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10.
「そうなんだ。いっしょにつくりたかったね」
口元の汚れに気づいた母に拭かれていることに気を取られ、紫音の独り言のような形になったが、特に気にもしなかった。
誰にも向けられてこなかったから、紫音から話したわけではないが、少しでも自分のことを見て、話してくれるだけでも嬉しい。
「しおんくん、あ〜ん!」
「·········え?」
拭き取ってもらい、食べ始めたかと思った"あかと"が、母親の真似事をして、だが、上手く巻き取れず、奇跡的に取れた一本を差し出してきたのだ。
何がしたいのかと、彼の意図を汲み取ろうとした時、母親がクスリと笑った。
「最近、この子ったら、人にものを食べさせることにハマっているみたいでね。食べてあげないと怒るのよ」
「そうなんですか······」
「んっ!」
「食べてもらってもいい?」
「はい······」
精一杯伸ばしている手をグイグイと促してくる"あかと"に、戸惑いながらも口に含んだ。
「おいちー?」
「うん、おいしいよ」
「へへっ、よかった」
にこっと、嬉しそうな顔を向ける"あかと"に、紫音も一緒になって笑った。
と、それでは飽き足らず、"あかと"はまた一所懸命に巻いては、また食べるように手を伸ばしてくる。
それでまた食べてあげると、「おいちー?」と小首を傾げて訊いてくるものだから、可愛いと思いながらまた答えると、またまたやってくる。
ここで断ったら、"あかと"の機嫌が損ねるというし、人の顔色を伺ってきた紫音は断れずに食べてあげる。
そんなことを繰り返していくうちに、両親が止めるように言っても、嫌と言って、そっぽを向いたりもしていたが、そのうち自身の食べるスパゲティが無くなってしまい、大泣きをしてしまい、紫音の分をあげたのは、言うまでもない。
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