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5.
パシャ。
短いシャッター音が聞こえてきたことにより、紫音の背中に回そうとした手が止まった。
一気に現実に引き戻された朱音は、その音の根源を探した。
「あらぁ、とてもいい写真が撮れたわ」
わざとらしく大げさに口元を隠した母親が、携帯端末を片手に撮りながら言う。
「な、なに撮ってやがる!」
紫音の腕の中から離れ、母の携帯端末を取り上げようとしたものの、すんでのところでかわされ、さらに腹を立てた。
「いいんじゃないの。ようやく会えた、好きな人との写真なんだから。リビングに飾っておこうかしら」
「飾るんじゃねっ! だったら、俺によこせ!」
「じゃあ、あんたの分とリビング用ね」
「飾るなって、つってんだろ!」
余裕そうな態度が腹立たしい。
瞬時にカッとなった朱音は、何がなんでも奪い取ろうとしたものの、紫音になだめられた。
「しおんにぃ、いいのかよ!」
「今はその話はあとにしよう。ここでまた騒いだら、迷惑になってしまうし」
「えー、しおんにぃが言うなら⋯⋯」
「朱音、紫音君! そこの看板に並んで。写真撮るわよ!」
一番の原因が携帯端末をこちらに向けて、手を自身のカメラ枠に寄せるようにという仕草で「早く!」と促していた。
本当、都合いいよな。
はぁ、と大げさにため息を吐くと、「撮りに行こう」と言う紫音に従い、看板を挟んで撮ってもらった。
「今度は僕が撮りますから、お二人並んでください」
「あら、お言葉に甘えて⋯⋯──」
「えぇー、しおんにぃ、いいよ」
「せっかくの卒業式なんだから、揃って撮ろう。⋯⋯僕の時は、朱音が撮ってくれたり、他の人に頼んで、朱音と、それに叔母さんと一緒に映してもらったのが嬉しかったから」
その言葉通りの嬉しそうでも、表情は寂しそうに笑ったのを見て、ハッとした。
異常な教育方針の結果、実の両親と縁を切った紫音は、叔母であれ、そして朱音であれ、それはそれで嬉しい思い出の一つになったのだ。
紫音の生い立ちとその表情を見せられたら、紫音の気持ちを無下にできないじゃないか。
「⋯⋯しおんにぃがそう言うなら、分かったよ」
「⋯⋯ありがとう、朱音」
朱音にしか聞こえない声量で、嬉しくも優しく言葉を紡ぐと、頭を撫でられた。
そうしてその後、通りかかった他の保護者に朱音と紫音と、両親と揃って映してもらった。
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