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部屋に置いてあったらしく、見慣れたヴァイオリンを持って、震える手で弾こうとしている紫音の姿があった。 「しおんにぃ! 何してんだ!」 無意識に氷枕をベッドに投げ捨て、耳障りな音を立てる紫音からヴァイオリンを取り上げた。 「あ⋯⋯練習、しないと⋯⋯」 「練習って、しおんにぃ自分の状況分かってんの!? 熱出してんだよ! 寝てなきゃダメだろ!」 「ねつ⋯⋯熱、出してしまったんだ⋯⋯」 落胆の声音が気になったが、ひとまずは自身の状況が分かってくれたようで良かった。 小さく息を吐いた朱音は、「寝ようか」とベッドに促そうとした、その時。 涙を浮かべた。 突然、そのようなことになったものだから、ぎょっとした。 「え、しおんにぃ⋯⋯?」 「ごめん⋯⋯なさい⋯⋯。熱、出して、ごめん、なさい⋯⋯」 涙を零さないよう、堪えようと、しかし、一筋頬に流れた時、身体の震えが強まった。 急にどうしたものか。 困惑しつつも、その震えている身体に触れた。 「しおんにぃ⋯⋯? 謝ることじゃないから、とりあえず寝よ?」 「⋯⋯ごめんなさい⋯⋯」 身体をさすったりして宥めつつ、ベッドに寝かせると、「ごめんなさい」とうわ言を繰り返していた。 「ごめんなさい⋯⋯お母さん⋯⋯」 小さな子どものように怯える紫音に、彼の壮絶な家庭環境を思い出してしまった。 代々音楽家である新倉家は、当たり前に息子に音楽の道を歩ませた。 ただ、それがあまりにも異常な教育だった。 朱音と出会ったのも、自分の家がいかに名誉であるか、周りの人間がいかに愚かであるか分からせるために接触させていた。 紫音の口から明かされた我が耳を疑う話であったが、その時の彼の表情があまり見ていたくないものであったため、それ以上は追及しなかった。 だから、深いところまでは分からないが、彼が苦しそうにしているのは明白だった。

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