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紙とペンを取って来た母親が、「こう書くの」と書いて見せてくれた。 「この子が産まれた時間帯が、『朱』のような色合いに染まった夕方だったの。その光景が綺麗だなって見ていたら、名前に当てたくなって。お父さんにそのことを話してみたら、じゃあこの字を当てようって提案してくれた結果が、『朱音』っていう名前になったわけ」 明るく、周りの人を癒して欲しいという意味を込められたという『朱音』という名前。 その願いの通り、明るく、いや、明るすぎるくらいであるが、それでもその元気いっぱいな姿に、朱音の両親を始め、紫音も楽しませてもらっていた。 「朱音⋯⋯『音』がぼくとおなじなんですね」 「そうそう! そうなのよね! 偶然とはいえ、朱音と同じだったのよね! 名前が似ていると、本当の兄弟のようね!」 本当の兄弟のよう。 欲しかった言葉だ。だから、意識してないと、と思うが前に顔に出ていたようで、「そんなに嬉しかったの」と母親に頬を人差し指で突っつかれた。 そのようなことを自分の親にやられたことがなく、目を丸くしたものの、照れくさくて、もじもじとしていた。 「けーき、もっと!」 口の周りをチョコまみれにした朱音が、フォークを持ったまま、テーブルをバンバンと叩く。 「こらこら、そんなことしちゃだめでしょ。ほら、ママのあげる」 しょうがない子ね、と言いながら自分の分をあげると、「パパのもいるか?」と写真を撮っていた父親までも朱音にあげていた。 大喜びしているようで、「ふん、ふんっ」と鼻息を荒くし、ケーキを食べていった。 大人二人があげて、しかも朱音の大好きなチョコレートケーキを、自分があげないわけにもいかないと、「ぼくのもあげる」と朱音の方へ寄せた。 「いいのよ、紫音君。朱音はさすがにそこまで食べれないと思うから」 「はい⋯⋯」 「食べないっていうなら、パパが食べちゃうぞ」 「あ、え、えと⋯⋯」 「しおんにぃ、おいしーよ!」 どう反応をしていいのか、目をさ迷わせていると、その場に飛び上がらんばかりに目を輝かせる朱音のことを思わず見た。 「いっしょに、たべよ!」 いつぞやかの昼食の時のように、スパゲティよりかは取りやすいケーキを、フォークに刺して、こちらに差し出していた。

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