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29.
年齢が一つ上がって、さほど日にちが経ってない。そんなに急に変わるとは思えないが、微々たる成長と相変わらずの紫音に対しては素直に従おうとする朱音が可愛らしく思え、気づけば頬が緩んでいた。
「しおんにぃ、笑っているわねぇ」
見られていたようだ。母親が面白げに笑っていた。
つられて朱音も見てきたものだから、頬が朱に染まった。
「紫音君も朱音と同じくらい大好きよね〜。仲が良くてとっても嬉しいけど」
「⋯⋯っ、ま、えっと⋯⋯」
「すきすき! あかとも、しおんにぃのこと、だいすきー!」
離れている間にどこかで覚えたようだ、いわゆる投げキッスを熱烈にやってくれた。
真っ正面でそのようなことを言われたら、嬉しくもあるが、落ち着きがなくなってくるし、どう反応をすればいいのか分からなくて困る。
「いつまでも紫音君に熱いキスをしていても構わないけど、朱音、海に泳ぎたかったんでしょ?」
「そうだった! およぐー! おろしてー!」
「はいはい! 分かったから暴れないで」
親の腕の中で暴れる朱音のことを窘めながらも降ろすと、「しおんにぃ、いこ!」と大きく両手を上げていた。
「⋯⋯え、と。たいそうしてからね」
「えーーー、しおんにぃがいうなら!」
嫌なのかそうじゃないのかよく分からない反応をする朱音に、「どっちなの」と苦笑しつつも、「ぼくのまねをして」と体操をし始めた。
屈伸をすると、ただしゃがみ、立ち上がりを繰り返したり、側屈をしてみせると、両手を右側へ左側へと、そのまま倒れてしまうのではないかと思うぐらいに大きく傾けて、ヒヤヒヤしたりしていたが、近くに母も、さらに写真を撮りに来ていた父親もいたから、大丈夫だろうとか、跳躍すると楽しそうにジャンプしていたので、不安よりも朱音のそのような表情が見れて良かったと、準備体操から楽しく感じていた。
「これでおわり。うみにいこうか」
「うんっ!」
そばに置いていた浮き輪を親に手伝ってもらいながら潜ると、片手に浮き輪を、もう片手は紫音の手を取ると、海へと駆けて行った。
後から両親が追いかけていくのを、気にしながらも。
が、打ち寄せる浜辺付近に近づくと、朱音が急に立ち止まってしまったものだから、つまづきそうになった。
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