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「しおんにぃ、しーぐらすない〜!」
「もともと、およげるようなところにないからね······。さっきので、おわりかな」
「え〜〜〜っ!」
眉根をぎゅっと皺寄せて、不満げな声を漏らし、砂を蹴っていた。
楽しく喜びの表情を見るのはとてもいいが、不機嫌全開の状態を宥めるのは、どうも慣れない。
そもそもどんな相手でも、怒っている表情を見るのが、怖い。
「さっきのでたくさんあるから、あれであそぼう」
「しおんにぃは、あれでまんぞく?」
「······あ、···まんぞくだよ?」
「むむ······っ」
朱音の父親がわざとらしくする声を真似をして、眉に皺を寄せたまま考え込んでいるようだった。
「朱音。紫音君。暑いし、お腹空いたでしょ。そろそろ休憩にしようか」
少しの間、そうしている朱音のことを見ていると、母親が来ていた。
「って、朱音は何をそんなに難しそうな顔をしているの?」
「えと······それは」
さっきのことを手短に説明すると、「シーグラスなんてあるの」とやや驚いた声を上げた。
「朱音、あまりしおんにぃを困らせちゃダメって、いつも言っているでしょ」
「ちがうもんっ! しおんにぃのこと、よろこばせたかったんだもん」
「よろこばせようと、ねぇ······」
地団駄を踏んでいるらしい朱音に、いつもの呆れと思案顔をしている母親。
このままだと、朱音は素直に行かないと思っているのだろう、少しの間その様子を眺めていると、母親はにっこりと笑った。
「だったら、朱音! しおんにぃとお揃いのものを作ろうか!」
「おそろい······?」
「そう。シーグラスでよくあるのは、写真立てなのだろうけど、もっと手軽で持ちやすい物がいいかもしれないわね。例えば──」
「おそろい! しおんにぃとおそろー!」
諸手を上げて、またも砂山の方へ駆けて行ってしまった。
「ご飯食べてからよ」と朱音が置いていったバケツを拾い上げた後、言ったが、朱音は砂山に差していたシーグラスを手に取って見比べていた。
恐らく、自分のと紫音のを選んでいるのだろう、その姿に紫音は微笑んでいた。
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