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30.
「きゅうにたちどまって。どうしたの」
「⋯⋯こわい」
そっと、紫音の足にしがみつく。
近くに来るまではあんなに嬉しそうにしていたのに。
苦笑してしまった。
「あかとくん、うみにいくのはじめてなんだっけ?」
「⋯⋯うん」
「ぼくもね、うみにいくのははじめてなんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。だからぼくもこわくかんじるんだ」
「しおんにぃでも、こわくおもうのってあるんだ」
自分よりもお兄ちゃんであるから、何も怖くないと思っているのだろうか。
あの時だけしか観られてない戦隊モノでも、兄のヴァイオレットが敵に怖気づいてしまっている弟のことを奮い立たせ、自ら率先して立ち向かっていた。
そして、その弟に投げかけた言葉があった。
「こわくて、ここでたちどまっていたら、よわくおもわれてしまう。つよくなりたいのなら、がむしゃらにたちむかうべきなんだよ」
「⋯⋯」
目を一瞬キラッと輝かせた。不安が拭えなかったが、意を決したかのように浮き輪をぎゅっと掴んだ。
「つよくなりたい! あかと、うみにはいるの、こわくない! はいる!」
声を張り上げて、己を奮い立たせているようだ。
素直で可愛い。
「えらい」と頭を撫でてあげると、嬉しそうに笑った。
「けど、きゅうにはいったら、からだがびっくりしちゃうから、まずはあしからね」
朱音は大きく頷くと、ほぼ一斉に、しかし、朱音は足先でちょんちょんとした後、浸かった。
「つめたいっ!」
「つめたいね。でも、きょうもあついから、きもちいいよね」
「⋯⋯ん⋯」
返事も曖昧に、じっと足元を見つめていた。
打ち寄せては引いていく波を不思議に思っているのか、思っていた以上の冷たさに言葉が出ないのか。
「どうしたの」と声を掛ける前に、朱音は言った。
「⋯⋯あししかはいらないの? おふろみたいにはいれないの?」
朱音が言っていることがすぐには分からず、数秒考えた。
恐らく、両親に湯船に浸かれるぐらいの深さだと教えてもらったのだろう。
たしかに、初めて海に行く子に対しての分かりやすい例えだ。
思わず、小さく笑った。
「ううん。おふろみたいに、ううん、あかとくんのあたままではいってしまうね」
「え! こわい!」
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