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ふたり占め#8 ①
ホワイトデー特集を見ていたら、贈り物に意味があるという記事に目が留まる。
「意味なんてあるんだ…」
お返しにも色々意味があると初めて知る、というかお返しをする機会なんて今までなかったから知る必要もなかった。
ホワイトデーのお返しの意味を検索して色々なページを見る。
藍流 と流風 には…。
「金平糖を贈ろう」
でも、またふたりに心配かけちゃうから、ひとりでは買いに行けない。
ネットで買おうかな。
どうしよう。
悩んでいたらスマホの通知音が鳴る。
流風から。
『今、なにしてるの?』
「……」
正直に話して一緒に買い物に行こうかな。
それも楽しそうだし。
『買い物に行きたいなって考えてたんだけど、三人で一緒に行かない?』
『行く』
すぐメッセージが返ってきた。
藍流もそばにいるのかな…いるんだろうな。
迎えにきてくれると続けてメッセージがきたので出かける準備をする。
支度が終わったところでインターホンが鳴った。
「奏 ー、王子様達のお迎えー」
「……」
…確かに王子様だけど。
階段を下りてお母さんに『買い物に行ってくる』と言って家を出る。
玄関前では藍流と流風が笑顔で俺を待っている。
ふたりの笑顔っていつでも優しい。
「お待たせ。ごめんね、迎えにきてもらっちゃって」
「ううん。大丈夫」
「行こうか」
「うん」
流風と藍流に頭をぽんぽんされて歩き始める。
陽射しがあったかいし両隣には藍流と流風がいるし、幸せだなぁって思ってたら顔を覗き込まれた。
「奏、にこにこしてる」
「可愛い」
「藍流も流風も、前見て歩いて」
恥ずかしい。
って思ってたら俺のほうが躓いて転びそうになった。
すぐにふたりが支えてくれたから転ぶ事はなかったけど…俺は前見てたのになんでだ。
「ほんとに奏って放っておけない…。でも今回はひとりで出かけないでちゃんと俺達に『買い物に行きたい』って言ってくれたからよかった」
「そうだね。いっぱいご褒美あげないと」
流風と藍流の笑みはなにかを含んでいる感じ。
“お仕置き”か“ご褒美”かの違いで、どっちにしても“なにか”はするんだろうか…。
「期待してる?」
「してない! 早く行こ!」
流風の意地悪な言葉を打ち消して駅へ向かう。
電車に乗って〇△駅へ。
「そう言えば、なに買うの?」
「ホワイトデーのプレゼント」
藍流に聞かれて答えると、ふたりが固まった。
「? どうしたの?」
「…誰へのプレゼント?」
「奏、誰からチョコもらったの?」
「藍流と流風」
俺の答えに今度はほっとしてる。
よしよしって頭を撫でられて、なんだろうってふたりを見上げるとにこにこして俺を見てる。
「俺達以外の誰かからチョコもらったのかと思ってびっくりした」
「もらわないよ」
「奏は可愛いから、誰になに渡されるかわからないから」
「可愛くないよ」
藍流も流風もなにを言ってるんだか。
あ、そうだ。
「それで、色々調べてたらお返しに意味があるんだって。俺、初めて知って…」
スマホで調べたページを開いてふたりに見せる。
「へえ」
「こんなのあるんだ」
藍流と流風も初めて知ったようで、スマホを受け取った藍流がスワイプしてふたりでページを興味深そうに見ている。
俺だけが知らなかったんじゃないんだ…なぜかちょっと嬉しい。
「それで、俺、ふたりには金平糖を贈りたいなって思って…」
「「金平糖…」」
藍流の指が止まってふたりでたぶん金平糖を贈る意味を読んでいる、と思う。
なんだか恥ずかしい。
俺の顔が熱くなる前にふたりの頬がぽっと染まる。
「…帰りたい」
「え?」
「もう帰ろう?」
藍流も流風も俺のトレーナーの袖を引っ張って『お願い』って顔をする。
可愛い…けど。
「だめ。買い物する」
だってこの流れは絶対藍流の部屋に連れ込まれる。
ふたりの『お願い』にはすぐ負けちゃうけど、俺はどうしても藍流と流風に金平糖を贈りたい。
だから今日は負けない。
せっかく一緒に買い物ができるんだし、〇△駅は次なんだから交通費だってもったいない。
「「……」」
うわ、すごいじとっとした目で見てる。
こんな顔もできるんだ…。
「着いたよ。降りよう」
ふたりの手を取って電車を降りる。
そしたら急に機嫌がよくなってぎゅっと手を握り返してくれた。
やっぱり笑顔でいてくれているのが一番好き。
「金平糖は和菓子…」
和菓子屋さんに行ってみたけど売ってない。
店員さんに聞いてみたけど金平糖は置いていないと言われてしまった。
食品売り場のお菓子コーナーを見てみたけど売ってない。
「奏、落ち込まないで」
「気持ちだけですっごく嬉しいから」
「うん…」
藍流も流風も慰めてくれる。
でもどうしても金平糖贈りたい…やっぱりネットで買おう。
こうなったら絶対なんとしても金平糖を贈る。
「もう用事なくなっちゃった…どうしよう」
「じゃあ帰ろうか。流風はなにかある?」
「俺もなにもない」
俺がちょっと落ち込み気味に言うと、藍流が俺の頭をぽんぽんしながら流風に聞く。
流風も帰ろうって言うから三人でまた駅に向かう。
「あのー…」
「?」
三人で歩いていたらうしろから声をかけられた。
女の子の声だ。
振り返ると、おしゃれしたすごく可愛い女の子がふたり立ってる。
たぶん俺達と同じくらいの年だと思う。
嫌な感じがする。
「うわ、すごいかっこいい!」
「だから言ったじゃん、めちゃくちゃかっこいいって!」
なんだかふたりで盛り上がってる。
藍流と流風はそのまま無視しようとする。
俺はすごく冷たい瞳のふたりに違和感を覚える。
「ちょっとお話しません? 私達暇なんです!」
「お友達も一緒でいいですから!」
お友達って俺か…おまけって事だよな。
ふたりの女の子は藍流と流風の腕に抱きつく。
すごく胸が痛い。
だってかっこいい藍流と流風と可愛い女の子達でキラキラしてる。
俺と一緒にいるよりずっとお似合い。
…俺、ネガティブになってる。
だめだな、こういうとこ。
藍流と流風を信じてしっかりしないと。
と思っていたら。
「俺達、きみ達に全然興味ないから」
「今後興味を持つ事もないから。だから離してくれる?」
藍流と流風は冷めた表情で女の子達にそう言って、離してもらう前に手を離させた。
そしてぽかんとしているふたりを置いて俺の手を引いて改札を通る。
俺が振り返って女の子達の様子を見ると真っ赤になっていた。
それが怒りからくるのかなんなのか、俺にはわからない。
「…いいの?」
ホームに着いて俺が聞くと、ふたりとも不思議そうな顔をする。
「なにが? なにかあった?」
「さっきの子達…あんな冷たい言い方しちゃって…」
「だってほんとの事だし。俺達、奏以外に興味持つ事ないし」
「……」
流風も藍流も当然のように言う。
なんか…もう…。
「…ばか」
ふたりの手を取ってぎゅっと握る。
さっきのネガティブなんて欠片も見当たらない。
「可愛いなぁ、奏」
「早く帰ろう」
「うん…」
早く抱いて欲しい。
こんなに嬉しい気持ちになってるって事、藍流と流風にも感じ取って欲しい。
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