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3.
そっと頬に触れられる。
ひんやりとした手が、朱音の火照った頬をゆっくりと冷ましていくのも束の間、その手を滑らせ、薄く開いた唇を親指でなぞってくる。
その時の紫音の表情が、優しい笑みよりも、やや険しい表情を覗かせ、朱音のことを見下ろしてくる。
「しおんにぃ⋯⋯?」
いつぞやかの素っ気ない時のようで、思わず不安げな声が漏れる。
これから何をされるのか、それとも何か期待してもいいのか。
どういう面持ちでいればいいのか分からず、繋いだ手に力がこもる。
「──あっ! 朱音! こんな所に──って、お邪魔だったかしら?」
肩が上がったのと、紫音の触れた指がピクッとしたのが同時にし、離れたことでそちらに振り向いた。
朱音らがいた中庭辺りに、他の保護者と話し込んでいた朱音の両親──特に、母が隠しきれぬ気持ち悪い笑みを浮かべて、こちらにやってきた。
「何言ってんだし⋯⋯俺達はそういう関係じゃ⋯⋯」
「ご無沙汰しております。そして、今さらになってしまい、申し訳ありませんが、改めて挨拶に伺おうと思ってました」
「えっ、しおんにぃっ?!」
「あらあら、いいのよ〜。昔からそう思っていたし、紫音君、真っ先に報告してくれたじゃない。改めて言うことでもないわ。それよりも、不肖な息子をどうかお願いしますね」
「はい」
「え、は、はぁ? ちょ、なんで知ってんの?」
朱音は混乱した。
父はともかく、朱音の口から紫音と交際している話など一切したことはない。
目がぐるぐるしていると、母はサラッと言った。
「そりゃあ、紫音君と連絡先交換していたから」
なんでも、紫音と両想いになった後、タイミングを見計らって、朱音がいない時に、朱音の母と連絡先を交換する時に言ったようだ。
いつの間に、と言った時、はたと思い出したのが、朱音が急に朝早く起きて、戦隊モノを観だした時も、「紫音君とよく観ていたわよね〜。紫音君、かっこいいわね〜」と一緒に観ていたり、あまり観ていなかった番組に切り換えたり、「写真集出ていたわよ!」と言って、買ってきたらしい写真集をもらったりもしていた。
今思い返すと、大げさに驚くこともなく、さも知っているような素振りを見せていたではないか。
紫音が俳優デビューしたことすら、言ったことがないはずなのに。
変に隠して、いつ言おうかと様子を窺っていた自分が馬鹿みたいではないか。
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