そうした日々を送っていく中、全国のコンサートに呼ばれるほどの、音楽界では有名な両親であるため、それに伴い、各地を転々としていた。 そんな中で、当時通っていた幼稚園では、どこからか噂を聞きつけた親の影響であろうか、はたまたそう教えられたのか、同じ園の子達からいやに話しかけてきた。 同じクラスはもちろん、こんな子も同い歳にいるのかという顔も名前も知らない子までも、紫音にやたらと話しかけてきた。 分からないから話しかけたくもない。 けれども。ここで突っぱねたら、また母の叱責を受けてしまう。 それが何よりも怖くて、どこにいても他愛のない話をしてくる子達の対応をした。 ところが、無理が祟ったのか、熱を出してしまった。 酷く辛くて、息をするのでさえ苦しくて。 そういえば、名前も覚えてない子が親に普段よりも優しく、そして食べさせてもらったと言っていた。 この時だけは、優しくしてくれないだろうか。 そんな甘い期待を僅かながらにしてしまった。 「どうして、面倒臭いことをするのかしらねぇ」 ベッドに横たわっている紫音を一瞥し、心底不愉快だと深いため息を吐いた。 息が詰まりそうになった。 面倒臭いことって。 「これから、ヴァイオリンと歌のレッスンもあるのにどうするのよ」 熱のせいなのか、視界がぐらつく。 母の話を聞く余裕もなかった。だから勝手に話を進めて、いつもと変わらずの態度で、平然と習い事に行かせようとしていたらしく、「さっさと準備しておきなさいよ。でないと、お仕置きだから」と一言も息子を心配する声を掛けることもなく、部屋を出て行った。 どうして。なんで。他の子達が言っていたような心配をしてくれないの。 ぼくが、お母さんの言うことを少しも出来てない、悪い子だから？ 分からない⋯⋯どうして⋯⋯。 「──今日から隣の家に行ってもらうから」 何度目かの引っ越しした、朝食を摂っている最中に何の脈絡もなく、そう告げられた。 あまりにも急な話に食べていた手が止まり、思わず母の横顔を見ていると、機嫌悪そうな表情を見せた。 「何？ 何か言いたいことでもあるの」 「あ、いえ⋯⋯なんでも、ありません」 「その口調も苛立たせる態度も、隣の人の前ではしないでよね。まるで私が悪者扱いされて、評判が悪くなるから」 「はい⋯あ、うん」