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8.
あの日の塾から帰った後のことを思い出すだけでも、今朝の口にした物を戻しそうになった。
こういうことをしても、またさらに怒らせてしまうのだから、必死に耐えないといけない。
それに、母の言うことを聞いていれば、"ご褒美"として、朝田家に、"あかと"に会えるのだから。
今日がその"ご褒美"として、朝田家に行く日だった。
しかも、泊りがけであった。
幼稚園の休みであるから、習い事は午前中に終わることもあり、昼間からいられる。
嬉しくて仕方ない。
だけれども、母は何故か朝田家の人を嫌っているから、嬉しそうな顔をしていると、癪に障ってしまうため、どうにか表に出さないよう努め、朝田家に赴いた。
母は今日も仕事で忙しいため、昼食は朝田家の人と共にすることとなった。
その際に父親と初めて会ったのだが、朗らかな母と違い、あまり表情を出さない人のようで、パッと見、怖く感じられたが、「この人こんな顔だけど、怖くないのよ」と"あかと"母が言った直後、その人がおもむろに両頬を引っ張ったり、戻したりを繰り返していた。
突然のことに、紫音の父親がやったことのない行動に、目をぱちくりしていると、"あかと"が笑っていた。
笑うところなんだと"あかと"のことを見ていると、"あかと"は、小さな両手をいっぱいに伸ばして、自身の父がやっていたことをし始め、そのことに対しても笑っていた。
「あはは······あっ」
紫音も今度は笑っていると、”あかと”がやってきて、頬を伸ばしてきた。"あかと"が無邪気に笑う。
「ははっ、しおんくん、へんなかお〜!」
「あら、本当ね」
「あかと。もっと伸ばしてみろ」
「い〜〜」と言いながら、容赦なく限界まで伸ばしてくる。
さすがに痛くて、「いひゃい」とどうにか訴えると、その言い方が面白かったらしく、両親も耐えきれないと言ったように肩を揺らす。
「もう、いい加減に······っ、お昼、食べないと···っ、あかと、やめなさい」
「やー」
嫌という意味なのだろうか。けれども、素直に離してくれた。
ひりひりとする両頬を触っていると、「紫音君、ごめんね」と母親が謝ってくる。
「あ、いえ。だいじょうぶです。ただ、こういうことをされたのがはじめてで、どうすればわからなくて······」
「そうなの。そうねー······」
「ねぇ! たべたい!」
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