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第2話:レイヤと淳の場合
「はあっ、あああっ」
乱暴に後ろから突かれて、レイヤはそれにまた悶えた。
淳は自分の下に横たわっている男の頭を押さえながら後ろに抜き差しする。
「勘違いしないでほしいんだけど」
男は激しく腰を打ち付けながらも冷静に言葉にする。
「君を好きになることはないよ」
知ってるよ。
レイヤは、心の中で呟いた。
柴田レイヤ(26)は、繁華街から少しだけ離れた場所で『オレンジストーン』というバーを経営していた。22歳の時にやっと念願の自分の店を持つことが出来た。
同性愛者である自分を、真面目な両親はけして許さなかった。
高校を卒業して夜の店で死物狂いで仕事を続けようやく、自分の夢を叶えた。
店を始めた当初は、知り合いが来てくれて、そこから知り合いの知り合いが増えて、
レイヤの人柄もあり、店はまあまあ繁盛していた。
そんなある日、
常連客が連れてきた男が淳だった。
「なんでだよ〜」
その男は、かなり酔っていた。
彼は1週間前に、結婚式当日に花嫁に逃げられた男だった。
そのエピソードだけでも、かなり面白いのに、
その彼女と出会う前にお見合いを繰り返し、20回目にしてようやく出会った彼女だったのに。あっさり捨てられてのだった。
見た目は男前なのに、何故か女にモテないとかなんとか…
泥酔というか、ほぼ泣いている時間が多かったけど。
涙を拭いて、やっと落ち着いた淳に、
「もうすぐ終電なくなるよ。ほら、お水」
そう言って、水を差し出すレイヤを淳はじっと見て、
「ホント綺麗だよね、店長さん」
「レイヤですよ。お兄さん」
「俺は淳」
淳はレイヤの真っ直ぐな細い指を手に取り、
「レイヤさんはモテるでしょ」
「まあね」
答えるレイヤに、淳は初めてふっと笑う。
「自分で言うんだ」
「だって実際モテるのに、『そんなことないですー』なんて嫌味でしょ」
「それもそうだ」
ふふっと笑い、ふてくされる淳を見る。
「俺もカッコいい方だと思うんだけど、何で振られるんだろ」
レイヤは、自分の手を持つ淳の手を今度は握り返し自分の口元に持ってきて、
チュッとキスする。
「今までの女たちが、見る目が無いだけだよ」
じっと淳を見つめ、
「俺だったら、淳さんの事大事にするけどな」
その視線に淳はドキッとする。男なのにこんなに綺麗で羨ましい。
レイヤはソファに腰掛けたままの淳の膝上に跨り、
今度は彼の口にキスをした。
「慰めてあげようか?淳さん」
淳は彼に見とれて、そのまま彼のシャツのボタンを外し、首から胸までを愛撫し乳首を舐めるとレイヤは小さく声を漏らした。
「んっ…」
彼の反応をもっと見たい。
淳は彼の乳首を指でイジりつつ彼に深くキスをした。そのまま腕をシャツの中から手を彼の背中に回し、背筋を上から下へ指でなぞる。
「あっ…背中は、弱いからっ…」
淳の腕から逃れようとするが、彼は離さない。
そのまま淳の手は彼のズボンの中に入り、レイヤのお尻を撫でる。気が付くと二人とも勃っていた。そのままその夜は、淳はレイヤの肌の滑らかさを堪能した。
「綺麗だ」
関係が始まったのは、その夜からだった。
顔はレイヤのタイプだったが、彼はノンケなので半ば冗談で誘ってみたが、
何故か乗ってきたのだ。
体の相性が合ったこともあり、もう何度も身体を重ねているのだがその度に、
『君に興味はない』だの、『好きにはならないよ』など、言ってくるのだ。
分かったと言っているのに、何故彼は伝えてくるのか。
「あのさ」
事を終えた後、シャワーから出たレイヤは次シャワーに入ろうとする淳に、
「来るたびに言わなくていいよ」
「え?」
「ただのセフレなのはわかってるから」
「き、君が勘違いしないように」
そう言いながら、風呂に入る淳。
ザァー……
シャワーを浴びながら、淳はさっきのレイヤの姿を思い浮かべていた。
最高に乱れた彼の姿に、何度も腰が止まらなかった。
自分からセフレになったのに、
実はレイヤを好きになりかけていた。さっきの言葉は自制のための言葉だった。
「はあ…」
あの綺麗なレイヤの顔も身体も、心も全て自分のものにしたいのに、
好きになると、皆離れていく。
だから、もう告白はしない。付き合うと皆自分のつまらなさに気が付いて、
振られるのはいつも自分だった。
「泊まっていなかい?」
風呂から上がり着替えを済ませた淳に、レイヤは話しかける。
「帰るよ」
言って彼は帰ってった。
レイヤは窓の外から彼が帰るのを見届けた。
ふっと、笑いながら頭をかきウィスキーを口に含んだ。
翌日。
「はあ…」
淳は大きなため息を付いた。
「神田〜、仕事中になに溜息ついてんだよ」
と同僚の佐藤 要が隣の席から声をかけてきた。
「んー…」
心ここにあらずの淳に、疑問符浮かべた。
昼休み。
会社近くのカフェ『リボン』でランチセットを注文し、水を飲んでから、
「で、どうしたんだよ?また見合いしたのか?」
彼が見合い20連敗したことも、結婚式当日にドタキャンされた事も知っている同僚に、
今の自分の悩みを話して良いのか考えた。
いや、よく考えろ、
花嫁に逃げられた男が今度は男とセフレになっているなんて、
しかもその男に本気になってしまったなんて……
言えない、絶対言えない!
「き…気持ちの整理がついたら相談する」
すると、要はしれっと、
「それが出来ないから、悩んでんだろ」
「……」
普段、他人に無関心のくせに、こういう時だけ痛い所を突いてくるやつだ。
「別に無理には聞かないけど」
ランチセットを食べ終え、食後のコーヒーが運ばれてきた。
「おまちどうさま。いつも来てくれてありがとう」
ランチタイムが落ち着いて、キッチンスタッフの秋生が二人に声かける。
ちなみにアキ=秋生は男である。
「アキさんいつもおしいよ。ありがとう」
「あいかわらずカッコいいわね♡要くん。可愛い弟くんは元気?」
と、意味深な言葉を付け加える。要はハハッと笑い、
「え、ええまあ」
「よかったわ」
要に対して軽い挨拶を終え、今度は淳の方を向いて、
「で、そこの男前は、一体何を悩んでいるのかしら?」
じっと淳を見つめる秋生。それにたじろぐ淳。
この店のスタッフである秋生は、男と付き合っていると言っていた。
なら、相談しやすいかも、それに要も偏見のない男だし。
「じ、実は…」
淳はポツポツと話し始めた。
すると、
秋生と要はすごい顔をしていた。
度肝を抜かれたというか、呆然としていた。
淳はやっぱり話すんじゃなかったと、顔を真っ青にしていた。
引かないわけがない。
あまつさえ花嫁に逃げられ、男とセフレになり相手に本気になったなんて。
馬鹿としか言いようがない。
「馬鹿としか言いようがないわね」
秋生がしっかりと、トドメを刺した。
「うぐっ…、はっきり言う秋生さん素敵…」
淳は胸を押さえて蹲る。
「そ、そんなはっきりと言わなくても、馬鹿なのは自分でもわかってるし。花嫁に逃げられて、今度は男とセフレになり、あまつさえ相手のことを好きになるなんて…分かってるんだ。俺は彼にとって遊びだし」
「別に好きなるのは、いいと思うけど」
それには、要も頷いている。
秋生は、
「アンタが馬鹿なのは、本気になることを自制している所よ」
「……え」
「同じ過ちを繰り返したくないから、本気にならないようにしてるんでしょ?」
「だって、本気になったら皆…俺の前から消えるんだ」
切実に声をからげる淳。
「だから俺は本気にはならない」
だから本気にならなければ、ずっとこの関係を続けられる。
離れなくて済む。
(病んでるわね…)
荒く乱暴に抱けば、自分このとを嫌になるんではないかと何度かそうしてみたが、
彼は何も言わなかったし、事後に冷たくあしらったりもしてみた。
相手の方から別れたいと何とか言わせたいと考えた。
だってもう自分から離れられそうになかったから。
でも、何をしても彼は平気な顔をしていた。
まあセフレなんだ。それはそうか。
色々試して最近はもう策は尽きていた。
それに最近は抱けば抱くほど愛しさが増して、
少しでも長く同じ空間にいると、好きだと言ってしまいそうで怖かった。
仕事の疲れもあって、今日はめずらしく淳は事後に寝てしまった。
「ん…」
「起きた?今日は泊まっていきなよ」
「ん…、かえ…る」
「どうせ明日土曜日でしょ?」
ぐいっと、枕に頭を優しく押し付けられ、
不覚にも淳はそのまま眠ってしまった。
「まったく…」
彼の無防備な寝顔を見つめ、額にキスする。
「素直じゃないなぁ」
フッと笑い、彼の隣に眠った。
翌朝。
いい匂いのするベッドの上で、淳は目を覚ました。
そう、この匂いはレイヤの…
ふと目を覚ますと、隣にはレイヤが眠っていた。
昨日、あのまま彼の部屋に泊まってしまった。こんな事は初めてだった。
そう言えばレイヤの寝顔は、初めて見たかも知れない。
相変わらず綺麗でずっと見ていられるくらい、自分はこの顔が好きだ。
淳はそっとレイヤの顔を自分に向け、
そっと彼を起こさないように、
キスをした。
もっと深くキスしたい。
淳はレイヤの口を開けさせ、彼の口に舌を入れた。
「んん…」
気持ちよさそうな声をレイヤは漏らした。淳はゆっくりと口を放した。
レイヤは勃っていた。
彼が自分のキスに反応していることが堪らなかった。
布団を剥ぎ取りレイヤの服を脱がせ、裸体の彼の後ろに指を挿れ広げる。
昨日散々抱いたから、まだ柔らかい。
レイヤの足を広げ、自分の固くなったモノを挿入する。
「ああっ」
レイヤは一気に挿入されて思わず声を出す。
「起きた?」
腰を動かすのを止めない淳に、揺らされながら、
「シたいの?朝から」
ふっと笑っているが、気持ちよさそうなレイヤの反応に、
「ごめん」
「ふ、いいよ」
言って、レイヤは淳の服を脱がし抱きしめる。
「淳さんって顔の割には、性欲あるよね」
「すみません…」
ベッドの上で腰をさすりつつ言ってくるレイヤに、淳は彼の前に正座して誤った。
「まあ今日は休みだから良いけど」
ふうとため息をつくレイヤに、
「お詫びに昼ごはん、俺作るよ!何食べたい?」
明るく言ってくる淳に、
(セフレに昼ごはん作ってくれるのかよ)
と内心突っ込むレイヤ。本当に人のいい男だ。
レイヤは何とか笑わないように、横を向き、
「じゃあ、作ってもらおうかな」
「おっけ!」
飛び上がりキッチンに向かう淳。
この人懐っこさ、顔もいいし、正直夜の方も申し分ない。
会社も大手企業らしいし、条件的にはお見合いで20連敗なんてありえないのにな。
レイヤは嬉しそうに食事を作る男に、ただ見惚れていた。
「人の気も知らないで…」
微笑んでレイヤは、ベッドに置いたままの淳のシャツを手に取り、ぎゅっと抱きしめまた横たわった。
「レイヤさん、出来たよー…」
淳は食事を用意して、ベッドまでレイヤを呼びに来た。
レイヤはスヤスヤと眠っていた。いつもシャープな表情をしているレイヤの気の抜けた顔、そして淳のシャツを抱きしめて…
「かわいい……」
自分のシャツを抱きしめて眠っているレイヤが、可愛く見えた。
レイヤは、自分のことをどう思っているんだろうか。
いつも冷静な彼の、本音が聞きたいと思った。
でも、それは勇気が出ない。
レイヤはようやく起きて、淳が作ったミネストローネを口にした。
「おいしい!淳くん料理上手いね」
笑顔で言われてい、思わず淳は嬉しくなった。
「一人暮らしが長いだけですよ。気に入ってくれてよかった」
少年の様に無防備に笑う淳に、レイヤはめずらしくときめいた。
今までセックスだけして、帰っていたので、
一緒に食事して笑い合っているのが、信じられない。
(楽しいな……)
もっと一緒にいたくなる。
結局夕方まで、居座ってしまった。
「長い時間すみませんでした」
淳は、玄関で謝罪をしつつ靴を履く、
「たまにはこういうのも、いいんじゃない?」
大きめの長袖Tシャツを着たラフなレイヤを見て照れる淳。
「もう1泊する?」
「い、いや、さすがに帰るよ」
「そう…こんなに長く一緒にいたの初めてだったから」
寂しそうな顔をするレイヤを、なぜかものすごく可愛く感じる。
「君が帰ると少し寂しいかも、ね」
淳は一瞬ためらうが、レイヤの頬をそっと撫でチュッとキスをした。
見つめ合う2人。
ただ先に赤くなったのはレイヤだった。
それがまた可愛くて、淳はもっと深く、今度は彼を抱きしめキスをする。
「んんっ」
腰を撫でられレイヤはびくっと身体を震わせる。レイヤも彼の背中に手を回す。
なんだか今日は離れがたい。淳はレイヤから離れ、
「また来るから」
そう言って淳は、マンションを出た。
玄関には、全身が火照ったレイヤが一人残されていた。
そのまま玄関にへったと座り込む。
正直この間までは、本気じゃなかった。
ただ淳の反応が可愛くて、自分に本気になってくれれば面白いとさえ考えていた。
でも…今は自分がすっかり彼を好きになっていた。
彼の顔も身体も匂いも…料理が上手な所も、押しに少しだけ弱い所も、セックスが上手い所も今や全部が好きだった。
彼が変な女と結婚しなくて本当に良かったと思う。
自分の誤解じゃなければ、彼も自分に好意があるように感じる。てか多分好きだろう。
ただ彼の将来を考えると、自分の気持ちだけで恋人になって欲しいとは言えない。
「そうだよな…」
レイヤは玄関で頭を抱えた。
しばらく長期出張で行けないと、レイヤは淳から連絡を貰っていた。
前回あんなに一緒にいたせいもあって、少し寂しく感じていた。
今夜は店に、淳の同僚である要が来ていた。
去年弟がバイトに来ていた事もあり、いつの間にか淳と常連客になっていた。
「レイヤさん、神田がこなくて寂しいでしょ?」
「まあね」
「そろそろあいつは折れそう?」
要は、どうやら淳の気持ちを知っているらしい。レイヤの気持ちも。
「結構強情だよね」
レイヤはフフッと笑う。要もフッと笑う。
カウンターで飲む淳の相手をそこそこに、レイヤはソファ席の三人組に近づいた。彼らは結婚相談所で働いているらいし。
「いらっしゃい。楽しんでる?」
レイヤが注文されたお酒をテーブルに置きながら、男一人女二人に話しかけた。
「レイヤさ〜ん、今日もカッコいい♡」
「ありがとう。最近は仕事上手くいってる?」
「それがさー、結構な太客だった男が最近来なくて〜」
ベロベロに酔った上司っぽい女がレイヤに猫なで声で声かける。
レイヤは女の隣に座り、
「へえ、聞いてみたいね」
すると、女は調子良く話し始める。
「結構条件のいい男がずっっと登録してるんだけどさー、結構女が釣れるからぁその男をマッチングさせずに利用させてもらってるのよぉ、今や20連敗!」
「ち、ちょっと…」
一緒に来ている部下が止めようとするが、レイヤは黙って聞いている。
女の声が大きかったようで、カウンターにいる要もハッとする。
何か言いたそうに席を立とうとする要に向かって、レイヤは手で制す。
要も、彼らが淳のことを話している事に気が付いたのだ。
レイヤは客に向き直り、
「面白いね、それでそれで?」
促され、酔った女は更に饒舌になる。
「女がマッチングしそうになると、本当はその男はマッチング希望なんだけど難ありって嘘ついて断った事にして、別の男を紹介して不成立にさせてるの。で、また紹介する。お陰でいっぱい稼がせてもらったわぁ」
「それって、なんて名前の人?」
「なんだったかな……かんだ……じゅん…?」
と、酔って頭の回っていない女を、ニコッと見て、
「淳だよ、あ・つ・し」
女は急に青ざめる。
レイヤはすっとカウンターに戻り、
「その客は俺の知り合いなんだ。よくも彼を弄んでくれたね。会社に通報させてもらうから、覚悟しててね♡」
と、レイヤはスマホのボイスレコーダーを再生する。
要はヒュ〜と口笛を吹く。
店の中に他の客の拍手が響き渡った。
後日、レイヤはあの女たちが所属する結婚相談所に、証拠とともに苦情を入れた。
社内で操作が入って、不正がたくさん明らかになり、その結婚相談所は廃業になった。
淳のお見合い不成立は操作させれたものだった事が明らかになり、淳はマッチングに使った費用を少しだけ色をつけて返金してもらった。
レイヤは淳には言わなかったが、要が事細かに説明したようで出張が終わったすぐに会いたいと連絡が入った。
詳しい話を聞きたいと淳は、店の2階にあるレイヤの部屋にお邪魔していた。
「レイヤさん、色々その…ありがとう」
やけにかしこまった淳に、レイヤは努めていつも通りに振る舞った。
「気にしないでよ、勝手にやったことだし」
「レイヤさんて、良い人だね」
無邪気に笑う淳に、レイヤはイラッとして彼をじっと見つめて、
「ムカついたんだよ」
「え」
レイヤはぐいっとウィスキーを飲み干し、ガンッとグラスをテーブルに置き、
「顔も良くて、身体も最高にエロくてセックスも上手くて、優しくて、料理も上手で、お人好しで…俺がこんなにべた惚れしてるのに」
「へ!?」
「そんなあんたを利用して稼がせてもらって〜何て言われたら、さすがに腹立つでしょ」
彼は酔っているのか、やけに饒舌だ。
「まあ今となっては、その辺の女なんかに取られなくてよかったと思ってるけど」
そう言ってレイヤはじっと淳を見つめた。彼は真っ赤になり固まっている。
レイヤは、はあっとため息を吐き、
「あーあ…言っちゃった…」
思っている事を全て吐き出して、レイヤは脱力してソファにもたれかかる。
出来れば相手から言わせたかったのにと、少し残念に思っていた。
顔を赤くしながらも、淳はレイヤを優しく見めていた。
レイヤはフッと笑い、
「いいかげん観念したら?」
「…?」
「俺を抱く度に、いつも好き好きオーラが漏れ出してたし」
「うっ」
「好きでもない奴を抱いたり出来ないだろ、アンタは」
「…はい」
淳はレイヤの腕を引っ張り、抱き寄せる。
「もうずっと前から、レイヤさんの事だけ見てました」
言って、キスをする。今度は彼の顔を見つめ、
「綺麗な所はもちろん、俺ので感じてる所も、ホントは寂しがり屋な所も、俺のシャツ抱きしめて寝る可愛い所も、仕事中のカッコいい姿も、いざとなたらはっきり言ってくれることも」
フッと笑い、
「全部、好きです」
レイヤは嬉しそうに彼に抱きつき、
「やっと、言った」
笑顔なのに自然と涙が出ていた。淳は彼の涙をふいてやる。
「ずっと素直じゃなくて、ごめんさい」
「もうお見合いしないでよ」
「え」
「俺が幸せにしてあげるから」
「はい、ぜひ」
言って淳はレイヤにキスしながら、
彼のTシャツを捲り左の乳首の周りを舐めながら右の乳首をつねって指でコロコロもてあそぶ。
「はあっ」
レイヤの素直な反応を嬉しく思い、
「レイヤさん、好き。ホント好き、ずっと好き」
何度も好きと言いながら、レイヤの全身を撫で回し、レイヤのモノをしゃぶりはじめる。
「はっ、ま、待って、すぐイッちゃいそう…」
いつも異常に悶えるレイヤがまた可愛くて、
「1回イッていいよ」
「ああん」
レイヤはすぐにイッてしまった。
「かわいい…好き」
淳はそのレイヤの精液を彼の後ろに馴染ませ、指を挿れていく。
レイヤの良い所に指を動かすと、再びレイヤはイッてしまう。
「あっあっ…」
感じすぎて恥ずかしいのかレイヤは、淳から顔を背けた。
彼の顔をグイッ自分に向け直し、
「だめだよレイヤ、ちゃんと俺を見て」
何だか男らしい声で、レイヤをドキドキさせる淳。
「君のことを、朝まで気持ちよくさせる男の顔をちゃんと見て」
そう言って一気に奥まで挿れていく。
「ん‥‥ああっ、好きぃ」
レイヤはトロケた表情で淳を見た。腰を揺さぶられ良いところに何度も当たる。
今までと比べられない程、奥まで気持ちいい。
きっと今まで、淳は我慢してたんだろ。揺さぶられながら、これ以上ない気持ちよさそうな淳の顔を見つめ、二人同時にイッてしまう。
レイヤは自然と思いが一杯で涙を流す。
「もっとして…淳」
「仰せのままに」
レイヤの涙をキスで拭き、淳は再びレイヤを抱いた。
「よかったわね、上手くいって」
秋生は要と一緒に、レイヤの店に来ていた。
「二人って知り合いだったんですね」
要は不思議そうに呟いた。
秋生はカウンターで、モヒートを口に含みつつ、
「私がレイヤの高校時代の1つセンパイなの♡」
『へー』
「二人とも恋愛対象が同性で、それぞれ自分の店をやることが夢だったから」
意外に共通点が多かった二人。
「まあ最近はお互い忙しくて会ってなかったけどね」
ふふっと笑う秋生。
人見知りなレイヤと違って秋生は昔からオープンで、バイな自分を誇りに思っていた。
そんな彼を、レイヤは尊敬していた。
「俺の方が先に開店させてごめんね」
すると秋生は、ムスッとして、
「いいわよっ。来年私も自分の店、開くし」
「えー、すごい!おめでとうございます」
淳は嬉しそうに、お祝いを言う。
ふふんっと自慢げな秋生に、レイヤは優しく笑い、
「よかったね」
「ふふっ、ありがと」
秋生は嬉しそうに答えた。
「遅れてごめん」
一足遅く淳がレイヤの店に到着する。
「いらっしゃい」
「会議が長引いて…」
ふうと、要の横に座る。レイヤにおしぼりを渡され、
「ありがと、レイヤ」
「お疲れ様、淳」
二人のやり取りを微笑ましく見つめ、秋生は嬉しくなる。
「同性の場合、中々世間が認められない場合もあるから、必ずしもハッピーエンドってわけじゃないから、大変よね」
要にしか聞こえないくらいの声で呟く秋生。
隣の要は少しだけ遠い目をして、
「そうですね…でも、形が違っても相手を想うことに男も女も関係ないと想うけどな」
要は義弟と恋仲になった。
元々ノンケだった彼は可愛い弟に絆された形だったが。今では一番大事な人になっている。
幸い彼らの両親は寛容だったため、今では親公認の仲になった。
でも、外で恋人として堂々と歩くには、やはり気を使う。
偏見は誰にでもつきまとう。
要は真剣に秋生を見つめ、
「でも、秋生さんが居れば、皆大丈夫な気がします」
「言うわね、要ちゃん」
男だが姉御肌の秋生に皆励まされているのだ。
「秋生さんのお店、きっと皆相談にくるんじゃないですかね」
「駆け込み寺的な?いやよ、普通の喫茶店が良いわ」
「人生、何が起きるか分かりませんからね」
「ふん」
要から言われた事に照れつつ、秋生は悪態で言い返した。
実は秋生自身も自分の店は、皆の逃げ場所になればいいと思っていた。
男女関係なく、話を聞いてあげられるような。
そんな店に。
その店が開店するのは、数カ月後の予定である。
②店長と客の場合・終
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