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第22話
「じゃあ、明日また来るから」
「蒼真、あまり悩まないようにな」
夜も8時頃になり、疲れもあるからとジョイスと翔は帰ることにした。
「うん、大丈夫だよ。明日また会おうな」
そう言って蒼真は手を振った。
「頑張れ新婚」
蒼真の後ろで、圭吾が『HAPPY WEDDING』と書かれた紙の旗でも振りそうな感じでニヤついている。
「やめろよぉ〜そういうの〜〜」
こちらも負けずににやけて、ジョイスは後頭部に手を当てた。翔も顔が真っ赤だ。
「翔、嫌だったら突き飛ばしても、張り倒してもいいからな、無理はするなよ!無理は!」
蒼真が翔の手を取って、言い聞かせるようにしている。
「もう、そおま!」
ジョイスや圭吾を気にしながら、翔は真っ赤だった顔がますます赤くなってしまった。
「あまりいじめるな」
圭吾の手が蒼真の頭に乗っかって、翔の手がやっと解放される。
エレベーターが来たのが音で告げられる。
「じゃあまた明日ね蒼真」
「うん、気をつけてな」
「ジョイスも気をつけて」
「あいよ。そっちもがんばんなよ?倦怠期の夫婦みたいだぞ?」
とジョイスが言い切ったところでタイミングよくドアが閉まった。
閉まる間際の嫌な笑みのジョイスの顔だけが圭吾の脳裏に焼き付いてしまい、圭吾は舌を鳴らしてリビングへと戻る。
蒼真は飲みかけのビールを瓶ごと抱えてソファに沈んでいた。
圭吾もビールの瓶だけを持って、蒼真の横に座る。
蒼真は、隣の圭吾をチラッとみては目を離す、ということを2度ほど繰り返したあと、漸く言葉を発した。
「すぐに返事をやれなくて。悪い…」
バツが悪そうに瓶を爪でカリカリしている蒼真に、圭吾は
「大丈夫だ…謝るな」
そう言って、瓶からビールを流し込む。
なぜ戸惑っているのかは解ってあげられないが、圭吾に対して申し訳なく思ってることはよくわかっていた。なんせ、ジョイスと翔が盛り上がってしまったものだから、ますますバツが悪いというものだ。
「圭吾のことが嫌とかそういうんじゃあ…」
それを聞いて圭吾は口の端をあげてしまう。
「なんだよ…」
一生懸命話そうとしてるのに!と蒼真は少々不貞腐れた。
「いや、生意気な子供かと思ってたら、案外可愛いんで驚いただけだ」
驚くと笑うのかよ!と呟いて、ビールを煽る。
「まあ、そう怒るな」
圭吾は腕を伸ばして蒼真の肩を抱いた。
「怒るよ、普通は!」
グリッと振り向いて、怒った顔を全開に圭吾へ晒す。圭吾はーああ、ああ、悪かった、だから拗ねるなーと頭をポンポンと撫でた。
「俺は、蒼真が決めたことに従うよ」
額をくっつけてそう言った圭吾は、そのまま蒼真を抱き込んだ。
「もし、蒼真がどこかへ行くって言っても会いに行くし、俺を忘れないという自信もあるから」
「自信過剰だなあ…」
「当たり前だ」
背中に回った蒼真の手が、ほんの2日振りなのに何故か酷く久しぶりのような気がする。
「圭吾とこうすんの…すげえ久しぶりな気がする…」
同じことを考えていた事に驚いて思わず顔を見てしまった。
「今度はなんだよ!」
「たった今、同じことを考えてたから心を読まれたのかと思った」
圭吾は蒼真を抱きしめて、そして膝の上に乗せる。
「倦怠期の夫婦だと言われたが…?」
さっきのジョイスの言葉に蒼真は笑う。
「新婚に当てつけようか…」
蒼真の言葉に圭吾も笑って、蒼真にキスをし蒼真もそのまま圭吾に寄りかかって行った。
「ん…」
ソファは窮屈だということでベッドへ移動し、今、蒼真はお腹の辺りを徘徊する圭吾の舌に翻弄されていた。
圭吾の舌をより感じたくて、背を逸らして圭吾に押しつけ、より強く感じようとする。
こんな感じがすごく好きだと思う。
この手を離してはいけないと、圭吾から離れようとしている自分に警鐘が鳴っていた。
「はっ…ああ…ぁあ」
自身を含まれてその柔らかな感触に背筋を粟立たせると、その声に気をよくした圭吾が唇を外して舐め上げてくる。
「あっ…あぁ…んっけぃ…ご、やだ…」
指で微妙に刺激しながら、圭吾の舌は蒼真の裏側を舐め上げていた。
「……っ…ああっ…け…けいご…もう…や…はやく…こい…」
圭吾の髪を掴んで、蒼真はねだる。
身体中に舌を這わせらて、それだけでも感じ切ってしまったというのに、やっときた中心への愛撫は、少しずつ焦らすようにされて、蒼真は今までになく乱れていた。
誰にされてもそれなりに感じはするし、本気で達したことなど数えきれないほど経験している。
しかし、愛する人に抱かれる…という経験だけはなかった。
変な言い方かもしれないけどと蒼真は思うが、圭吾にでさえ、今まで抱かれて来ていたのはそんな感じではなかったのだ。同じ人なのに、意識するのとしないのじゃあ、こうも違うのか…と蒼真は乱れながらもそんな感情に喜んで圭吾の身体に縋っていた。
「あ…んん…はっああ…」
貫かれて圭吾にしがみつく。
抱き抱えられた両足は、腿が腹につくくらい折り曲げられていて、揺らされるたびに足首から先が揺れていた。
こんなに…いい、のに離れられるのか…それともこんな圭吾との関係なら、離れても大丈夫なのか…。明日返事をすると言っても、蒼真の考えはまとまらない。
しかし、蒼真自身わからなかった感情も、圭吾とこう肌を合わせてわかった気がしたのも確かだった。
圭吾と一緒にいたいのにそれを渋ってしまう。
やはりそれは、MBLの元とはいえ本拠地で圭吾と一緒に暮らすのが、辛かったのだ。
「ああっ…んっあ…けいごっ…あっあっ」
激しく突き上げられて息を弾ませる。
「んぅ…んっ あ…ああ…はぁ…」
圭吾の首にしがみついて、蒼真も自分を解放した。
熱情を分け合ったのは、2人ともほぼ同時だったようだ。
ハァハァと激しく息をつく蒼真の濡れた髪をかきあげてやって、軽くキスをする。
「蒼真」
「ん?」
蒼真の横に寝転がって、腕枕した方の指で蒼真の唇を弄んだ。
「密かな野望があるんだが…」
「やおう?」
口元で蠢く指がくすぐったくて、蒼真はその指を咥えたところで声を出したらしい。
「そう」
「なに?」
「笑うなよ?」
「なんだかわかんないけど、一応、うん」
「朝、起きた時に隣に蒼真がいてほしい…。今までになかった気がするんだ。あったとしても誰かに起こされるとかそんなだった気がする。だから…」
蒼真は頭だけ横を向けて圭吾を見てしまう。
「野望……?」
「そう、野望だ。明日は大丈夫だな」
「随分とささやかな野望なんだな」
指先を弄びながら、その腕に巻き込まれるように体ごと向きを変えて、圭吾の方へ身体を向けた。
「朝起きた時って言ったって、圭吾と一緒に目を覚ませる自信はないけどね」
こっちへと向いた唇が圭吾の耳元でそう囁く。
「お前が目を覚ますなんてことは、最初から期待してない」
蒼真はムッとして唇を突き出した。
「じじいとは一緒にならないからねえ」
こう言う憎たらしい言葉が出ると言うことは、だいぶ気持ちも落ち着いてきたのだろう。とは思うが…やっぱり憎たらしいことにかわりはない。
「暫くおとなしいと思っていれば…」
蒼真の首に巻いた腕を軽くだが締め付ける。
「苦しいってば圭吾」
ケラケラと笑って圭吾の腕をタップする蒼真を、圭吾は不意をついて抱きしめた。
「それだけの悪態がつければ、お前の場合は大丈夫なんだろうな。もう、苛むものは何もないから、好きなだけ眠ってていい」
じじいに付き合わずにな。…と付け加えられた言葉に、蒼真は吹き出して
「気にした?」
と首に抱きついた。
圭吾はその問いにフッと笑っただけで蒼真の唇にキスをする。
「気にしたんなら謝ろうと思ったのに」
笑って圭吾の顔を両手で挟んだ。
「だから、そう歳ではないことを今から証明してやる」
そう言って抱きしめた蒼真をそのまま身体の下へすべりこませ、体勢を変える。
蒼真の頭の両脇に両肘をついて、まず唇に深いキス。蒼真の息が上がるまで外さないつもりだ。
そうしながら片手は蒼真自身に触れ、先端を指で遊び、引っ掛かりに指を掛ける。
キスだけで蒼真の息は荒くなってきた。いや、キスだけで、ではないけれど。
「ふぁ…くるし…あっずるいよそんな…んぅぅ」
キスを外し、蒼真は新しい空気を吸うように口を開け、それでも下半身の刺激に声を漏らした。
もう全ては蒼真に任せた。その後はその時の事だ。
圭吾は今、ここで、自分の腕の中にいる蒼真が全てだと思って、優しくいたぶることにした。
「俺、決めたわ。オーストラリアへ行くことにした」
ジョイスと翔がやってきて、買ってきてくれた朝食をとっている最中に蒼真が明るくそう言い放った。
そこにいた全員がいつ聞いたらいいのか様子を伺っている隙をつくようなタイミングである。
「蒼真…」
蒼真の名を呼んではいるが、翔の視線は圭吾であるし、ジョイスも圭吾の様子を伺っていた。…が当の圭吾は平然とバターロールにマーガリンを塗って食べている。
「2人でよく話し合いとかしたのか?」
自分ばかり上手く行って、なんとも落ち着かないジョイスだがこちらも平静を装い圭吾にそう切り出した。
「いや、蒼真が自分で決めた」
答える圭吾は相変わらず無表情。
「蒼真、オーストラリアって、サラのとこ?」
「うん、そう」
「サラ?」
パンを置いて蒼真を見る。
「オーストラリアで俺たちの面倒を見てくれた女性 。あ、結婚してるからね」
翔が頷きついでに、言葉の足らない蒼真の後を続けた。
「旦那さんが地元で色々顔の聞く人で、俺たちがピュア持ってたことで悪い人に絡まれてるところを助けてもらったのが縁で、面倒見てもらうようになったんです」
逃亡しながらも、この2人の周りにはそう言った人物が集まってくるんだな…と考えながらコーヒーを飲もうとした時、ジョイスが圭吾の腕を引いてーちょっと来いーと寝室を指差した。
「いいのか、行かせちゃって」
ドアが閉まるのを確認してから、ジョイスは少し苛立たしそうに言う。
「だめだと言っても聞かないだろう。蒼真が自分で決めたことだから仕方ない」
「お前はいいのかって聞いてんだよ」
つい片手に持ってきてしまった圭吾のバターロールを引きちぎって、ジョイスは口に入れる。
「だから、ダメだと言っても始まらないと言ってる」
仕方なく全部渡して、圭吾は壁に背中をつけた。
「お前、平然としすぎじゃねえ?なんかあったのか?」
「いや、何もないぞ。なあジョイス、蒼真がどこへいくのか判らない事には動けないが、オーストラリアに決まればなんとでも行動が取れるじゃないか?」
「なんの話だ」
「蒼真がオーストラリアへ住むというなら、そこへ異動申請すればいいってことだ」
圭吾が笑って壁から背中を外す。
「そう言うことね…なるほど」
残ったパンを全部口に放り込んでー理解したーと言いながらドアボタンを押そうとした時、自動で開いて目の前に蒼真が立っていた。
「何してんだよ」
「フられた俺の今後を、ジョイスが心配してくれてたんだ」
「あっそう。で?」
「内緒だ」
いって出てゆく圭吾の後ろを、ジョイスも唇に人差し指を当てて、しーっのポーズでリビングへ戻っていく。
「なんなんだよ、もう こそこそすんなよ」
蒼真が元いた場所に座った時に、
「それで、いつ行くんだ?オーストラリアへは」
コーヒーのおかわり用のポットを用意していた圭吾は、キッチンから振り向いて蒼真に問う。
「なるべく早い方がいいんだけど…、ハラダグミとユージにも挨拶してかないとならないから…早くても明後日…あたりかな」
「そんなに早くなのか?」
翔が驚く。
「オーストラリアなんてすぐだろ。ジョイスが休みの時にでも連れてきてもらえよ」
縋るような翔に微笑んで、蒼真は頭をポンポンと叩いてやった。
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