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だから、確実に来れないと思っていたのだが⋯⋯。
「この日のために、無理言って空けさせてもらったんだ」
「俺なんかのために、それって大丈夫なの?」
「朱音。僕達の今の関係って、なに?」
今の関係。
まるで分からない問題に対して、優しく教え問うような言い方に、昔と変わらない"しおんにぃ"のままだと小さく笑みを浮かべながらも、さっきとは違う感情の頬が熱くなっていくのを感じる。
「⋯⋯可愛い」
口ごもってしまった朱音の頭を愛おしげに撫でる紫音に、頬が緩みそうになる。
「⋯⋯ねぇ、あれって新倉先輩じゃない?」
「⋯⋯たしか、朝田と付き合ってる⋯⋯」
「⋯⋯また見られるだなんて! 最高の卒業式になったわ!」
はたと、現実に引き戻された朱音に、「⋯⋯マズイな」とぼやく紫音を聞く。
「すっかり失念していたよ。ここで騒がれてしまったら、学校に迷惑をかけてしまう」
「え、しおんにぃ、どうすんの?」
紫音に問うと、彼は沈黙を貫いていた大野の方へ向いた。
「大野君、朱音のことを借りるよ」
「あーはいはい。ご自由に〜」
どこか愉快だと言わんばかりの口調で言う大野に、これは玩具にされると思っている朱音に「行こうか」とごく自然と手を取られた。
途端、鼓動が高鳴った。
だって、指の絡め方がいわゆる恋人繋ぎであったから。
初めての繋ぎ方に、再び恋人ということを自覚させられ、しかもそれを友人に、同級生にも見られていたかもしれない。ともかく、公衆の面前で見せつけてくるのだから。
一部の人が知っていたことが、より多くの人に知られることになってしまった。
「し、しおんにぃ!」
「どうしたの。手が痛かった? いきなり走るのがびっくりした? それとも──」
「じゃなくて、手! 手の繋ぎ方がさ!」
「繋ぎ方?」
校門の『卒業授与式』の看板前に来ていた二人。朱音に指摘されて、紫音はきょとんとした顔で、未だに繋がったままの手を見やる。
「ああ、恋人繋ぎだね。だって、僕達は恋人であるんだから、ごく当たり前のことだと思うんだけど、朱音は違うの?」
「ち、違くなくて! ⋯⋯そ、その⋯は⋯恥ずかし⋯⋯」
きょとんとしていた顔から一変、微笑ましげな表情をする。
「そうだよね、今日が初めてだもんね。⋯⋯可愛い。本当に可愛いね、朱音は。もっと触れたい。今まで触れられなかった分まで⋯⋯」
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