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ところが。いざ、"あかと"の前になると、その偽りは呆気なく崩された。 仕方なしに母親と共に朝田家に訪れると、今までに聞いたことのない、喉を涸してもなお、激しく泣き叫ぶ"あかと"の姿があった。 「じっお"ん"っ、ぐん"っ!」 それに呆然としていると、涙声で"あかと"が飛びついてきて、慌てて受け止めた。 「え、あかと、くん⋯どうしたのっ」 「じお"ん"ぐん"!!」 びゃぁぁぁ、と玄関先で耳に響くほど叫ぶ"あかと"に非常に困惑していた。 泣いている理由が分からない。こないだ泣いた時よりも比べ物にならない異常な泣き方で、もう一度「どうしたの」と訊いてみても、こちらの名前を泣き叫ぶのみで、答えが返ってこない。 「紫音君のことをずっと待っていたのよね」 「え、ずっと⋯⋯?」 "あかと"母の疲労困憊だと分かる、目のクマに、ボサボサ気味の髪で、紫音が来るまでこのような状態だったと伺い知れる。 その母親の様子から申し訳なくも思ったが、同時にここまで待っててくれたと思うと、嬉しくないはずがない。 「⋯⋯あかとくん。ぼくがきてうれしい?」 「じお"ん"ぐ⋯っ! い"がな"い"でぇ!」 「⋯⋯しゃべらせちゃって、ごめんね」 ぐすぐすと鼻を啜り、小さな手で必死になって紫音の服を掴んでいた。 そのことに小さく苦笑し、「今はどこにも行かないから、落ち着いて」という意味を込めて、背中をトントンしてやる。 すると、昼寝の時のようにうとうととし始め、やがてこてんと寝に入った。 小さく笑んで、そのままトントンとしていると、紫音のそばに"あかと"母が寄ってきた。 「⋯本当にすごいわ。私が何やっても、ぐずってばっかりだったのに、紫音君のこと本当に好きみたいね」 「⋯は、へへ⋯⋯」 「⋯紫音君、重たいでしょうし、寝かせに行ってくるから、そのまま私に渡してちょうだいな」 スッ、と手を差し出してきたが、首を横に振った。 「⋯⋯だいじょうぶです。おひるねのときとおなじばしょに、ねかせればいいのですよね。ぼく、あかとくんをねかせにいってきます」 「⋯そう? お願いしようかしら」 「おじゃまします」と言って、上がり、リビングの方へ行き、床に敷かれている敷布団にそっと置いて、タオルケットをかけてあげた。 「⋯⋯しお⋯、くん⋯⋯」 癖になり始めた、"あかと"の頭を撫でようとした時、むにゃむにゃと言っていた。 "あかと"がにっこりと笑っている。 紫音が"あかと"の夢の中に出てきているのだろうか。 どんな夢を見ているのだろう。少なくとも、楽しそうな夢だということは、彼の表情で十分に分かったし、何よりも"あかと"の夢に、自分が出てきているようで心が踊るほどに嬉しかった。 自分の見る夢が悪い夢ばかりであっても、この子が見る夢だけは楽しい夢ばかりであって欲しい。 「⋯⋯いいゆめをみてね」 優しい眼差しで、笑っている"あかと"の頭を撫で続けた。

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