33 / 39

33.

「バケツ? また朱音が紫音君に何か言ったのね。······ここにはないわねぇ」 「海の家に売ってないか、聞いてくるか」 「あ、いえ! そこまでしていただかなくてもいいです!」 「紫音君!」と母親が呼び止める声がしたものの、振り返らず、砂山に戻っていた朱音の元へ戻った。 「あ! しおんにぃ、これみて!」 立ち上がって、両手で掲げたバケツを見せてきた。 さきほど水を汲みに行ったのだから、水かと思っていたが、中に入っていた物を見ると、思ってもみなかった物があった。 それは、角が丸い色とりどりの石のような物。 「これは······」 「さっきね、あっちでひろってきた!」 嬉々として、浜辺の方を指差す。 あそこにあったということは。 「しおんにぃ、きれいだね!」 「そうだね」 「これって、いし? なの?」 「ううん、これはね。シーグラスっていうんだよ」 「しー?」 聞いたことがないと、首を傾げる。 「シーグラス。ビンとかが、いしやすなにぶつかって、ちいさくなって、こういうかたちになったものだよ」 「······?」 いまいち理解が出来ないと言わんばかりに、今度は反対側に首を傾げた。 朱音ぐらいの年齢は、このぐらいもまだ分からないのが普通なのだろうか。 自分はともかく上を目指せと、新倉家の恥をかかぬようにと色んなものを叩き込まれたから、紫音にとってはこのぐらい分かっているのが当たり前かと思っていたが。 「······きれいだけどね、ほんとうはすててはいけないものをすてているから、ぼくはあまりよくはおもってもないんだよ」 「しおんにぃがそういうなら、よくないこと?」 「もとはよくないって、ことかな······」 「ふぅん······」 全ては分かってなく、曖昧な返事をして、紫音からシーグラスが入ったバケツを離すと、砂山に差していた。 「きれい〜きれい〜」 歌うようにそう言う朱音は、「もっといっぱいひろってくる!」と意気揚々と浜辺へと行った。 ギラギラと照りつく太陽に、シーグラスの表面が曇っているせいで、さほど輝きを放ってない。 何をすれば、喜びに満ち溢れた朱音の瞳のように光輝くのかと思いながら、シーグラス探しに夢中になって海に流されるかもしれないと、朱音の元へ向かった。

ともだちにシェアしよう!