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第7話 1章 出会い

「若君様から、高階殿のお世話を言付かっております。誠心誠意お助けしたいと思っておりますから、どうか、何なりと私を頼って下さい。頼りないとは存じますが……」  佑三は、あなたの力になりたい、あなたの味方だと言う気持ちを込めて言った。 「そのような事、ありがたい事です。擦れば、立花様が、私の上役でございますね。どうかよろしゅうお願い申し上げます。そして、私のことは仙千代とお呼びください」 「上役などと、とんでもございません。私は、松川家に滅ぼされた家の生き残り。ただの下男にございます。ただ、私などでも力になるることがあればと、思っただけです。ああ、そして私のことこそ、佑三とお呼びください」  仙千代は、佑三の身なりに覚えた違和感の意味を悟った。佑三は、普段着の小袖姿だった。勤めに上がる正式なものではない。下男と聞けば納得だった。  そして、仙千代は佑三の身の上に同情した。乱世の世の常とはいえ、家を滅ぼされた者は哀れだった。父上は、それ故にいつも苦心惨憺しておられた。我の人質もその結果ではあった。  高階家のためにも、明日から懸命にお勤めせねば……と改めて思う仙千代だった。 「わかりました。佑三殿と呼ばせていただきます。右も左も分からぬ身ゆえ、どうかよろしゅうお願い申し上げます」  そう言って、仙千代は三郎共々佑三が帰っていくのを見送った。  佑三が下男の身だからといって見下すようなことはせず、丁寧に見送った。  そんな、仙千代に佑三は益々好感をもった。人柄も優れている。あの若君とは雲泥の差じゃと思う。  佑三は、名残り惜し気に、何度も振り返りながら帰っていった。 「若、とても優しい良いお方でしたね。若君様も、わざわざ柿を遣わされるなど、お優しいお方のようでようございました」  実を言うと、ここに案内された二人は、その狭さと質素さに驚いた。  佑三のように、怒りまでは感じなかったが、かなり驚愕したのは事実だった。そして、今後に幾分の不安を感じているところに、佑三の訪問だった。  その不安は、佑三の優しい態度と、柿を遣わした義政の優しさに払拭された。  義政のそれは、全く優しさからのものではなかったが、今の二人は知らない。 「せっかくの、若君様のお心遣いありがたくいただこう。明日から、お勤めに励まねばならぬからの」 「それですが、小姓ではないと言うておられましたな。小姓でないなら、何をされるのでしょう」 「それじゃな、よくは分からんかったな……まあ、明日出仕すれば分かること。何事も明日からじゃ」  父の成定は、弱小大名ゆえ苦心惨憺、日頃身も細る思いでいたが、仙千代は幸いと言うかなんの憂いも無く育った。  嫡子として、両親は勿論、家臣達からも大切に扱われた。  それ故に、先読みする癖がなかった。よく言えばおおらかというか、楽観的な性分だった。  この時も、明日からの務めに対しての不安は全くなかった。  この日、仙千代は憂いの無い最後の夜を過ごすことになる。  この夜を境に、仙千代にとっての夜は安息の時でなくなる。  そして、その魅力的な微笑みも長く、長く消えることになる。

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