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ふたり占め#11 ①
インターホンが鳴る。
来た!
「奏 !」
荷物を持ってわくわく全開で玄関に向かおうとしたらお母さんに呼び止められた。
「なに? もう」
「お弁当忘れてる」
「あ」
「『もう』はこっちが言いたいわ」
「ありがとう…いってきます」
お母さんにお礼を言って家を出る。
「おはよう。誕生日おめでとう!」
大好きな藍流 の誕生日。
日付が変わったら大好きな流風 の誕生日。
今日はデートだ!
「「ありがとう」」
相変わらず爽やかだ。
天気もいいし、風も穏やか。
絶好のお花見日和だ。
「荷物持ってあげる」
「大丈夫」
ふたりが荷物を持ってくれようとするけど遠慮する。
ぽかぽか気持ちいい。
公園に向かうまでにもあちこちで桜が綺麗に咲いている。
「奏、知らない人に声を掛けられても返事しちゃだめだよ」
「うん」
「お菓子とかももらっちゃだめだよ」
「もらわないよ」
俺はいくつだ。
でも藍流も流風も心配そう。
「奏、すごくご機嫌」
「うん」
ご機嫌にならないわけがない。
「だって大好きな人達の誕生日だもん」
「「!!」」
藍流と流風が抱き締めようとする腕をぐっと抑えてる。
そう。
デートだからいつもみたいにすぐにくっつけないんだよな。
それに今日は土曜日だから矢橋 家には藍流と流風のご両親がいて、デートのあとそのまま…ってわけにはいかない。
珍しく“デートだけ”っていう健全な日。
うーん…抱き締めてもらえないのってなんかむずむずする。
でも今日は我慢。
「お弁当作ってきたから公園で食べようね」
藍流と流風がぱっと笑顔になる。
「奏も失敗作、入れてくれた?」
藍流が聞く。
「え?」
それは…。
「奏は俺と流風の失敗作を喜んで食べてくれたんだから、俺達も奏の失敗作食べたい」
目が泳いでしまう。
「一度おうちに戻ろうか」
「そうだね、そうしよう」
「だめ!」
流風と藍流が来た道を引き返そうとするので止める。
「もうここまで来たんだから公園行こう!」
ふたりの失敗作はいいけど、俺の失敗作は食べて欲しくない。
だって恥ずかしい。
ずるいかもしれないけど。
藍流と流風の腕に腕を絡めて早足で公園の方向に歩き出すと、ふたりは『しょうがないなぁ』って笑顔をする。
ほっとしてちょっと速度を落として、またゆっくり歩く。
「やっぱり荷物持ってあげる」
「貸して」
「うん」
藍流と流風の言葉に素直に従って荷物を預けて、手を繋ぐ。
今日の精いっぱいのくっつき。
公園に近付くと人が増えてくる。
やっぱり混んでるかな。
「わ! すごい」
公園に入って桜のトンネルをぼーっと見上げて立ち止まってしまう。
でも両隣の藍流と流風は桜を見上げずに俺を見ている。
「桜見ないの?」
「奏の目に映ってる桜見てる」
「キラキラしてるよ」
すごい事言われた。
顔が熱くなってきたのでまた歩き出す。
「今日は桜見てよ?」
「うん」
「大丈夫」
藍流も流風も頷くけど、ほんとかなぁ…。
人は多いけど、この公園は酒類の持ち込みが禁止だから大騒ぎしている人達はいない。
みんなのんびり景色を楽しんでいる。
芝生広場の空いたスペースに三人で座る。
すごくゆったりした気分。
「奏のお弁当食べたい」
「俺も」
「うん」
流風と藍流がわくわくしてて可愛い。
バッグからランチボックスを出して蓋を開ける。
今日はサンドイッチにした。
あとお弁当ピックで食べられるような食べやすいおかず。
「たくさんだね」
「作り過ぎちゃった」
流風の言葉に心の中でこっそり、『その分失敗作もたくさん』って言ってみる。
でもそんな事口にしたらまた戻ろうって言われるだろうから絶対言わない。
失敗したのは帰ってから食べるからいい。
「浅羽 ?」
突然呼ばれて見ると、クラスメイトが三人立っている。
伊藤くんと林くんと岡本くんだ。
「お花見?」
三人はいつも一緒にいるから仲いいんだろうな。
「三人で買い物行く前に桜綺麗だろうし見てこうかって足延ばしたんだ」
と岡本くん。
「まさか浅羽に会えるなんて…」
なぜかちょっと声が震えている伊藤くん。
「浅羽は藍流先輩と流風と…デート…?」
またなぜか恐る恐るといった感じで聞く林くん。
「うん」
「「「…だよな」」」
俺が頷くと三人が項垂れた。
「…おいしそう」
伊藤くんがお弁当に気付く。
「あ、食べる? 俺が作ったんだ」
「「「浅羽の手作り弁当!!」」」
三人の目が輝く。
伊藤くん、林くん、岡本くんは、ずっと黙っていた藍流と流風をじっと見る。
俺もふたりをちらっと見る。
たくさんあるし、ちょっとくらいなら…だめかな。
「……サンドイッチひとつずつだけ」
「それ以上はだめ」
「「「!!!」」」
藍流と流風の許可に三人は目を潤ませた。
俺はびっくりしてちょっと身体を引く。
そんなにお腹が空いていたのか。
三人は震える手でそーっとサンドイッチを取り、色んな角度から見る。
「やめて。早く食べちゃって」
サンドイッチは観賞するためのものじゃない。
顔が熱くなってくる。
「「「いただきます…」」」
どきどき。
おいしくなかったらどうしよう。
「どう…?」
一口一口噛み締める三人に聞くと。
「…俺、たぶんこれよりうまいものこれから先に食べられる気がしない」
「一生の思い出にする」
「こんなうまいものがこの世にあったんだ…」
林くんも伊藤くんも岡本くんも大げさな感想。
ただのハムたまごサンドだよ。
三人の感想に藍流と流風は満足そうにしてる。
「おいしいって」
「褒めてもらえてよかったね、奏」
ふたりに頭を撫でられて俺はすごく嬉しい。
それを見た三人はちょっと傷付いた顔をしてる。
「わかってる…わかってるし」
「うん、わかってる…」
「…わかってるけどさ…」
伊藤くんと岡本くんと林くんが順番にぶつぶつ言ってる。
なんだろう。
「あ、そうだ。三人とも誕生日のメッセージありがとう。嬉しかった」
「「「!!」」」
今度は三人揃ってぽーっとした顔になった。
大丈夫か。
「浅羽がわざわざ返信してくれたのも嬉しかった」
「うん。ありがとう」
「入力するの大変だっただろ」
ここは『うん』と言っていいのかどうか。
悩んだ結果、笑ってごまかした。
「そういえば、枝垂れ桜は見た?」
岡本くんが話題を振ってくれる。
「枝垂れ桜?」
どこにあるんだろう。
「そこの桜のトンネルを抜けたところに枝垂れ桜が何本かあったんだけど、すごく綺麗で目を奪われたよ」
「そうそう、浅羽みた…むぐっ」
伊藤くんの言葉に、目を奪われるほどってどんなだろうと想像しようとしたところに林くんの言葉が続いて、でも途中で伊藤くんと岡本くんが林くんの口を塞いだ。
「ばか、そういう事言って浅羽に近付けなくなったらどうすんだ!」
「ごめん…」
「気を付けろ!」
こそこそこそこそなんか言ってる。
藍流と流風の表情がちょっと険しくなってる。
「じゃ、じゃあそろそろ行くわ」
「うん。サンドイッチごちそうさま」
「藍流先輩、流風、お邪魔しました」
「「うん」」
「ちょっと。藍流、流風」
なんだか三人は逃げるように、でもふわふわした足取りで去って行った。
藍流も流風も『邪魔でした』って顔してるし…もう。
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