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紫音の土産、どうしようかと大野と悩んでいた時、文化祭委員長が勧めてくれた物だった。 紫音の大ファンで、朱音に大嫉妬していたことがきっかけで、朱音が嫌な目に遭ったことに対する負い目⋯⋯というのは相当な建前で、本音は、変わらずの紫音へのファンとしてのプレゼントであるということだった。 事務所には送れないから、唯一紫音の家の住所を知っている朱音が代わりに送って欲しいということだった。 朱音があんな目に遭ったものだから、紫音は彼女らのことは良く思ってない。だから、そのことも含めてのことであろう。 そんな彼女らも、大学に進学したり、就職したりと、それぞれの道に歩んでいった。 毎日、当たり前のように会ってきた仲間の唯一の繋がりは、チャットアプリだけとなった。 「しおんにぃが喜んでくれて、俺も嬉しい」 「朱音がくれるものだったら、なんだって嬉しいよ。僕にないものをくれるのだから」 「そんな⋯⋯大げさな⋯⋯──わっ」 朱音から離れ、隣に座った紫音は軽々と朱音を持ち上げ、自身の膝上に乗せたのだ。 「し、しおんにぃ!?」と朱音が狼狽えているのも束の間、紫音は目を細めた。 「大げさなんかじゃないよ。普通じゃない環境で育った僕に、面白おかしくも楽しいご両親に、僕のことを本当の兄のように慕ってくれて、僕じゃ考えつかない、何気ないことまで楽しそうにはしゃいで、その一つ一つに思わず頬が緩んでしまったんだ。朱音の家に産まれていたら良かったなって、心底思うよ」 「そうだったら、今まで以上に一緒にいられるな⋯⋯」 「ふふ。⋯⋯あ、でもね、今のような、恋人関係でも同じくらい嬉しく思えるよ。⋯⋯兄弟だったら、もしかしたら出来ないことを、ね」 独り言のように呟いたそれに、ぴくりと小さく震える。 兄弟であれば出来なくて、恋人であれば出来ないことって、何? しかし、恋人繋ぎをするのが恥ずかしいと精一杯言った時の、優しい笑みの中の険しい表情をした彼が目の前におり、あの時のどういった気持ちでいればいいのか分からない気持ちになり、落ち着かなくなった。 「──ところで。ベッドに置いてあるあの服、何? ⋯⋯どこかで見たことがあるような⋯⋯」 「え⋯⋯? あっ!!」

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