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9.
"あかと"が遮るように、テーブルをだんだんっと叩いていた。
「こらっ。あかと、そういうことしちゃダメでしょ」
「すぱぱ、たべたいっ!」
「だったら、よだれ掛けしてやらんとな」
「やー! あかちゃ、ない!」
"あかと"と共に席に着いていた、父親が持っていたよだれ掛けを見た途端、大声を上げて、幼児用椅子から出ようと暴れ出す。
「あかとっ!」
本気の怒り方に、自分のことを言われたわけではないのに、紫音はビクッとした。
しかし、幸いと言っていいのか、母は落ちないように椅子を支え、その間に父が暴れている"あかと"にどうにかこうにかよだれ掛けを付けようとしていて、こちらに気づいている様子はなかった。
「······なんとか、出来たな」
「むーっ!」
「取ろうとしないの。スパゲティ、食べたい人ー?」
「あかと、やるっ!」
母親が持っていたフォークを強引に奪い取ると、握りしめて、スパゲティをすくい上げようとしていたが、フォークの刃から零れ落ちてしまう。
「ママが食べさせてあげるから」
「やーぁ!」
目を丸くしてしまうほどに大きな声を上げた"あかと"は、フォークともう片方の手で食べ始めてしまう始末。
ものすごい食べ方をしてると、すぐに口の周りと、よだれ掛けがソースまみれになりながらも、それでも、満足げに食べている"あかと"を呆然と見ていた。
「あかとが食べちゃってるから、私達も食べましょうか」
「そうだな」
「紫音君もお待たせしちゃって、ごめんなさいね。お腹空いているでしょう?」
「ぼくのことは、おかまいなく」
「まあ、よく出来た子。でも、気を遣わせてちょうだい」
微笑んだ母親からそれぞれ手を合わせ、「いただきます」と言い、食べ始めた。
周りに気を配れと言われ続けた紫音にとって、逆にそのようなことを言われるとは思わなく、一拍遅れて手をつける。
「しおんくん、あのね。おやま!」
「······おやま?」
「あぁ、こないだ公園に行って、砂のお山を作った話をしているのね」
「ん! つくった!」
鼻息荒く、目をらんらんに輝かせて言う"あかと"に、何の脈絡なく言われたものだから、呆気に取られそうになったが、汚れた口元というミスマッチさに、小さく吹き出していた。
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