38 / 39
38.
夕暮れの太陽に照らされた海面。最初は穏やかな波に揺られているそれの反射かと思っていたが、よく見ると、それに紛れて存在を放っているように煌めいて、紫音は拾い上げた。
丸くなった紫のビンの破片。
それを通して、オレンジ色に染まった空が紫色になって不思議な空を見ていた。
「あ···あった······」
湧き上がる興奮が抑えきれなくて、逆に囁くような驚きの声を上げたが、めざとく朱音の耳に入ったようで、「あったの!?」と駆け寄ってきた。
「うん、あったんだ。ほら」
朱音に見えるように手のひらの上に乗せて見せると、物欲しそうな目で見つめていた。
「あかとくんのもみつけようか」と言おうとした時。
「もうそろそろ帰らないと、夜になるよ」
やってきた母親がそう告げてきて、辺りを見回すと、元々数組程度しかいなかった海水浴に来た人達が、自分らともう一組しかいなかった。
「え〜〜!!まだあかとのみちゅけてない!」
「ぼくのもそうだけど、オレンジ色もなかなかないんだ」
「でもほしいっ!」
「うーん······」
むぅ! と頬をパンパンに膨らませて、地団駄踏んでいる朱音に、頭を抱えた。
こうなってしまうと、意地でも見つけようとするまで帰らない。
弱った。
「朱音。だったら、紙粘土で作ってみようか」
「かみ、ねんど?」
「そう。自分で好きな形に作れるし、そう! 色だって好きな色を作れるのよ。魔法みたいに」
「······」
地団駄を止め、今度は眉間にこれでもかと皺を寄せている。
紫音みたいにシーグラスを欲しいが、聞いたことない"かみねんど"で自分で作ってみたいと葛藤しているのだろう。
「わ、わぁ、いいな。シーグラスはいっかいしかしっぱいできないけど、かみねんどなら、なんかいもつくりなおせるんだよ」
じっと考え込んでいる朱音にあと一押しして、そちらに興味を向かせようとする。
少々わざとらしかったかと、内心冷や汗をかきながら。
「······わかった」
しばらくした後、呆気ない返事をした。
これでもなお渋られるかと思っていたから、拍子抜けをしてしまいそうになったが、何はともあれ良かった。
「かえろー! つくるー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、父親がいる場所まで走る朱音に、「危ないわよ」と声を掛けながらも、こちらに苦笑した顔を向ける。
ともだちにシェアしよう!