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第25話 4章 義定討死

 かくて、三万の大軍を率いての上洛が決まり、留守は嫡男の義政が守ると決まった。  松川家は、上洛に向けて各々多忙を極め、混乱したが、皆、太守上洛という吉事に浮足立っている状態だった。  義定上洛を知った、佑三は、畏れていたことが現実になったことで苦悩した。義定の上洛が、成功すれば、松川家の力は益々巨大なものになる。到底、逆らうことなどできない。立ち向かうなど、あまりに無謀だ。  いつか、這い上がり、見返してやると言う己の望みは叶うことがあるのか……。無力感に苛まれるなか、仙千代の動向を気にかけた。  仙千代が、元服し初陣のために大高城へ返されるなら、方策もあったからだ。ここに仙千代がいる限り、佑三は脱出することはできない。  しかし、仙千代がいなければ、己一人の脱出、何とかなるかもしれない。特に、今は上洛へ向けて、家中はざわついていた。  義政も、さすがに多忙のためか、ここしばらく離れ屋を訪れていなかった。全体として、警備が手薄になっているのは確かと思われた。 「仙殿、出陣されんのですか……」  佑三は、三郎から仙千代が出陣しない事実を聞かされ大いに落胆した。 「そうなのです。うちの殿が、書状にて願い出たのですが、松川のお許しがでませんでした。若は人質として必要であると、そして元服も未だ早いとの仰せでした。そうなれば、高階家に逆らうすべはござらんのじゃ」  元服も許されなんだのか……最悪の事態だ。仙千代が、元服せず、ここに人質として留まるのなら、己もいなければと佑三は思った。  とてもじゃないが、こんな所に仙千代一人おいてはいけなかった。例え三郎が付いていても、心もとないし、佑三の気持ちが許さない。 「しかし、松川のやり口には我慢ならん」  三郎は、周りに誰もいないのを確かめてから、松川への不満を口にした。 「此度も高階家が先陣を命じられた。一番危険な先陣を命じられるのは常に我が高階の者達。それでも、若を解放し、若の元服が成るならと思っておったが、結果はこれじゃ。しかも若君が留守役。今は上洛前で、離れ屋への御成りはないが、上洛されたら……」  そう、それは佑三の懸念することでもあった。  義定が上洛へ出陣すれば、留守役の義政が暇になるのは必然と思われた。あの義政の事だ、本丸で真面目に城代を務めるとは思えなかった。  すぐにこの離れ屋に来て、淫らな饗宴にふけるのは、火を見るよりも明らかだった。  仙千代を守ることで結束し、連帯感のある佑三と三郎の懸念は同じであった。また、あの地獄の日々が始まる。今は小休止に過ぎないのだ。  義定が、大軍を率いて上洛への途に就いた早くも翌日、義政は一人で離れ屋を訪れた。さすがに、側仕えの者達は共に訪れる暇などなかったのだ。 「ここへ来るのも久しぶりじゃな、どうじゃ淋しかったか?」  淋しいなどあろうはずもない仙千代が下を向くのを、羞恥のためと己に都合よく解釈する。仙千代の思いなど、知ろうともせず、己の快楽のみを追求するのは常の義政だった。 「ふふっ、今日は久しぶりじゃからの、たっぷりと可愛がってやろうぞ」  仙千代が抗えば、義政の欲情をより誘うことを仙千代はこの三年で、嫌というほど学んでいた。  仙千代は、素直に身を任せた。仙千代がどうあっても、嬲られつくすことに変わりはなかったのだ。  仙千代は、心を無にして凌辱の嵐に身をゆだねる。体は感じさせられ、喘ぎもあげさせられる。身を仰け反らせて、啜り泣き、許しを請う。しかし、心は無だった。ただただ嵐の過ぎ去るのを待っていた。  この日の義政は、とことんしつこく仙千代を責め上げた。道具も使って嬲りつくしたと言えた。  義政が、何度目かの欲情の放出を放ち、漸く満足した時、仙千代は放心状態だった。身も心もへとへとだった。 「そうじゃ、お前の父から、元服と初陣の願いが出されたそうじゃの。親が己の子を知らぬのか! 元服など、まだまだじゃ。女に戦場が務まるか――務まらんじゃろ」  余りの侮辱に仙千代は蒼白になる。仙千代を、このような境涯に貶めたのは誰なのか! その仙千代に、畳み掛けるように義政は続けた。 「お前はまだ自分の立場が分かっていないのか! お前はわしの女なんじゃよ。こうしてわしの伽を務めるのが、そなたの、女の仕事じゃ。他のことを考えることはわしが許さん。今後そなたの父からたわけた願いが出されたら、厳しゅう仕置きするぞ。よう心得ておけ! よいな!」  仙千代は、青ざめたまま頷くしかできなかった。  

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