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20.
両親が泊まり込みで仕事があるということで、そのまま1週間ほど朝田家に厄介になることとなった。
紫音からすれば、大変迷惑をかけていると思い、なるべく迷惑をかけないよう気を遣っていたが、反対に"あかと"は「しおんくんがいる!」とそれは毎朝起きる度に一緒に寝ていたベッドで飛び跳ねるものだから、段々と苦笑いをしてしまうし、ことあるごとに全力ではしゃぐものだから、紫音が思う迷惑は些細なことに思えてくる。
毎日声を涸らしてまで泣いていた彼であるものだから、そういう反応をするのだろう。全力で喜んでくれるから、一緒になって飛び跳ねたくなるほどだ。
そして、日が経つにつれて、このまま朝田家の人になってしまえばいいのにと強く願ってしまうほどだ。そしたら、"あかと"と毎日どんな時でも一緒にいられるし、誰かに咎められることも、手を上げられることもなくなる。
母と離れるのは少し寂しいが、"あかと"といれば、その寂しさを埋めてくれる。
幼稚園は"あかと"母が送り迎えしてくれたが、習い事までそうさせるのはという紫音の母の遠慮という建前で、習い事には行かなかったが、その分自分で出来る範囲でやっていた。
そのうちの一つが、ヴァイオリン練習。
ちなみに"あかと"は一人で遊びたい気分らしく、母親と共に二階に行ってもらっていた。
弾く時はさすがに常に元気いっぱいな"あかと"がいると、集中出来ないためやむを得ない。
少し寂しく感じられるが、少しでも弾かないと鈍るから仕方ないことだ。
己に言い聞かせ、弾くことに集中する。
この部分はよく間違えて、怒られているところ。一番気にしてやらないと。そろそろ発表会があるのだから、前に取れなかった賞を取らないと、両親の顔に泥を塗ることになる。
だから、ちゃんとやらないと頑張らないと。
「ゔぁいおれっと!?」
弾くことに集中していたせいで、しかも後ろに誰かがいるなんて全く気づきもしなかったから、危うくヴァイオリンを落とすところだった。
無邪気な声の方へ振り向くと、リビングと台所付近の扉に、尊敬とも言える眼差しで"あかと"がそこに立っていた。
「ねぇ! しおん、にぃは、ゔぁいおれっとだったの!」
「ゔぁいおれっと⋯⋯? え⋯っと、いっしょにみた、せんたいモノ? だっけ⋯」
"あかと"の声が治りかけの頃に、『大合奏戦隊バンバンジャー』というのを一緒に観ることとなった。
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