34 / 39

34.

「しおんにぃ、しーぐらすない〜!」 「もともと、およげるようなところにないからね······。さっきので、おわりかな」 「え〜〜〜っ!」 眉根をぎゅっと皺寄せて、不満げな声を漏らし、砂を蹴っていた。 楽しく喜びの表情を見るのはとてもいいが、不機嫌全開の状態を宥めるのは、どうも慣れない。 そもそもどんな相手でも、怒っている表情を見るのが、怖い。 「さっきのでたくさんあるから、あれであそぼう」 「しおんにぃは、あれでまんぞく?」 「······あ、···まんぞくだよ?」 「むむ······っ」 朱音の父親がわざとらしくする声を真似をして、眉に皺を寄せたまま考え込んでいるようだった。 「朱音。紫音君。暑いし、お腹空いたでしょ。そろそろ休憩にしようか」 少しの間、そうしている朱音のことを見ていると、母親が来ていた。 「って、朱音は何をそんなに難しそうな顔をしているの?」 「えと······それは」 さっきのことを手短に説明すると、「シーグラスなんてあるの」とやや驚いた声を上げた。 「朱音、あまりしおんにぃを困らせちゃダメって、いつも言っているでしょ」 「ちがうもんっ! しおんにぃのこと、よろこばせたかったんだもん」 「よろこばせようと、ねぇ······」 地団駄を踏んでいるらしい朱音に、いつもの呆れと思案顔をしている母親。 このままだと、朱音は素直に行かないと思っているのだろう、少しの間その様子を眺めていると、母親はにっこりと笑った。 「だったら、朱音! しおんにぃとお揃いのものを作ろうか!」 「おそろい······?」 「そう。シーグラスでよくあるのは、写真立てなのだろうけど、もっと手軽で持ちやすい物がいいかもしれないわね。例えば──」 「おそろい! しおんにぃとおそろー!」 諸手を上げて、またも砂山の方へ駆けて行ってしまった。 「ご飯食べてからよ」と朱音が置いていったバケツを拾い上げた後、言ったが、朱音は砂山に差していたシーグラスを手に取って見比べていた。 恐らく、自分のと紫音のを選んでいるのだろう、その姿に紫音は微笑んでいた。

ともだちにシェアしよう!