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その子の名は、「あかと」と言うらしい。 どういう字を書くのだろうと考えに耽っていると、挨拶を促されたその子は、「やだ」と言って、完全に隠れてしまった。 どうやら人見知りのようだ。しがみついている小さな手をぎゅっと掴んでいた。 "あかと"は、どんな風に笑ってくれるのかと期待をしていたが、この様子だと、自分がいなくならない限り、可愛らしい顔ですら見せてくれないのだろう。 残念。 何故、母は唐突にあのようなことを言ったのか、この家にいつまでいさせられるのか、この先やっていけるのかと様々な不安の渦が巻き始めた時、"あかと"がそろりと顔を出した。 また可愛い顔を見せてくれるだなんて。 胸が弾むくらい嬉しくなり、自然と笑顔になっていると、どうしてか、"あかと"は頬を赤らめたのだ。 人見知りだというから、恥ずかしく思ったのだろうか。 こちらから、何か話しかけてみようか。 「こんにちは」 「こ、こんに、······は」 緊張しているようだ。それでも、挨拶をしようとするのが偉くて、可愛い。 そういえば、この子が来る前に何か小さい物が走っていたが、何か遊んでいたのだろうか。 「なにしてあそんでいたの?」 「み、ミニカーで······あそんでた」 ミニカー? 初めて聞く言葉だ。 ふと、先ほど"あかと"が追いかけていた物を思い出し、「これであそんでいたの?」と、拾って渡してあげた。 「あ、ありがと······」 紫音より小さな手でミニカーを持って、恐る恐ると言ったように礼を告げる。 警戒心が解けないのは当たり前だ。それでも、今度はお礼をきちんと言えたのは、偉い。偉すぎる。可愛い。 この子と仲良くなりたい。 だから、一緒に遊んでもいいかと尋ねてみた。 すると、少々迷うような素振りを見せた。 この子に取ってはまだ初対面の人だ。一緒に遊びたいとは思わないのだろう。 仕方ない。せめてそばで見るだけにしてしようかと思っている時。 小さく頷いたのだ。 見間違いかと思った。 驚きで目を瞬かせていると、母が「"あかと"君と遊ぶの」と訊いてきたことにより、現実だと思わされた。 それに対して頷くと、「これからは、朝田さんの家でしばらくお世話になるのだから、迷惑をかけないようにね」と言われた。 日々の折檻に怯えることはなくなる。けれども、母との繋がる理由がなくなってしまうようで、寂しさを覚えた。 だけれども、自身の気持ちを押し殺さなければ、それこそ母の機嫌が悪くなってしまう。だから。 「あそぼうか」 にこっと笑顔を向け、ぼんやりとこちらの様子を伺っていた"あかと"の手を取って母から離れたのであった。

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