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第69話 11章 四国へ出陣

 とりあえず成利は、四国に布陣する久世へ、書状を出すことにする。  書状は、久世が行き際に時折様子を伝えて欲しいと言い置いて行った。その時は、城の日常のあれこれだと思っていたが、その書状に、帳簿のことも書き加えることにした。  戦場にいる久世に、このような事をと、最初は躊躇したが、やはり伝えることは大事と思いなおした。  城主として、知っておくべきことと思うのだ。  成利は、書状を古賀に渡した。古賀が、書状をまとめて送り出すことになっているからだ。  それを、木村が今日は自分が出すからと、言葉巧みに引き取った。木村からしたら、嫌な予感がしたからだ。  木村の予感通りの中身だった。こんな書状を殿に見せるわけにはいかない。木村は、それだけ抜け取って、残りの書状を送り出した。  木村にとっては、問題はそこからだ。成利の書状を毎回抜き取るにも限度はある。例えそこは上手くいっても、いずれは殿自身が帰還し、直接伝えられれば、書状が届いていないことも分かり、自分の運命はそこまでだ。  そうなれば、良くて放逐、悪ければ打ち首だ。  どうしたらいいのかと、考えた木村の結論は、実に単純と言えば単純。成利を消すことだった。しかし殺せば、犯人探しが行われるのは必定。それは面倒くさいことになる。それこそばれたら、打ち首間違いなしだ。ならば、成利自ら消えてもらおうと考えた。どんな方法で――実に下劣な方法で。  木村は、成利を、暴力的に襲ってやろうと考える。それも、男の尊厳を失くすようなやり方で。  幸いというか、高階成利は中々の美形だ。下手な女を抱くよりはいいだろうと思わせるものがある。一時の慰みもかねて、徹底的に犯してやろうと考えた。そうして、自分から出て行くように言えばいい。出て行かなければ、また襲うと。暴力と、凌辱で言いなりにさせればいいと。  木村の体格は、さほど大きくはないが、成利が華奢なだけに、不意を狙えば大丈夫だろうと思うのだ。  考えていると、わけもなく出来そうに思えるし、中々楽しめそうだ。木村は、実行に移すことが楽しみになってきた。 「高階様、支払いに銅銭が必要です。蔵までご一緒願いたいのですが」 「わかりました。参りましょう」  木村の悪事の実行には、当然三郎が邪魔だった。三郎が一緒にいてはかなわない。そのため、三郎が離れた隙に、蔵に誘い出す。あらかじめ、蔵には、縛るための縄と、猿ぐつわのための紐も用意してある。  蔵に誘い入れ、鍵をすれば、こちらのもの。声や、物音が漏れることも、蔵なら心配ない。  この計画を考えた時は、あまりに己の考えが良すぎて、自ずと笑いがこみ上げた。  早く、あの端正な顔を、恐怖と絶望に歪ませたい。木村は、嗜虐趣味のある男でもあった。 「高階様、こちらでございます。先に中へお入りください」  木村は、成利を先に蔵に入れる。続いて自分が入り、鍵をしようとした。  その時、上から人が降って来た。降りてきたと言うよりも、まさに降って来たという感じだった。その人に木村は、首を討たれ倒れこんだ。

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