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「今も、こうして恋人繋ぎまでしちゃっているもの。なんだか二人が小さい頃を思い出すわねぇ。ね、お父さん?」
「そうだな。今日は盛大に酒盛りするか」
「それは自分が呑みたいだけでしょ。⋯⋯でも、いいわね!」
きゃっきゃっとする両親のことを、唖然としていた朱音に、紫音が「⋯⋯嫌だった?」と耳打ちする。
「さっきも、朱音のことしか見えてなくて騒がせてしまうし、朱音に相談せずに付き合っていることを言ってしまうし⋯⋯」
瞠目する。
紫音が眉を下げ、申し訳なさそうに言う。
瞬間、脳裏に紫音の卒業式の屋上での出来事が思い出される。
あの時も、自身の生い立ちについて話していた時、今のような顔をしていた。
そんな顔、するほどじゃないのに。
「しおんにぃ、大丈夫だって。しおんにぃと付き合う前から、俺一人でしおんにぃのことで騒いでいたし、付き合っていようがなかろうが、さほど気にするようなことじゃないって」
自分の両親だって、男同士で付き合うことに対して、というよりも、兄弟のようで、幼馴染みのような関係の延長程度と思っているようだし、相手が昔から知っている間柄であるから、そういう面での心配はしてないはずだ。
「さっき、こういう関係じゃないって、つい言っちまったのも、改めて意識させられるというか、こ、恋人繋ぎもっ、しているから、その⋯⋯」
「⋯⋯」
周りが当たり前に受け入れているのに、自分が一番にこの状況に慣れてない。
しどろもどろになっていると、繋いだ手から振動が伝わった。
下げていた目線を思わず上げると、小刻みに肩を震わせていた。
「しおんにぃ、どうかした?」
困惑した声で言うと、口元を隠していた手をやや離した。
「⋯⋯僕がいないところでも、僕のことで騒いでいたの?」
「あ、あぁ⋯⋯。だって、兄だと思っていた人が急にいなくなったって、ずっと捜していたから⋯⋯」
「⋯⋯そうだよね。朱音はあの時は、物心がついたかどうかの歳だったもんね。けど、それにしても、そんなにもずっと僕のことを想っていたなんて⋯⋯」
離れていた手を、朱音の背中に回したかと思えば、自身の方へ引き寄せた。
「──好きだよ、朱音」
耳元に口を寄せた気配がしたかと思えば。
心地よい声は、耳朶を震わせ、そして、体を熱くさせるには十分なものだった。
好き、ともっと言って欲しい。今まで会えなかった分、昔から好きであった優しい声で朱音の名を呼びながら。
もっと、もっと、体の奥深くまで届くほどに。
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