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「たしかに、いつもの食べ方と違って驚いたわ。驚いたけど、きっと今が紫音君らしい食べ方なのね」 「⋯⋯ぼく、らしい⋯?」 「そう。いつもは上品なんだけど、はっきり言って、無邪気で可愛らしい子どものような食べ方じゃないなって思っていたの。それがようやく見れて、ママ嬉しいわ〜」 「パパがその時の撮っていたみたいだから、後で見るのが楽しみね」と無邪気に母親が父親にも言う言葉が遠くに聞こえた。 朱音の母が言うような、上品に食べることが当たり前だと思っていた。 幼稚園に行っても、先生が褒めるからそれでいいと思っていた。 自分の母親が言うことが全て正しいと思っていたが、そうではないんだ。 じゃあ、何が正しくて、何が間違い? 「朱音もお兄ちゃんを見習って、ああやって食べる?」 「やるーぅ!」 「いい返事だな。パパもそうやって食べようかな」 「あかとのっ!」 両親が朱音に笑いかけた後、父親が自分の分を寄せていたケーキを再び自分の方へ引き寄せようとしたが、朱音に怒られてしまっていた。 「ママの分を食べているでしょ」 「むー!! あかとのだもん!」 「紫音君には返してあげたのに、パパには返してあげないんだな⋯⋯」 慣れつつあった、大げさに眉を下げて見せたものの、「あかとのじゃないの?」と自分のものだと信じて疑わない目で首を傾げてみせた。 可愛い仕草ではあるが、父親が不憫でならない。 「これを食べてから、パパの分まで食べれるかにしようね」 「たべれるもん!」 「はいはい」 怒りながらもぱくぱく食べる朱音のことを呆然と見ていた紫音に、「もう食べないの?」と母に聞かれたことによって、促されるようにまた食べ始めた。 何が正しいのか、何が間違っているのか、今の自分には分からないから、ずっと考えても仕方ない。それよりも、朱音のように口が汚れようが、親のを返さず、けれども紫音のだけは返してくれたことに嬉しくて、ケーキというものを初めて食べて喜びに浸っていると、やはり朱音は母親の分でさえも食べきれず、「だから言ったでしょう」と言われつつも、みんながみんな、楽しそうにしているのを、眩しさにほんの少しの寂しさと、自分もこうであればと幻想を描いてしまうのであった。 その後、両親が朱音に誕生日プレゼントという物をあげたことにも、また驚かされてしまい、内緒でそういうことをしていたことに、少なからずショックを受けたりをしたことは、この後の人生にも引きずることとなった。

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