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15.
「やってもいいよ」と口を開きかけた時のこと。
扉が開かれる音が聞こえ、そちらに目をやると、微笑ましげな朱音の母親がやってきた。
「あら、二人とも起きていたの。あかとは紫音君に着替えさせてもらったのかしら。ちゃんとお礼は言った?」
「しおんくんのおきがえ!」
「ふふ、紫音君の真似をして着替えさせたいのね。紫音君、申し訳ないのだけど⋯⋯──?」
ふっと紫音の方を見た"あかと"の母は途端に、顔が強ばる。
何か自分がいけないことをしただろうかと思っていると、こちらに手を差し出してきたことで、体が緊張で固まる。
ぶたれるっ!
咄嗟に目を瞑った紫音の額を触ってきた。
予想だにしない行動に、驚いた拍子に緊張が少し解けた。
何をしているのだろう。
「あらやだ! 紫音君、熱を出しているじゃない! 昨日の寝る前は大丈夫だったわよね? あらあら! じゃあ、今日は幼稚園はお休みね」
「え?」
氷枕を準備しないと、と独り言を呟く母親の手前、紫音は意識が遠のくのを感じた。
熱を出してしまうだなんて。今日は母が迎えに来るはず。どちらにせよ、朝田の家の人達に迷惑をかけたことになる。
怒られる。痛くされる。
「だ、だいじょうぶです!」
「え?」
「しおんくん?」
慌てて"あかと"の母の裾を掴み、引っ張っていた"あかと"も不思議そうな顔をしていた。
きょとんとしている母親に顔を向けた。
「だいじょうぶですから、ねつは⋯ない、です⋯⋯──」
「紫音君!」
ぐらり、と天と地がひっくり返ったかのように、視界が大きくぐらつく。
悲鳴のような声を上げた母親が抱き込んだ。
「こんなにもフラフラじゃない! 大丈夫じゃないのよ。いいのよ、熱を出すのは当たり前なのだから」
「でも⋯⋯ぼくは⋯⋯」
「話すのも辛いでしょう? 無理しないで横になってなさい。待ってて、頭を冷やすのを持ってくるから」
「しおんくん、ねつー?」
「そうよ。だから、あかとはママと一緒に行こうね」
「やー! まま、いやっ! しおんくんと、いるー!」
横にしてくれた両手を今度は"あかと"に差し出すが、当の本人は激しく拒否し、紫音にしがみついてくる。
「こら。あかとが騒いでいたら、紫音君の具合がもっと悪くなるでしょ」
「さわがないもん! ここにいるー!」
涙ぐみ始めた"あかと"がさらにどこからその小さな両手に力が有り余っているのか、ぎゅうとしてくる。
正直、痛く感じるが、同時に自分のことを求めてくる"あかと"が可愛くて仕方なかった。
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