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第24話 4章 義定討死
「太守様が上洛されるご準備をされておるようですが、殿からは何ぞございましたか?」
「ああ、そのような動きがあると父上からの手紙にもあった。まだ正式な要請は無いようじゃが、おそらく父上も出陣されるだろう」
「そうですか、それでしたら、若も共に出陣ということも……若の初陣になるやもしれませんな」
そうなれば良いと仙千代も思っていた。元服して、この地獄から、一刻も早く逃れたかった。
側で見ている、佑三や三郎も辛いが、当の本人の仙千代が辛いのは当然のことだ。
しかし、仙千代には懸念もあった。ここに来てから、全く武将になるための鍛錬を積んでいなかった。義政に許されなかったのだ。
このような状態で、戦場で通用するとはとても思えなかった。今の自分の非力さを見たら、父上もさぞ嘆かれるだろう……。
しかし、それは元服後に鍛錬して乗り越えるしかあるまいとも、思っていた。
仙千代の元服は、本人が望み、父親の高階家当主が望んでも、松川家に断りなく出来ることではなかった。
義政の許しを経て、最終的には太守義定の決裁がいる。
結局、仙千代の元服という、いわば高階家の私事が、全て松川家の意向次第ということだった。
それが、今の高階家と松川家の力関係であった。
松川家は、明確に義定の上洛へ向けて動いていた。
帝がおわす京の都は、将軍が守っていた。しかし、戦乱の世、将軍が都を落ちて久しく時が過ぎていた。
反逆の徒が支配する都は、荒廃が著しい。都落ちした将軍は、各地の有力大名を頼り、上洛を持ちかけた。
上洛し反逆の徒を一掃し、将軍をひいては帝を助けて欲しいと言うことだった。
成した後の褒美は、副将軍。将軍と共に天下に号令をかけて欲しい、そういう事だった。
しかしこの乱世、上洛の隙を付かれ自領を攻められると思えば、容易に受けられることではなかった。
義定も、将軍から要請を受けた時、虚栄心は擽られたが、すぐに承諾は出来なかった。
上洛し、不逞の輩を追放し、将軍を呼び戻し、天子様の都をお守りする……それは乱世の武将の誰もが見る夢ではあった。あわよくばこの下剋上の世、将軍に代わって己が天下人になれるやもしれない。
義定には、野心が十分にあった。その裏付けになる力もあった。海道一の弓取りとの自負もある。東海道で義定に反目出来る勢力はなかった。東海道一の支配者であった。
義定は、上洛できる方策を探った。本気で、上洛への道筋を探ったのだ。
一番の懸案である後面の憂いは、義政に竹原家から正室を迎え同盟関係を結ぶことで、解消を目指した。竹原家との同盟は、最重要で、義政にも正室とは上手くやるように厳命していた。
竹原家から、義定の上洛への理解も得ることができて、最大の懸案事項が解消された。
義定は着々と準備を整えた。大軍を率いて上洛することで、途上にある国は恭順させる。しないなら、蹴散らすまでだと考えた。そのための大軍の準備。どれだけの軍を動かせられるか、勝負はそこだった。
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