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ふたり占め#1 ②
◇◆◇◆◇
翌朝、駅に行くと流風と藍流先輩が揃って俺を待っていた。
「「おはよう、奏」」
藍流先輩と流風の声が重なる。
ふたりは二秒ほど睨み合って、そして俺を見て微笑む。
朝から眩しい笑顔。
柔らかい微笑みのふたりに、周りの女性がざわっとした。
「…流風、おはよう。藍流先輩、おはようございます」
「さあ、行こう奏」
「奏、敬語も先輩もやめてくれるとすっごく嬉しいんだけど」
「えっと…じゃあ、おはよう、藍流?」
「奏! ありがとう!」
「奏、これに甘くしなくていいよ」
「お兄さまに向かってこれとはなんだ、流風」
「………」
朝から賑やかで元気だ。
朝の弱い俺はふたりの一言一言にいちいち反応していられない。
この際、藍流先輩でも藍流でもどっちでもいい。
ぼんやりした頭で考え事はできない。
「奏は朝弱いの?」
藍流が聞くので、静かに頷く。
「昔から朝は苦手で…」
「そっか。じゃあバッグ持ってあげる」
藍流が俺のバッグを持ってくれる。
「いいよ、重いし」
「あんまりしんどいならおぶってあげようか?」
藍流からバッグを取り返したら今度は流風。
いや、おぶるって…。
「いい。歩けるし」
「「残念」」
またふたりの声が重なった。
そして睨み合う。
仲いいんだか悪いんだかわかんないふたりだな、と思いながら一緒にホームへ行く。
だけど…なんて言うかめちゃくちゃ目立つ。
ひとりでも存在感あるのに、それがふたり。
そりゃ誰だって見たくなる。
俺だって見ちゃうと思う。
そして電車に乗り、満員電車で人に押されて、流風・俺・藍流の形で矢橋兄弟にサンドイッチにされた。
「大丈夫? 奏」
「…うん。なんとか」
藍流が聞いてくれるけど、正直大丈夫じゃない。
満員電車ってこんなに密着するほど混むのか。
前の学校に通う時は、ビジネス街とは逆方向に向かう電車だったからこんなにぎゅうぎゅうになる事がなかった。
ちょっと人酔いしてくる。
「奏、顔色あんまりよくないね。一回降りようか?」
流風が心配してくれる。
「ううん、平気。あと何駅だっけ?」
「あと二駅だよ」
藍流も心配そうに俺を見て、あと少しだと教えてくれる。
「なら大丈夫」
それから二駅で人をかき分けるようにして三人で電車を降りる。
外の空気を吸ったらすごく楽になった。
「ちょっと休んでから行こうか?」
「平気」
「じゃあやっぱりバッグは持ってあげる」
「大丈夫だって。藍流だって自分のバッグあるでしょ」
流風と藍流が気を遣ってくれる。
頭がすっきりして考えると、矢橋兄弟にサンドイッチされるって女子だったら卒倒ものだろう。
矢橋兄弟がモテるのは絶対間違いない。
この見た目でこの優しい性格なら女子生徒全員が寄って来てもおかしくない。
いや、寄って来ないほうがおかしい。
駅から学校まで歩きながら、他愛のない話をしていたんだけど、突然流風が。
「俺、奏が好きだよ」
そう言った。
会ったばかりでも気が合う感じだし、友達として好きって事かな、と思いお礼を言ったら。
「俺と付き合わない? 大切にするよ」
「は?」
「奏、俺も奏が好きだよ。流風より俺にしたほうがいい」
「え?」
「「一生大切にするから俺を選んで!」」
なぜか求愛された。
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