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第3話:和美と洋一の場合

進藤 和美は世にいう女装男子。自分で女装バーを経営している。 あくまで女装した男性が好きな人達が集まるばーで、オカマバーではない。 スタッフの中では、セクシャルマイノリティはそれぞれで、 それこそ付き合うのは女だけど、女装だけが好きな男や、女になりたいけど中々性転換手術するまでには至っていない人、色々いる。 当の和美は男として恋愛対象は男、女装は趣味である。 「おかえり」 家に帰ると深夜を過ぎていたため、大学生の弟が出迎えた。 今までシャワーを浴びていたようだ。上は何も着ず下はパンツ一枚の姿。 その裸体をじっと見つめる。何度か彼女はいたようだが、先週振られたらしい。 「ただいま。花の大学生が彼女と外泊でもしないで実家にいていいの?」 「振られたばかりの、弟に酷くない!?」 からかわれ講義する洋一。和美はフッと笑い、 彼から目をそらす、 「早く寝なさい、大学生」 和美は自分の部屋に向かう。 「風呂入らいの?」 「後でシャワーで良い」 「じゃあお湯抜いとくな」 はいはいと和美は、早足で自分の部屋に入った。 「はあ…」 和美はため息をついてドアの前に蹲る。 あのまま洋一と話していたら、彼の身体全身舐め回していた。 エッチな妄想をしていた。 「なんで…」 和美には人に言えない悩みがあった。 弟が好きだ。 それも血の繋がった。 中学の時に、風呂場で全裸の洋一と鉢合わせをして、その時に下が反応した。 始めは男として性欲があまっていて、男女関係なく反応しているだけだと思っていたが、 それ以来、弟の身体を想像しないとイケなくなった。 彼女を抱く姿を想像し、相手を自分として何度も抜いた。 でも、要と義弟の場合とは違う。 自分たちは本当の兄弟。 ただでさえ同性というだけで、世間的には許されないのに、血が繋がっている。 それだけでもう罪深い。 ホント抱かれたい。 弟である洋一に。 「ちがう……」 和美は、もうすでに勃っている自分のモノを擦りながら、 洋一の裸を想像した。 筋肉質のあの身体に押し倒されて、全身脱がされて羽交い締めにされて乱暴に抱かれた。 奥まで挿れて欲しい。 「ちがうっ…はあっ」 和美は引き出しに閉まってある。性的なおもちゃを取り出しジェルを塗り後ろに挿れていく。 「あっあっ…」 声が漏れつつ、慌てて口を抑える。 「ぐうっ」 後ろに入れたおもちゃを抜き差ししつつ、 洋一に抱かれている妄想が止まらなくて… 一人でイッてしまう。 和美は、グチャグチャに泣きながら、後処理をする。 そのままベッドに横たわる。 こんな自分も本当に嫌いだった。 洋一に知られたら軽蔑される。 家を出ていかないと… 和美は店が忙しいとの理由で、実家を出た。 数カ月後、 ピンポーン… 和美の部屋のインターホンが鳴る。 一人暮らしをして以来、人が訪ねて来たことはない。 仕事が忙しく寝に帰るだけの毎日を過ごしていた。 それでいい忙しい方が洋一の事を考え無くて済む。 和美は寝起きの数多をくしゃくしゃと書きむしり、 「はーい…」 ガチャッ ドア開けるとそこには、洋一が立っていた。 「おはよう兄貴」 「…おはよう」 和美は部屋のドアをガチャっと閉める。 「え?何で」 当然なリアクションをする洋一。 (何ではこっちのセリフだ!) 親には住所は伝えたが、洋一に直接は伝えていない。 「実の弟を締め出すなんて、酷くない?」 和美はしぶしぶドアを開けた。 洋一は親に渡された作り置きの惣菜などを、テーブルの上に置き、 「母さんが、どうせまともな食事してないんじゃないかって」 「…それはどうも」 なぜかよそよそしい和美に、洋一はじっと彼を見つめ、 「俺、何で兄貴が急に家で出たのか、考えてた」 「忙しいって言いたじゃない」 顔を逸しながら訂正する和美。 「考えてわかったんだ」 「え」 「弟離れしたかったんだなと」 「は…?」 一瞬ドキッとした自分が馬鹿みたいだ。 漫画やBL小説じゃないんだから、実の弟に自分の気持ちが知られるわけない。 はあっ… ため息を付いて 「食事を持ってきてくれたのはありがたいけど、あまりここにくるのは、やめろ」 「やだよ」 「…?」 疑問符を浮かべる和美に、洋一は、 「俺が来なきゃ、会えないだろ」 「…誰と」 「兄貴と」 真剣に言い切る洋一に、 和美はふっと笑い、 「兄離れしろよ」 「うるさいな」 照れながら振るれる洋一。 一緒に食事を食べ、テレビを見て、 久しぶりに楽しかった。数ヶ月振りだが洋一は何だか急に大人っぽくなった。 それに内心ドキドキしながらも、和美は努めて明るく振る舞った。 「兄貴ー俺、そろそろ帰る…」 言ってソファにさっきまで座っていた和美は眠ってしまいソファからずり落ちそうになっていた。 「兄貴ってばー…しょうがねえな」 洋一は和美を抱きかかえソファに寝かせる。 キレイな寝顔で眠る和美を見つめ、頬にかかった髪をよけてやる。 いつも彼は、女装バーをしているのでロングヘアのウィッグをつけているが、家ではストレートのショートヘアである。そのキレイな髪をさらっと撫でる。 そのまま部屋着の兄の身体を上から下までマジマジと見つめる。 シャツの間から覗く引き締まった腰を見て、触りたい衝動に駆られる。 本当の兄弟なのに、普通はおかしいとおもう。 そう、自分はおかしい。 いくら綺麗とはいえ、実の兄である彼に好意を抱くのは許されない。 でも和美が隣の部屋で自慰行為をしているのを聞いて、彼の淫らな姿を想像して自分もしていた。彼女が出来ても兄を抱く想像で抱いていた。 今、眠ってる彼の身体を触ったら、どんな反応を示すだろう。 きっと軽蔑される。拒否される。 おかしいのは自分だ。 「…?」 和美は自分の唇に何か柔らかい物が当たっていることに気が付いて、そっと目を覚ます。 洋一が、自分にキスしていた。 「…え?」 一瞬何が起こっているのか理解できずに、和美は彼の顔をじっと見つめた。 「…何してる」 「兄貴に…和美にキスしてる」 真面目に答える洋一。彼は冗談じゃないんだ。 「おかしいだろ、こんなの」 和美は洋一の身体をぐいっと、引き離し顔をそらす。 心臓がドキンドキンと脈打つ。 罪悪感と高揚感が自分の中でひしめき合う。 「おかしいよ。実の兄弟だからね」 平然と答える洋一。 「でも」 彼は和美の身体をぐいっと引き寄せ、 「好きなんだ、和美のこと」 「……?」 自分が弟を好きになり、ダメだと自分の気持ちを押さえて、否定して、せっかく離れたのに。 それを洋一は全部ぶち壊した。 「兄弟でこんなのおかしい。それは分かってる。随分悩んだし」 くるしそうに、告白する洋一。 「でも、もう押さえるの無理」 言って、洋一は今度は彼の口に舌を入れ強引にキスをする。 和美は気持ちよさと、いけないことをしている葛藤で混乱していた。 自然と涙があふれる。 洋一は口をはなし、 「やっぱり気持ち悪いか…ごめん」 と、泣いている和美から離れようとした。 和美は泣きながら、 「帰ってくれ」 言い放って洋一を追い出した。 「……」 和美は呆然としたまま、数日過ごした。 思い出しては泣いていたため、店も休んでいた。 ふらっと、ある店に足を運んだ。 「やだ、どうしたのその顔」 秋生はびっくりした顔で和美をみる。 馴染みの店に食事をしに来ただけなのだが、 そのスタッフであるオネエの秋生につっこまれる。 秋生は思ったことははっきり言うため、見て見ぬふりは出来ないのだろう。 「…何でもない」 和美は久しぶりの食事にホッして、またうるうるし始めた。 「ちょっとー、また泣くのぉ?そんな腫れた顔じゃ店出られないじゃないの」 何があったか言わず泣きづつける和美の頭をポンッと叩いて、 「仕事終わるまで待ってなさい。家で話聞いてあげる」 その優しさにまた和美はうるうるした。 その日の夜、 秋生は和美を店の近くの自分の部屋に連れてきた。 何故か彼の話しは、あまり人に聞かれてはいけない話のような気がしたから。 とりあえずフラフラの和美を風呂に入れてやり、温かい野菜スープを食べさせる。 落ち着いた彼に、 「アンタの話し聞いてもいいなら聞くし、嫌ならとにかくこのまま寝なさい」 和美は秋生をじっと見つめ、 「…洋一に、告白された」 「へ」 「好きだって」 「弟くんに?」 「ん‥‥」 「本気なの?」 「多分…ああいう冗談は言わない奴だし、キスしてきたし」 「あー…」 秋生は何とも言えない反応をする。 思春期の思い地がは男同士にはよくあることだ。 でも、彼の目は真剣だった。それを自分は拒否した。 和美は色々は感情がぐちゃぐちゃになり、再び泣いた。 秋生はティッシュじゃ足りないとおもい、タオルを差し出した。 和美はタオルを顔に当てる。 「拒否して、アイツを傷つけた…」 「あんたは?」 「……」 「アンタも好きなんでしょ?」 「そんなわけない」 「じゃなきゃ、そんなに悩まない」 秋生は人の大事な時は遠慮なんてしない。 そこが秋生のいい所だ。 「…好き」 素直につぶやく和美に可愛さを感じる秋生。 「だから、家を出たのに…忘れようとしたのに」 ただの同性の恋愛とは違う。 本当の兄弟だ。 けして許されない。 「いっそのこと、何もかんがえなければいいわよ」 「無理だよ、そんなの」 秋生の強引な結論に、和美は首を横に振る。 女々しく否定的なことばかりいう和美に、 「あんたがどんな結論を下しても、いいけどさ」 少し怒っていた。 「男だろうと女だろうと、人間いつ死ぬかわかんないのは一緒よ」 和美はびっくとする。 「それがたとえ禁断の恋だろうがなんだろうが。アンタが決めて後悔しないんならそれが一番よ。アンタは自分の為に生きてるんだから」 秋生はせつなそうな顔をしている。 同性を好きになり、苦しみ悩んで自ら命を経った仲間を、秋生はたくさん知っている。 和美にはそうなって欲しくない。 相手も自分が好きだといってくれているんだ。 兄弟だろうとなんだろうと、自分の気持ちを言うべきだ。 後悔だけはして欲しくない。 和美は涙を拭いて、 「秋生ってホントカッコいいわね」 「知ってる」 ふふっと笑い秋生は和美を自分のベッドに寝かせる。 久しぶりに眠ったのか、和美は深く眠ってた。 その寝顔を見つめつつ、 「ほんと…切ないわね」 言って和美の頭を撫でた。 数日後、 和美が仕事から帰ると、マンションのドアの前に洋一がいた。 「この間はごめん」 完全に落ち込んでいる。 「入って」 和美は覚悟を決めて洋一を部屋の中に入れた。 「この間は勝手にキスして、ごめん」 正座して洋一は謝罪した。 「でも、どうしても和美が俺を拒否するなんて思えなくて」 「どういう自信よ、それは」 すると洋一は、少しだけ照れながら、 「だって風呂上がりとかめちゃくちゃ、俺の裸見てたし」 「!!」 「距離近くても嫌がんなかったし」 「うぅ…」 「最初の女装褒めたらすごく嬉しがってたし」 それは否定できない。というか、全て当たっている。 自分が気持ち悪い。 それに恥ずかしい。 「俺のことが好きかどうかを、試して欲しい」 「…何を…?」 「抱かせて」 「…ばっ」 和美は赤くなり顔を背ける。 「バカ言うな。無理だそんなの」 「和美部屋でよく一人でシてたよね。あれって俺のこと考えながらしてた?」 「…っ、そんなわけ」 「和美」 洋一はそっと和美の顔を撫で、 「そんな顔で言っても説得力ないよ」 和美は、観念した。 ベッドの上で和美の服を脱がせ、キスして乳首を舐め回す。 「…っぐ」 和美は口を抑え、声を我慢する。それを見て洋一は彼の手を片手で押さえる。 「ち、ちょっと‥‥」 「声我慢しなくていいよ」 抗議する和美は放っておいて、洋一はまた彼の乳首を舐める。 「はあっ…ああっ」 これ以上無い色っぽい声が聞けて満足な洋一は、力の抜けた彼の腕から手を放し、そのまま和美のモノをしゃぶり後ろをイジり始める。 「あっ、あっ、はあん」 どんどん感じているのか、和美は声を出してヨガる。それを聞いて洋一はまた興奮する。 後ろに挿れて、ゆっくり抜き差しすると、 「もっと、動いてぇ」 言われたまらず、洋一は激しく腰を打ち付ける。 「はあっ、あっあっ…もっと奥までぇ」 キスをして全身愛撫してこれ以上無いくらい、和美を抱いた。 兄弟とか、男同士とかもうどうでも良かった。 好きな人と繋がる事が、こんなに嬉しいことなんて知らなかった。 洋一が気が付くと、また和美は泣いていた。嬉しそうに笑いながら、 「泣くなって」 「嬉し泣きだもん」 笑う洋一に、和美は涙でぐしゃぐしゃの顔を向けた。 生きててこんな嬉しかったのは初めてだった。 「またくるね」 一晩泊まって、洋一は玄関で和美に挨拶した。 「…後悔してない?」 和美は顔をそらし思いっきって聞いてみた。 洋一はフット笑い、和美の顔を自分の方に向け、 チュッとキスをした。 「もう一生離す気ないから」 「…うん」 和美は優しく笑った。 嬉しくて嬉しくて、これ以上無いくらい幸せだった。 本当の兄弟でも、愛し合えて幸せだった。 およそ1年間、恋人の様な秘密の関係を続けた二人。 そんなある日、 「和美ー?」 洋一は、和美の部屋のドアを開ける。 そこはもぬけの空だった。 「え…」 呆然とする洋一。 空になった部屋の真ん中に、一通の手紙が置いてあった。 洋一は正座になり、その手紙を震える手で開けた。 ーーーーーー洋一へ。 この一年間、ありがとう。 普通の恋人のような経験ができて、今までの人生で嬉しい時間だった。 もう、十分です。 あなたはどうか、普通の人生を歩んでください。 さようならーーーーーーー 洋一は手紙をぐしゃっと潰し、 「あいつ…」 きっと沢山悩んだんだろう。 何かを決意して、洋一はその場を去った。 半年後。 実は和美は自分に対する修行だといい、秋生の知り合いの店で働いていた。 自分の気持ちを整理する意味と、人間として自分を戒めるために。 今まで住んでいた場所からは2時間ほどしか離れていなかった。 でも場所は秋生に口止めしていた。 店の片付けをしている時、ガラッと誰か店に入ってくる。 「ごめんなさいー、もう閉店…」 ふとその人物を見ると、そこには洋一が立っていた。 和美は自分を探した執念に、観念してため息を吐いた。 「秋生に聞いたのね」 「問い詰めた」 洋一はすぐさま和美の胸ぐらを掴み、殴ろうと手を挙げるがその手が止まる。 殴られると思い目をつぶったが、殴られず和美は目を開けると、 洋一は泣いていた。 自分から離れた和美の行動にも、ずっと腹を立てていたが、それよりも離れる決断をした彼を止められなかった自分が、1番許せなかった。 洋一は和美を抱きしめ、 「もう会えないと思った…」 力強く抱きしめられ、和美も胸が一杯だった。 心のどこかでは、探してくれるんじゃ無いかと期待していた。 どうやら、もう観念するしかないようだ。 洋一は大事に優しく和美を抱いた。 離れていた時間を埋めるかのように。 和美は全力で答えた。 「賭けてたんだ、自分と」 さんざん抱き合って、裸のまま洋一は和美を抱きしめたまま毛布にくるまっていた。 「うん?」 「離れても、自分の気持ちが変わらないか、洋一の気持ちが変わるかどうか」 彼の胸に抱かれたまま、彼を見上げて、 「結局変わらなかった」 可愛く答える和美に、洋一は再びキスをする。 ぎゅっと、彼を抱きしめ、 「俺も変わらなかった」 和美の首にキスをしながら、 「もうこんな事させない」 「うん、ごめん」 洋一は今度は深く深くキスをした。 「一生秘密の恋になるよ」 「それでもいい」 今度は向かい合わせになって、キスをする。 「まあ、俺たちには秋生さんがついてるから、大丈夫だろ」 「確かに」 ふっと二人は笑い、 キスをしながら、ベッドに横になった。 数カ月後、 《修行》を終えた和美は元の店に戻っていた。 でも、経営者は後輩に任せたまま、自分は時々顔を出す程度にした。 「センパイなんか、雰囲気変わった?」 後輩に言われて、和美はふっと笑い、 「大人になったのよ」 「いくつですか(笑)」 ふふっと嬉しそうに笑う和美を見て、後輩は安心する。 (なんか前より幸せそうでよかった…) 店が終わって、秋生はふと店の前に立つ人物に気が付いた。 和美だった。女装はしていない。普段の男性の姿だった。 「あらどうしたの?今日お店は?」 「今日は休み」 「そう、私これから飲みに行くけど一緒に行く?」 秋生が誘うと、和美は首を横に振り、 「洋一と待ち合わせしてるから」 「あっそ、それはそれは」 ふんという秋生に和美は笑い、 「秋生に一言、伝えたくて」 「?」 秋生は今までとは違い、とてもしあわせそうな彼の顔をみてホッとする。 和美は秋生の手をギュッと握り、 「私もう逃げない。自分の人生を生きる。そう思えたのは秋生のおかげ」 「いや、そんなことは…」 「私も洋一も、秋生に感謝してる」 「…和美」 「味方でいてくれて、ありがとう」 その言葉に秋生は胸が一杯になり、和美をハグして柄にもなく泣き始める。 「もう、なによ!人がどれだけ心配したか!」 「ごめん」 誰よりも優しい秋生に何度も心配させた。 和美も泣き始める。 「人生って味方が一人でも居れば、頑張れるものなのね」 和美の力強い言葉に秋生は照れた。 二人が生きているだけで、それだけで十分だった。 「また店に来てね」 「うん」 言って遠くに向かいに来た洋一に駆け寄る和美。洋一はこちらにお辞儀する。 秋生は静かに手を振った。 あの2人は一生秘密の恋だけど、 誰が2人の人生に、口を出せるというのだろうか。 秋生は気を取り直して帰路につくのだった。 終。

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