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36.
「どうしたの。いたかった? どこかけがしたの?」
「きっと、いきなり転んじゃって、びっくりしたんだと思う」
「そうなんですか ?」
「うん、どこも怪我してなさそうだし」
身を屈めて、冷静に判断する母親に一応は安心したものの、しばらくぶりに会った時の朱音の酷い泣き方を思い出してしまい、今泣いているのは自分のせいだと思い始めていた。
「あっちで顔を拭こうか」と言う両親が両手を広げて、朱音のことを抱っこしようとするものの、「いやっ!」とさらにしがみついてくるので、紫音が仕方なしにどうにか抱き上げて、休憩スペースへと行った。
ぐずぐずと泣く朱音の顔を拭いてあげていると、ぐぅ、と空腹音が鳴った。
つられるように、自身の腹も鳴る。
「······おなか、すいた······」
すんと鼻を啜りながらぽつりと言う朱音に、小さく笑った。
「ぼくもおなかすいたから、いっしょにたべようか」
本当、忙しないと思いつつ、小さく頷く朱音の顔を綺麗にしてあげた紫音は、母親からアルミホイルに包まれていたおにぎりを受け取って、朱音に渡そうとするが、ただ見つめるだけだった。
食べたくない物だったのだろうか。
「どうしたの」
「あーん、して」
きょとんとしてしまった。
「また甘えん坊さんになったのね」と苦笑混じりに母親が言うのが遠くのように聞こえていた。
こんな状況でも紫音に甘えようとする朱音が、可愛い。
気づけば、顔が綻んでいた。
「いいよ。······あーん」
「あー······んっ」
やや大きく頬張り、小動物のようにもぐもぐさせていた。
「おいしい?」
「······ん」
ごくん、としたのも束の間、「もっと」と言うのでまた食べさせてあげた。
朱音らの傍らで小さめのペットボトルを用意していた親からそれを受け取ると、両手で持って飲んでいた。
ぷはっと、いい飲みっぷりを見せ、満足げな顔になる。
機嫌が直ったようだ。
「紫音君もお腹空いたでしょ。おにぎりどうぞ」
「ありがとうございます」
「あかともー!」
「はいはい」
投げ出した足をバタつかせ、いっぱいに両手を広げる朱音におにぎりを渡すと、一目散にかぶりつく。
今度は自分で食べるんだなと、おにぎりを頬張りながら思っていると、「しぃぐらふは?」と口をもごもごさせながら言ってきた。
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