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ふたり占め#6 ②

◇◆◇◆◇ 「藍流と流風への誕生日プレゼントをひとりで探しに行こうとしました。ごめんなさい」 正直に白状して謝るけど、藍流と流風は難しい顔をして俺を見ている。 いっぱい“お仕置き”されたけどまだ怒ってるのかも。 「…奏、手出して」 「?」 「両方ね」 流風に言われて両手を出すと、藍流が制服の赤いネクタイを取る。 そのままネクタイでぐるりと両手首を縛られた。 「え…」 「これで俺の部屋に閉じ込めておこうか」 「それがいい」 藍流と流風の意見が一致して俺は焦る。 だって本当にこのまま閉じ込められそうだから。 「あの、それはさすがに…!」 「うん。本気」 「大丈夫。一生大切にするから」 そうじゃない! 藍流も流風もすごい笑顔だ。 どうしよう、本気で言ってる。 慌てる俺に対してふたりは冷静そうに見えて冷静じゃないのかどうなのか。 「冗談だよ」 藍流が微笑む。 「そうそう。一生大切にするのは本当だけど」 流風も、奏は可愛いなぁって頭を撫でてくれる。 「あ……そう、だよね」 でも、ネクタイは外してくれない。 「あの…これ、外して?」 「「え?」」 俺が縛られた両手を差し出すと、ふたりが『なんで?』って顔をする。 「どうして外すの?」 藍流が真剣な表情で、ゆっくりとした口調で俺に問う。 あれ、これって俺がおかしい? おずおずと口を開く。 「だって…このままじゃなにもできない…」 「そうだね」 「そうだねって…」 どうしよう…もしかして本気で閉じ込めようとしてる? 「おいで」 藍流と流風が呼ぶので、ふたりの腕の中に収まる。 こんな状況でもふたりの体温は落ち着く。 「奏の綺麗な肌に藍流の赤いネクタイが映えていいね」 「うん。すごくよく似合ってる」 「ええ…? それって…」 褒めてるの? ていうかあんまりあちこち撫でないで欲しい。 ゾクゾクしちゃうから。 「はい、おしまい」 「え?」 突然ネクタイが解かれて両手が自由になった。 ほっとするような、なぜか残念なような…なんでだ。 「そのままがよかった?」 藍流がネクタイをベッドサイドに片付けながら意地悪に微笑む。 答えられず俯く俺を、ふたりがまた抱き寄せる。 すごく焦ったのに、解放されたらされたでなんか………変。 自由になった手首に触れながら藍流と流風を見上げる。 「なに?」 「なにか言いたそうだね?」 「……」 藍流も流風も意地悪な瞳で俺を見る。 俺はやっぱりなにも言えないでふたりにもたれかかる。 心がすごく変な感じ。 「どうしたの、奏?」 「なんでも言ってごらん?」 「……流風も藍流も意地悪」 ふたりとも本当にすごく意地悪な顔してて、それがまた腹が立つくらいかっこいい。 むくれる俺を抱き締めて、ふたりはたくさんキスをくれる。 俺からもキスを返すと今度は優しい笑顔になった。 この笑顔を見せられるとなんでも許せてしまう。 どんな表情もどきどきするし大好きだけど、この微笑みは最強だと思う。 「そんな目で見ないで、奏」 「そんな目ってなに?」 流風が俺の頬を抓んでふにふに動かす。 「言葉じゃ表せない」 「む」 更に藍流が俺の鼻を抓むので変な声が出てしまう。 「可愛い」 「なんで奏はこんなに可愛いんだろう」 藍流も流風も、“うっとり”という表現がぴったりな表情で俺を見つめる。 ほんと変わってる。 苦しいから離してって言ったらやっと離してくれた。 「卒業式どうだった?」 どんな目をしていたかは教えてくれなそうなので話題を変えてみる。 藍流と流風の膝に身体をのっけて聞くと、優しく頭を撫でてくれる。 「どうって…面白かったり楽しかったりするものでもないし、特に変わった事はなかったよ」 「そっか。浮気してこなかった?」 絶対そんな事しないのわかってるけど、なんとなく聞いてみる。 「奏が可愛い事言ってる」 「どうしよう…丸ごと食べちゃいたい」 藍流だけじゃなく、自宅にいた流風まで嬉しそうにしてる…そういう反応するところかな。 「疑うな!って怒らないの?」 今度は俺がふたりの頬を抓んでふにっとしてみるとやっぱり嬉しそうにする。 頬を抓んでる手を取られて指先をちゅっと吸われた。 「怒るわけないじゃん」 「うん。なんだかお嫁さんみたいでどきどきする」 「お嫁さん…」 藍流も流風もほんわかした顔で俺を見る。 ふたりの周りに花がふわふわ飛んでるように見えるのは気のせいか。 「あー、早く奏をお嫁さんにもらいたい!」 「藍流は来年だけど、奏と俺の高校卒業まではあと二年かぁ…」 このふたりって不思議だなぁ。 かっこいい時と可愛い時との差がすごい…びっくりする。 「俺と流風が帰ってくる度に着てるもの全部脱がせて浮気してないか確認してくれていいからね?」 「うん。喜んで脱ぐよ」 「…脱ぎたいの?」 「奏になら脱がされたい」 「……」 嬉しいと思っていいのかな、どうなんだろう。 …あれ? 「帰ってくる度にって、どこに?」 「自宅に?」 「誰の?」 「三人の?」 「え?」 「「え?」」 三人でちょっと無言になる。 「あれ…俺、奏と流風が高校卒業したら三人で暮らすつもりだった…けど……」 「え…」 「俺も…。あれ? ……奏はそのつもり、なかった…?」 藍流と流風の言葉に、心臓の音がどくんどくん全身に響き始める。 三人で暮らす…か、そっか。 一生大切にするって、そうやって一生そばにいてくれるって事だ。 「もちろん、その時は奏のご両親にもきちんとお話して許可をもらえたら、だけど」 「許可もらえなかったら諦める?」 「「諦めない」」 藍流も流風も即答した。 すごくどきどきする。 どうしよう、嬉しい。 「ふふふ…」 「奏?」 「なに?」 流風と藍流が俺の顔を覗き込む。 だって笑いが止まらない。 こんなの幸せ過ぎる。 笑い過ぎたのか、きゅるるる…とお腹が鳴ってしまった。 「……ごめん」 恥ずかしい。 「奏はお腹の鳴る音まで可愛いね」 「なにか作って食べようか」 藍流も流風も身体を起こすので、俺も起き上がる。 下着は汚れてしまったのでお泊まり用の下着を出して、ふたりに邪魔されながら服を着て三人で一階のキッチンに行った。 「なに作ろうか」 流風が冷蔵庫を開けると、菜の花が入ってる。 もう春だもんな。 「菜の花のスパゲティが食べたい」 菜の花好き。 それだけでわくわくし始める。 俺の様子に藍流と流風がスマホでレシピを検索しながらにこにこしてる。 「ベーコンもあるし、菜の花とベーコンのスパゲティ作ろうか」 「おいしそう…それがいい」 ふたりがスマホを見せてくれる。 もう一回お腹が鳴った。 「ああ、奏を食べたい…」 「可愛い…」 藍流も流風もまた始まった。 これって発作みたいなものなのかな。 「流風は今日なにしてたの?」 別の話を振って現実に戻ってきてもらおう。 「俺と藍流の分の洗濯とか、部屋の片付けとかしてたよ」 藍流と流風は、洗濯物は自分達の分だけで洗濯している。 なんでも、あやのおばさんが使いたい柔軟剤と、ふたりが使いたい柔軟剤が別だからだって。 においにこだわりがあるわけじゃなくて、あやのおばさんが使いたい柔軟剤が女の子に似合う可愛いにおいでふたりは恥ずかしいらしい。 恭介おじさんはそういうのあんまり気にしないらしいけど、高校生の男子には重要な事みたい。 俺の家の柔軟剤は特別可愛いにおいだったりしないから親に任せてしまっているけど、俺も自分でやるようにしようかな。 ……藍流と流風が自分達で洗濯するのは、俺がシーツを汚すからっていうのもあるんだけど…うう、恥ずかしい…。 いやでも、俺と付き合う前からふたりは自分達で洗濯してたって言ってたし、俺がきっかけではない、はず。 「奏はなにしてたの?」 「俺はいつも通り、苦手なとこ復習してた」 「俺達があげたノート、使ってくれてる?」 藍流が頭撫でてくれてどきどきする。 流風がお鍋を出してくれてるので俺は菜の花を洗う。 「ううん。藍流と流風にもらったのは使ってない」 「え?」 「俺が自分で買ったのと、大雅(たいが)さんと弘雅(こうが)さんと瑞希(みずき)さんにもらったのは使ってるけど」 藍流と流風にもらったのは、もったいなくてなんか使えない。 特別な事に使いたい。 なにに使おう。 「俺と藍流があげたノートってわかるの?」 「うん。分けてあるから………あ!」 これ秘密にしてたんだった! 顔が急激に熱くなってくる。 そっとふたりの様子を見たら、藍流も流風も真っ赤になってる。 三人で真っ赤になったまま視線を彷徨わせて俯く。 「…あ、藍流と流風がくれたのってのはわかるけど、どっちが藍流からでどっちが流風からっていうのはわからないから…」 「う、うん…」 「そうだね…」 だからどうしたって話だ。 なんで今更こんな事で恥ずかしがってるんだかわからないけど恥ずかしい! 三人で言葉少なに菜の花とベーコンのスパゲティを作って食べた。

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