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朱音の誕生日を迎え、数日が経った後、朱音と離れることとなった。 来た時のような声が枯れるほどの泣き叫びで、「いかないで」と必死になって紫音を掴み、引き離そうとしなかった。 そのことがまたも湧き上がる嬉しさと、朱音をそんな思いをさせたくなく、「いいよ。いかないよ」と言う言葉を呑み込んで、「またくるね」とぎゅっと抱きしめて離れていってしまった。 あの手を離してしまったら、また痛くも辛い地獄の日々を始まってしまうから、離れたくない気持ちは強いが、所詮、母の言う通りにしてないと、後で何をされるか想像もしたくないことをされるため、仕方なしに母の後を追った。 紫音にとっては長い、朱音と会えない寂しさを胸に秘めながら、日々の地獄に耐えていった。 そんなある日のこと。 「朝田家から、一緒に海に行かないかって誘われたわ」 習い事から帰ってきて、洗面所で手洗いをし終え、自室に行こうとして、廊下を歩いている時、リビングの方からそのような声が聞こえてきた。 海は知識としては知っているが、今まで行ったことがない。今はそれよりも、あの朝田家から誘われたということは、あの日以来ぶりに朱音に会える。 「いきたい!」と、両親がいる方へ駆け出そうとした足を慌てて止めた。 朱音と別れた直後、「気に入られているのはいいけど、面倒なことね」と心底呆れたとも言いたげに母親が言っていたことを思い出す。 人にいいように思われるように振る舞えと言っていた母なのに、矛盾したことを言う。 その時は何故なのかと思っていたが、両親との会話で肝心なことに気づかされる。 「まだ引っ越す前ぐらいね。本当、タイミングが悪いんだから」 「文句を言っているのなら、断ればいいじゃないか」 「ダメに決まっているでしょ! 一人でもいい印象を持たせておいて、あとで利用するんだから!」 「⋯⋯勝手にしろ」 吐き捨てた父親がリビングから出てきてしまった。 父親に関しては紫音に無関心で、それが言葉にせずとも感じてしまうため、出来るだけ顔を合わせたくないと自室に向かおうとした足を、「紫音。そこにいるなら来なさい」と母に呼び止められたことにより、行かざるを得なくなってしまった。 渋々とリビングに行くと、「盗み聞きをしていたのなら分かっているのでしょうけど」と棘のような言い方をし、

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