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7.
「─それで? 朝田さん家で何をしていたの」
家に帰り、習い事に行く準備をし、母が先に行っていた車に乗ると、開口一番にそう尋ねてくる。
さっき意気揚々と喋ろうとした時、機嫌悪そうにしていた人から再びそう訊かれるとは思わなくて、言ってもいいのかといいはぐねていた。
そうしていると、「どうなの」と苛立たしげに催促されたことにより、体が硬直してしまいながらも口を開いた。
「あ···え、と。あかとくん、ミニカーっていうくるまのおもちゃがすきで、ゆかにすべらせてあそんでいたの。あ、でね。あかとくん、パトカーだったら、ウーウーでいいながらはしらせていて、かわいいなって。コンビニっていうおみせなのかな、そこのドアにつっこんだかとおもったら、『おかし、いっぱいもらいまーす』っていっちゃって。よくわからないけど、たのしそうで、それと──」
「やっぱりね。ろくでもない教育を受けさせているのね」
一人で楽しそうに遊んでいる"あかと"のことを振り返りながら、段々と声を弾ませていると、突如として切られた。
面白くもないと言いたげに放った言葉の意味を理解をする前に、信号待ちをしていた母のハンドルを持つ手をトントンとしていた。
リズム的に、食事中に聞いているクラシックのものだと思いつつも、抑えきれない怒りのようなものを感じ、緊張が張りつめた。
「あんたが勝手に約束なんかするから、また近いうちに行かなきゃならないけどそうよね。しばらくお世話になるって言ったのが私だから、実行しなければならないよね。私が常日頃、言われた通りにしなさいと口酸っぱく言っていたことが、ここでようやくしてくれたのだから、この上嬉しいことがないから、ご褒美にそうしてあげる」
つらつらと運転しながら言う母の表情を、ルームミラーで盗み見ようとしても、ほぼ見えずじまいで、かえって恐怖を感じていた。
母が出任せにそんなことを言うはずがない。こっちが不利なことしか言わない。
「そんな子どもがやっていることが阿呆らしいと思いなさい。···あと、塾から帰った後、分かっているわよね?」
塾に着きそうな、見慣れた場所に来た時、母の怒りが頂点となった。
すくみ上がり、だから思わず、慌てて返事したのが上擦ってしまった。
逃げられない。出口のない部屋に放り込まれ、追いかけられるような気分を、塾の間も味わうことになってしまうのであった。
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