 数生は苦笑した。 「自分のやりたいこと探せよ、千早。同じ大学じゃなくても都内だったらいつでも会えるし…。勉強してみたいことだって少しはあるだろ?バンド始めたんだから、そういう活動が盛んなとこ選んでもいいし。もし、本気でやりたいことがあるなら他の県の大学に行くって言う手も…」 「…ヤダ。遠くになんて行かない。数兄と同じ大学がいい。明成大はマンモス大だから色んな学部があるし、その中から選ぶ」 「まあ、あと一年以上あるんだからゆっくり考えろよ」 「もう決めた。…大学で数兄がまた黒髪の清楚な女に出会って浮気しないか心配だし」 「お前なあ…」 「数兄を絶対に盗られたくない」 「…お前って執着強いんだな」 「だってせっかく好きになってもらえたから…」 すると、抱きしめた千早の肩が小刻みに揺れているのに気づいた。ん?と思って千早の顎を掴んで顔を上げさせると、涙が目に滲んでいる。 「え、なんで泣いてんの」 「数兄にはっ、分かんねえよ…俺がっ…どんだけ今まで数兄のこと好きで…でもずっと我慢してたか…」 涙が瞳からポロリと溢れ落ちてギョッとする。小学校で同級生にいじめられていたとき以来、千早が泣くところなんて見たことが無かった。 「わー、泣くな泣くな!」 慌てて数生は指先でその目元を拭った。 「好きなんだよ、数兄…」 「あー、分かった分かった。大学も一緒に行こう」 「ほんと?一緒の大学に入ってもいい?」 「…ちゃんと勉強しろよ。学部によっては偏差値高いんだから…」 「うん、する…。ちぇ、数兄がもし浪人してたら一緒の学年になったのに…」 「それだけは嫌だったよ、俺は…」 はあ、と数生はため息を吐いた。 本当にこいつは世話が焼ける。 ガンガンいいように人の身体を責めてきたかと思えば、こうして甘ったれて来るのだ。快楽を与えられては振り回されて、息もつけない。 「俺だって、もうお前とは離れられないよ、千早」 そう言って数生は千早の顎を指で上に向けると、唇を優しく重ねた。 すると急に目覚めたかのように獰猛に千早の舌が唇を割って押し入ってきて数生の舌に絡みつき、さっきまではしゅんとしていた癖にまるで生き返ったように強く数生の頭を押さえてくる。 やっぱり千早といるとドキドキする気持ちが止まらない。すっかり弟から恋人になってしまった年下の男の身体を抱きしめ返して、その日何度目かの甘くていやらしい行為がまた始まろうとするのを数生は感じていた。

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