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11.
昼食を終え、満腹になったからなのか、騒ぎ疲れたからなのか、"あかと"はうとうとし始めたため、母親は寝かしに行った。
父親は用があると言って、出かけに行き、自分の皿を流しに持って行った紫音は、いいように思われようと昼食のお礼も兼ねて、皿を洗おうとした。
ところが、自分の家にあるような踏み台が見当たらなかった。
これでは流しに届かないし、悪く思われてしまうと徐々に焦り始め、慌てながら周りを隈なく探す。
ない。ここにもない。これなら台代わりになるか。
「······紫音君。ここにいたのね」
背後から不意に小声で言われ、肩が一気に上がった。
「ここで何をしているの? かくれんぼ?」
「あ······ちゅうしょくをいただいたので、おれいにおさらあらいをしようとおもいまして······」
「そんなこと。いいのよ。危ないから私がやるわ」
「で、でも······っ。じぶんがつかったものだから······」
自分で使ったものだから、洗うものかと思っていた。しかし、この母親の様子は違うようだった。
「·········紫音君のお母さんがそう言っていたの?」
目を見開いた。裾を掴んでいた手に力が入る。
こういうことを言われた時、こう答えろと言われた言葉を思い出す。
「いえ。じぶんからやらないと、りょうしんがしごとでいそがしいので」
思い出しながら言ったものだから不自然だと思われたのか、じっと見てくるものだから、緊張感が一気に高まる。
他に何かを言わねば、なんだろうか。それとも⋯⋯。
「⋯⋯そう。お父さんお母さんがいない分、頑張っているのね。えらいえらい」
紫音の目線に合わせるようにしゃがむと、頭を撫でてきた。
一瞬、何をされたのか理解できなかった。
母の手は、何をしても母の言う通りにできない子どもを叱りつけるために、叩くものかと思っていた。
けれども、"あかと"の母は、褒めてくれ、さらにはにこにこと撫でてくれた。
洗ってもないのに。紫音にとっては、当たり前なことを言ったのに。
どうして、そうしてくれるのか。
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