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12.
「でもね、紫音君。ここは紫音君のお家じゃないから、そこまでやらなくてもいいのよ。紫音君は、お客様なのだから」
「でも⋯⋯っ!」
「じゃあ、どうしてもしてくれるっていうなら⋯⋯あかとのそばにいてくれないかしら?」
「あかとくんの?」
一体、何をすればいいのか、と疑問だというような言い方をすると、より一層笑みを深めた。
「あの子、起きた時に誰かがいないと、寂しくて泣いちゃうみたいなの。だからね、ただそばにいるだけでもいいから、そうしてくれないかしら?」
「ままぁーっ!!」
隣のリビングから、突如として、激しく泣き叫ぶ"あかと"の声が聞こえ、思わずぎょっとしてしまった。
「⋯⋯言ってるそばから⋯⋯はいはい」
困ったように笑いながら、サッと行く母のことを追いかけた。
「ままーッ!」
「どうしたの。ママがいなくて寂しかったの?」
よしよしと、ぐずる"あかと" を抱き上げて、あやしているのを、遠くで見つめていた。
"あかと"は、寂しいと思えば、泣いて、そしたら誰かが来てくれる。
どんなに喚こうが、自分には誰も来てくれない。来たとしても、慰めてもくれない。
悲しさに包まれ、現実から目を逸らすように踵を返そうとした時。
「しおんくん!」
足が止まり、自分のことを呼んでくれる声に導かれると、泣き腫らした顔で太陽のような笑顔を見せてくれた。
「しおんくん、いっしょにおねんね!」
「え?」
「おねんね!」
母の手から離れ、とてとてとこちらに駆け寄ると、可愛らしい両手で手を取ってきた。
それでも困惑している紫音に、「紫音君と一緒に寝たいのね」と母親が微笑ましげに、紫音を引き連れてくる息子のことを見つめていた。
「え、ぼくといっしょにねたいの?」
「うん!」
鼻息荒く、自身が寝ていた場所をバンバンと叩く。
そうして、ささっとタオルケットを被ると、「とんとんして!」と幼児体型の特徴的なふっくらとした腹部を叩いた。
可愛い"あかと"の要求に答えてあげたいが、何をしたらいいのかと困っていた。
「紫音君。あかとにね、いつもこうやってあげているの」
タオルケットを敷き直してあげながら、まだかまだかと期待した眼差しで見てくる"あかと"の腹部をゆっくりと優しく叩くが、「やっ! しおんくんがいいっ!」と手を払いのけてしまった。
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