9 / 39

9.

"あかと"が遮るように、テーブルをだんだんっと叩いていた。 「こらっ。あかと、そういうことしちゃダメでしょ」 「すぱぱ、たべたいっ!」 「だったら、よだれ掛けしてやらんとな」 「やー! あかちゃ、ない!」 "あかと"と共に席に着いていた、父親が持っていたよだれ掛けを見た途端、大声を上げて、幼児用椅子から出ようと暴れ出す。 「あかとっ!」 本気の怒り方に、自分のことを言われたわけではないのに、紫音はビクッとした。 しかし、幸いと言っていいのか、母は落ちないように椅子を支え、その間に父が暴れている"あかと"にどうにかこうにかよだれ掛けを付けようとしていて、こちらに気づいている様子はなかった。 「······なんとか、出来たな」 「むーっ!」 「取ろうとしないの。スパゲティ、食べたい人ー?」 「あかと、やるっ!」 母親が持っていたフォークを強引に奪い取ると、握りしめて、スパゲティをすくい上げようとしていたが、フォークの刃から零れ落ちてしまう。 「ママが食べさせてあげるから」 「やーぁ!」 目を丸くしてしまうほどに大きな声を上げた"あかと"は、フォークともう片方の手で食べ始めてしまう始末。 ものすごい食べ方をしてると、すぐに口の周りと、よだれ掛けがソースまみれになりながらも、それでも、満足げに食べている"あかと"を呆然と見ていた。 「あかとが食べちゃってるから、私達も食べましょうか」 「そうだな」 「紫音君もお待たせしちゃって、ごめんなさいね。お腹空いているでしょう?」 「ぼくのことは、おかまいなく」 「まあ、よく出来た子。でも、気を遣わせてちょうだい」 微笑んだ母親からそれぞれ手を合わせ、「いただきます」と言い、食べ始めた。 周りに気を配れと言われ続けた紫音にとって、逆にそのようなことを言われるとは思わなく、一拍遅れて手をつける。 「しおんくん、あのね。おやま!」 「······おやま?」 「あぁ、こないだ公園に行って、砂のお山を作った話をしているのね」 「ん! つくった!」 鼻息荒く、目をらんらんに輝かせて言う"あかと"に、何の脈絡なく言われたものだから、呆気に取られそうになったが、汚れた口元というミスマッチさに、小さく吹き出していた。

ともだちにシェアしよう!