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自分のナカから紫音の存在が無くなったのを感じながらも、目の前の、距離を置こうとする彼を抱きしめた。
「だって、アイツの理不尽なやつなんだろ! しおんにぃはめっちゃ頑張ってんのに! さっきも言ったけどさ、しおんにぃは何をやってもかっこいいんだ! 勉強が出来るのも、ヴァイオリンを弾くのも、きっと運動だって出来るんだ! 俺がちっちゃい頃からずーっと見てきて、憧れていたずーっと好きな人なんだから、頑張っているの分かるし、すげぇ心配するんだからな」
少しは俺に頼ってよ、とふてくされ気味に紫音の頭を両手でぐちゃぐちゃに撫で回した。
そうしていたのも束の間、投げ出していた両手を朱音の首に回した。
その瞬間、ピクッとした。
その手が小さく震えていたのだ。
どうしたものかと思っていると。
「······朱音、ありがと······」
声も震えていて、そんな紫音は見たことがないと驚いていたものの。
「どういたしまして」
嬉しくて、また撫で回していたが、臀部に触れた。
驚きと眉を潜めた紫音と目が合う。
「朱音っ、そんなところ触らないで······」
「いたいのいたいの、とんでけ〜っ!」
なでなでしてあげながら、痛みが和らぐ呪文を唱えた。
こんなことをしてもほんの気休め程度だが、自分にはこのぐらいしか紫音のことを癒すことができない。
少しは頼って欲しいと言ったものの、実際にはどうしたらいいのか分からない。
どうしたら、と手持ち無沙汰のようになでなでし続けていると、紫音が不意に口元を隠して、ぷるぷる震えていた。
どうしたのか、と「しおんにぃ?」と呼びかけると、紫音は声を震わせた。
「······昔も、そうやって慰めてくれたよね······。······そう、昔もどうにかこうにか隠していたのを、お風呂のふとした時に、朱音に見つかっちゃって。自分のことのように悲しそうにして、そしたら、今みたいになでなでしてくれて。その時に、そういう魔法の呪文があることを知ったの。そのおかげで、どんな痛みも耐えられた。本当に、朱音には救われているよ」
言われて、どことなく思い出した。
風呂場の椅子に、恐る恐ると座る紫音に不自然さを覚えている時に、見たのだ。
小さな臀部に不釣り合いなほどに真っ赤に腫れているのを。
そうだ。思い出してしまった。
そして、悲しげに見つめる紫音をどうにかしてあげたくて、今のようなことをしてあげたことも。
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